猫のひたい

杏子の映画日記
☆基本ネタバレはしません☆

恋人たちの食卓

2021-10-08 22:19:42 | 日記
1994年の台湾・アメリカ合作映画「恋人たちの食卓」。

台北。一流ホテルの名シェフだったジュー氏(ラン・シャン)は、男手一つで
3人の娘を育ててきた。長女のチアジェン(ヤン・クイメイ)は高校の化学教
師、次女のチアチエン(ウー・チェンリン)は航空会社に勤めるキャリア・ウ
ーマン、3女のチアニン(ワン・ユーウェン)はアルバイトに忙しい大学生。
日曜日には家族全員が集まり、ジュー氏の作る豪華な料理を前に円卓を囲む
のがこの一家の習わしである。だがそれぞれに人生の悩みを抱える娘たちは、
父親の料理を前にしてもあまり気が晴れない。ある日曜日、次女のチアチエ
ンは父の味覚が衰えたと指摘し、ジュー氏は老いていく自分の変化に気づか
ざるを得なかった。

アン・リー(李安)監督による人間ドラマ。台湾の大都会、台北を舞台に人間
の生活、食、性、老いといったものを余すところなく描いている。冒頭から
ジュー氏が料理をしているシーンに引き込まれる。ホテルのシェフだけあっ
て魚や肉や野菜などを使って実に手際よく調理が行われる。手元のアップは
俳優の手ではなく本物の料理人なのだろうが、その包丁さばきは見事で、お
いしそう~と思ってしまい、そのシーンに圧倒される。何しろジュー氏は4
大中華料理の鉄人なのである(4大とは北京、上海、広東、四川料理)。家族
4人で食べるのにこんなに作るの?と思う程の大量の豪華な料理ができあが
っていく。いや絶対あんなに食べられないでしょ。
3人の娘たちは父と暮らすのが重荷になってきていた。ある日次女のチアチ
エンが「建築中のマンションを購入した。家を出ていく」と言い出す。また
ある日には末娘のチアニンが「彼氏の子供を妊娠したから、彼と一緒に暮ら
したい」と言って出ていく。娘たちの巣立ちを淋しく思うジュー氏だったが、
いつかはこんな日が来るものだとわかっていた。長女のチアジェンは自分が
父の面倒を見ると言う。しかしチアジェンにも気になる男性の影がちらつい
ていた。
悲しいシーンもあり、コミカルなシーンもありで、物語は柔らかくそしてテ
ンポよく進んでいく。人生ってこんなものだよね~と思わせられる。とにか
くジュー氏役のラン・シャンの演技が素晴らしい。穏やかな表情で初老の独
り身の男性の悲喜こもごもをよく表している。自分の老化を認めて、引き留
められながらもシェフを引退しようとするシーンは切ない。ジュー氏の親友
である料理長のエピソードもまた悲しい。娘たちそれぞれの恋愛関係もいい。
人間はああやって色んな出会いや運命の巡り合わせの中で生きていくんだろ
うな。ラストシーンが胸を打つ、いい映画だった。




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女は女である

2021-10-04 22:18:16 | 日記
1961年のフランス・イタリア合作映画「女は女である」。

書店に勤めるエミール(ジャン=クロード・ブリアリ)はキャバレーの踊り子
アンジェラ(アンナ・カリーナ)と一緒に暮らしている。ある日アンジェラが
突然、赤ちゃんが欲しいと言い出す。それも24時間以内に。2人は意見が
合わず、アンジェラは「それなら他の男に頼む」と言う。エミールは動揺す
るが、勝手にしろと答えてしまう。そこでアンジェラは、同じアパルトマン
に住むいつも自分にちょっかいを出してくるアルフレード(ジャン=ポール・
ベルモンド)に頼むと宣言する。

ジャン=リュック・ゴダール監督のコメディ映画。アンジェラは一緒に暮ら
している恋人のエミールがなかなか結婚しようとしないため、結婚するため
に赤ちゃんが欲しいと言い出す。エミールは一応その案に賛成はするが、ア
ンジェラの「じゃあ、結婚ね!」という言葉に「まだ妊娠してもいない」と
冷静に答える。では24時間以内に妊娠したいと言うアンジェラにエミール
は困惑する。そしてアンジェラは「あなたが嫌なら他の男に頼む」と言い出
し、エミールは承知せざるを得なくなってしまう。
あらすじをざっと書くととてもバカバカしい映画である。恋人と結婚したい
のはわかるが、恋人との子供でなくてもいいのだろうか。他の男との間に子
供を作って、そして結婚しようというのだろうか。それでもさして問題がな
さそうな会話に、これがフランス人の道徳観念?と笑ってしまう。エミール
はあまりにアンジェラが赤ちゃん赤ちゃん言うので腰が引けてしまい、2人
で街に出て、通りがかった紳士に「この子と寝てくれないか」などと声をか
け、「今は無理だ、忙しい」と断られたりする。フランス映画のセリフのお
もしろさは本当に絶妙。
彼らと同じアパルトマンに住んでいるアルフレードはしょっちゅうアンジェ
ラに声をかけていたが、アンジェラはいつもかわしていた。けれどもアンジ
ェラはこの際アルフレードでいいと思い、彼の誘いに乗り、ついに彼と寝て
しまう。とにかくユーモラスで粋な映画で、登場人物たちがいきなり画面の
方を向いて(観客に向けて)しゃべったりする。無意味な行動もたくさんある。
でもそれがおもしろいのだ。エミールとアンジェラがケンカをして、もう口
もききたくないとなり、お互い本の表紙に書いてある言葉で自分の心境を表
現し合うところなんか、なんてバカバカしいのだろうと思う。
アンナ・カリーナが赤いカーディガンのボタンを全部留めてセーターとして
着ていたのがかわいかった。他にも赤のチェックのスカートとかコートとか
髪型とか、60年代のファッションがとても魅力的。目の保養になる映画で
もある。ラストシーンもいいし、アンナ・カリーナのコケティッシュな魅力
が全開の映画だった。


良かったらこちらもどうぞ。ジャン=リュック・ゴダール監督作品です。
勝手にしやがれ
気狂いピエロ



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