あの頃、チエちゃん家には、5~6本の桃の木がありました。
わずかばかりの桃を収穫し、農協に出荷していたのです。
チエちゃんの家は山の中腹に建っており、母屋の東側に広がる畑は段々畑となっていました。
母屋と同じ並びの畑は、チエちゃんが物心つく以前には一面のタバコ畑でしたが、小学生の頃には、とうもろこしやきゅうり、スイカ畑となっていました。
一段上の母屋の屋根と同じ高さにある畑が桃畑でした。
もう一段上は、その時によって麦畑やジャガイモ畑となっていたように思います。(冬はここで凧揚げをした。それから、ここには杏の木が1本あった。)
桃も案外手間のかかる果物です。
根元へ施す肥料、春先の剪定作業、消毒、摘果、袋掛け(現在ではあまり見かけません)など、作業はたくさんあるのです。
チエちゃんは、毎年桃が生るのを楽しみにしていました。
それは、果物の中で、桃が一番好きだったからです。
おばあちゃんも桃が大好きで、ご飯代わりに食べていたほどです。
自分ちで採れるからこそできる贅沢というものでしょう。
一時期にたくさん取れるので、傷みやすい桃を砂糖で煮ると、桃の缶詰のようになり、これを冷やして食べるのも美味でした。
硬い桃がお好き方という方もいらっしゃるでしょうが、桃はやはり、程よく柔らかくなったものが甘味も増して、一番おいしいと思います。