JR小樽駅からバスで約25分、終点の「おたる水族館」で降り5分程歩くと、「鰊御殿」が頭上にのしかかるように迫ってくる。その構えは、御殿と呼ぶに相応しい豪勢なもので、「一航海千両」(現在の数千万円)の利を稼いだ往時の繁栄ぶりを物語る。
厳しい風雪に耐えるように太い柱や梁をふんだんに使い、親方・家族の部屋や漁夫の部屋、隠れ部屋等、当時の生活様式が現存されており、興味深い。
江戸時代、未懇地の蝦夷では米作不能で、松前藩の財政基盤を強化する政策として、商人に漁場開拓を請け負わせ、税金を取り立てた。武士の俸禄も米ではなく、魚介類で代用し「鰊」はその代表格だった。説明文に、「鰊は魚にあらず」として、「鯡」と書いたとあった。
鰊御殿から歩いて10分程の所に「小樽貴賓館」がある。
別名「旧青山別邸」と称され、鰊漁で巨万の富を築いた二代目青山政吉が、6年半の工期をかけて贅を尽くした建物だ。
今は、庭のシャクヤクを眺めながら食事が出来る商業施設として有名だ。
小樽観光は、華やかな運河の倉庫群やガラス工房、オルゴール館、或いは、石原裕次郎記念館等々と考えがちだが、鰊御殿や貴賓館を訪ねて、蝦夷地開拓の歴史の重みと奥深さに触れたい。本土との交流が、北前船での交易をベースに展開されたことを実感するのも旅の楽しみの一つと言えよう。