今年のヴェネツィア国際映画祭に正式出品された問題作です。海外では黒沢清の「Cloud クラウド」などよりも高い評価を得ているこの映画が日本ではいまひとつ不評なのは残念です(ことわっておきますが、ぼくは「Cloud クラウド」も大好きです)。
物語は近未来ものです。主人公は都立高校に通う3年生の仲良し5人組。ユウタと在日のコウは幼稚園からの幼なじみで離れられないバディともだち、そこにアタちゃん、黒人のトムと紅一点のミン(父親は中国人らしい)が加わる。かれらはそれぞれ個性豊かでときにはハメを外して校則や社会のルールを破ることもあります。しかし、決して不良なんかではありません。
ある日、いかにも強権的な校長先生の新車フェアレディZが学校の中庭に「2001年宇宙の旅」のモノリスみたいに地面に垂直に突き刺さったまま放置されているのが見つかります。激怒した校長は全校生徒に聴き取りをはじめ、犯人捜しに躍起となります。当然、日ごろから素行の悪い5人組が標的となる。そもそも自動車を地面に突き刺すという仕業は高校生にできるわけがないのですが、そこにケチをつけるのは野暮というものです。あくまで近未来映画らしいシュールな趣向だと楽しむことです。
いっぽうで、テレビに映し出された総理大臣(横死したA元首相がモデル?)が「憲法改正によって緊急事態条項が成立しました」と国会でぶち上げています。路上ではこれに反対する人びとがデモを行い、機動隊が容赦なく排除している。どうやら独裁政権が強権を振るって反政府デモを鎮圧しているのです。緊急事態条項とは戦前の戒厳令のことですから実は怖いのです。
学校では例の校長が校内の至るところに顔認証の防犯カメラを設置し、生徒の行動を完全に監視するシステムを導入します。あるいはまた、コウは警官に外国人登録証の提示を嫌がらせで求められます。警官がスマホをかざして顔を撮ると自動的に個人情報(在日)がわかるようです。マイナンバーカードと紐づけているのでしょうか。それどころか、自衛隊が学校にやって来て勧誘のため授業のひとコマをもらう。どうも世の中がおかしな方向に動き始めているのです。コウは担任の先生や同級生のフミに誘われて反政府デモに参加するようになる。いまを少しでも変えるために日常をただ享楽的に過ごしていてよいのか、声を上げるべきではないのか、少年たちは徐々に目覚めてゆくのです。こういう若者たちがいる限り、日本国もまだだいじょうぶなのかもしれません。
「反政府デモはテロだ」「憲法改正で自衛隊が国軍と認められれば徴兵制の復活もあり得る」・・・これはいずれも石破茂氏の過去の発言です。いま阻止すべき問題は足下にあるのです。
半世紀以上むかしに名画座でみた大島渚の反体制映画「日本春歌考」を思い出しました。伊丹十三扮する教師に引率されて大学受験のために上京した男女の高校生4人組に当時高校生だったぼくは大いに共感したのでした。
監督の空音央(そら・ねお)は米国生まれの映像作家でこれが長編デビュー作だそうです。映像も音楽のセンスもすこぶる優れているように見受けました。今後が大いに期待されます。(健)
監督:空音央
脚本:空音央
撮影:ビル・キルスタイン
出演:栗原颯人、日高由起刀、佐野史郎、中島歩、林裕太、シナ·ペン、ARAZI、祷キララ
物語は近未来ものです。主人公は都立高校に通う3年生の仲良し5人組。ユウタと在日のコウは幼稚園からの幼なじみで離れられないバディともだち、そこにアタちゃん、黒人のトムと紅一点のミン(父親は中国人らしい)が加わる。かれらはそれぞれ個性豊かでときにはハメを外して校則や社会のルールを破ることもあります。しかし、決して不良なんかではありません。
ある日、いかにも強権的な校長先生の新車フェアレディZが学校の中庭に「2001年宇宙の旅」のモノリスみたいに地面に垂直に突き刺さったまま放置されているのが見つかります。激怒した校長は全校生徒に聴き取りをはじめ、犯人捜しに躍起となります。当然、日ごろから素行の悪い5人組が標的となる。そもそも自動車を地面に突き刺すという仕業は高校生にできるわけがないのですが、そこにケチをつけるのは野暮というものです。あくまで近未来映画らしいシュールな趣向だと楽しむことです。
いっぽうで、テレビに映し出された総理大臣(横死したA元首相がモデル?)が「憲法改正によって緊急事態条項が成立しました」と国会でぶち上げています。路上ではこれに反対する人びとがデモを行い、機動隊が容赦なく排除している。どうやら独裁政権が強権を振るって反政府デモを鎮圧しているのです。緊急事態条項とは戦前の戒厳令のことですから実は怖いのです。
学校では例の校長が校内の至るところに顔認証の防犯カメラを設置し、生徒の行動を完全に監視するシステムを導入します。あるいはまた、コウは警官に外国人登録証の提示を嫌がらせで求められます。警官がスマホをかざして顔を撮ると自動的に個人情報(在日)がわかるようです。マイナンバーカードと紐づけているのでしょうか。それどころか、自衛隊が学校にやって来て勧誘のため授業のひとコマをもらう。どうも世の中がおかしな方向に動き始めているのです。コウは担任の先生や同級生のフミに誘われて反政府デモに参加するようになる。いまを少しでも変えるために日常をただ享楽的に過ごしていてよいのか、声を上げるべきではないのか、少年たちは徐々に目覚めてゆくのです。こういう若者たちがいる限り、日本国もまだだいじょうぶなのかもしれません。
「反政府デモはテロだ」「憲法改正で自衛隊が国軍と認められれば徴兵制の復活もあり得る」・・・これはいずれも石破茂氏の過去の発言です。いま阻止すべき問題は足下にあるのです。
半世紀以上むかしに名画座でみた大島渚の反体制映画「日本春歌考」を思い出しました。伊丹十三扮する教師に引率されて大学受験のために上京した男女の高校生4人組に当時高校生だったぼくは大いに共感したのでした。
監督の空音央(そら・ねお)は米国生まれの映像作家でこれが長編デビュー作だそうです。映像も音楽のセンスもすこぶる優れているように見受けました。今後が大いに期待されます。(健)
監督:空音央
脚本:空音央
撮影:ビル・キルスタイン
出演:栗原颯人、日高由起刀、佐野史郎、中島歩、林裕太、シナ·ペン、ARAZI、祷キララ