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「若き見知らぬ者たち」(2024年 日本・フランス・韓国・香港映画)

2024年11月06日 | 映画の感想・批評
 自主映画として制作した「佐々木、イン、マイマイン」(2020年)が国内のみならず海外の映画祭でも評価を得た内山拓也監督の、商業長編デビュー作である。フランス・韓国・香港との共同制作で、各々の国や地域での配給が決まっている。
 風間彩人(磯村勇斗)は亡父の亮介(豊原功補)が遺した借金を返済するために、昼は工事現場で、夜は両親が開いたカラオケバーで働き、自宅と仕事場を自転車で往復するのがほぼ総ての毎日を送っている。自宅では難病を患い、認知機能が衰えている母の麻美(霧島れいか)の介護が待っている。同居の弟・壮平(福山翔大)も借金返済と母の介護を担いながら、総合格闘技の選手として日々練習に明け暮れている。彩人の恋人・日向(岸井ゆきの)は看護師として夜勤もこなしながら、彩人の家に通っては家事や介護をサポートしている。
 ヤングケアラーという言葉に接する機会が最近増えている。この言葉に法律上の定義はないが、日本ケアラー連盟では「家族にケアを要する人がいる場合に、大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情面のサポート等を行っている18歳未満の子ども」と定義。ヤングケアラーは家族の問題を隠そうとするため、周囲の人々はその存在に気付きにくい。ましてや行政や福祉に頼れない頼らない生活は、日々困窮の度合を増していく。本作は、ヤングケアラーにスポットを当てるという内山拓也監督の強い意志を感じる作品である。
 冒頭、タイトルが出る直前のシーンに驚く。自転車で通勤中の彩人が自らのこめかみを拳銃で撃ち抜く。彩人の心象風景なのか、或いは未来の予兆なのか、青空をバックにしたこのシーンは強烈だ。彩人の親友の大和(染谷将太)の結婚を祝う会の夜、理不尽な暴力と公権力の暴力によって、このシーンは呆気ないほどに現実となる。
 内山拓也監督と主演の磯村勇斗、岸井ゆきの、染谷将太は共に1992年生まれである。偶然だろうか、同世代の仲間が集まって熱量があふれる現場だったのではと想像がふくらむ。
 磯村勇斗は数々の作品で振れ幅の大きな役柄に挑戦し、作品毎に新しい魅力をみせてきた。彩人の腫れぼったい疲れた顔と佇まいは、自らの運命を引き受けて生きてきた人物そのもの。感情を表に出さない岸井ゆきのの静かな存在感も素敵だ。
 作品全体を通して、残念ながら説明不足で分かり辛いところがあるのは否めない。一方で大和の言葉「人間なんて不確かなもの、だから信じるんです」は作品全体を包み込んでいく。彩人亡き後、弟の壮平はタイトル戦で勝利し(この試合場面は迫力満点のシーン)日向は変わらず彩人の家に通っている。ある日の食卓で、母の麻美がほんの微かに笑ったように見えた。傍らの日向もそっと自分のお腹に手を置き、静かに微笑む。食卓に飾られた彩人の写真は見たことのない笑顔である。(春雷)

監督・原案・脚本:内山拓也
撮影:光岡兵庫
出演:磯村勇斗、岸井ゆきの、福山翔大、染谷将太、伊藤空、長井短、東龍之介、松田航輝、尾上寛之、カトウシンスケ、ファビオ・ハラダ、大鷹明良、滝藤賢一、豊原功輔、霧島れいか


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