「えっ、母さんの命があと1週間しかない?!」突然家族に降りかかった紛れもない事実。確かに徴候はあった。物忘れがひどくなり、大事な席で突然意味不明の独り言をつぶやいたり、身近な人の名前を間違えたり…。「母さんをそう簡単に死なせてなるものか!!」病院で脳腫瘍だと診断された時、それぞれバラバラだった男たちが、一つになって動き出す。
ぼくたちの家族を紹介しよう。長男・浩介に妻夫木聡。真面目すぎて、中学時代は引きこもってしまったこともあるが、今は結婚して独立し、もうすぐ子どもも生まれる。この窮地には長男として家族を背負って頑張らなくては、という思いが痛々しいほど伝わってくる。二男・俊平には期待の若手俳優、池松壮亮。気楽な留年生活を送っている大学生で、家族のことには無関心だったが、そのフットワークの良さが意外な展開を導くことに。父・克明には長塚京三。小さな会社の社長だが、会社は火の車。見栄っ張りで、父親らしく生きようとはしているが、どこか空回り。おそらくバブル時代に多額のローンを組んで、東京郊外にちょっと立派なマイホームを建てたのだろう。この人ならと頷ける。母・玲子に原田美枝子。病状が進むにつれ少女のように純真になり、本音を次々語りだすところは実に痛快。そこでこの家族の真の姿が浮き彫りになってくるのだが、それぞれ問題を抱えながらもやはり一つの家族。「こういう時は、笑おうよ。」が口癖の、ぼくたちの母さんがみんな大好きなんですね。
この素晴らしい俳優たちの名演を得て、「家族とは何か?」というテーマに「これは自分自身の話だ」と受け止め、果敢に挑戦したのは、昨年「舟を編む」で数々の賞に輝いた石井裕也監督。実は小生も夫婦と息子2人の4人家族。年恰好もよく似ているので他人事のように思えなかった。はたしていざという時、息子たちはこんな風に動いてくれるかなあ…。
(HIRO)
監督、脚本:石井裕也
撮影:藤澤順一
出演:妻夫木聡、原田美枝子、池松壮亮、長塚京三、黒川芽以、ユースケ・サンタマリア、鶴見辰吾