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太秦ライムライト(2014年日本)

2014年07月01日 | 映画の感想・批評
 

 その他大勢、名無しの浪人であったり、侍であったり、映画やTVに登場すると、主人公に斬りかかり、ある時は剣も交えずあっという間に斬り殺され、時には剣を交えるも最後には斬り倒される。時代劇の立ち回りはそんな存在がいてドラマを盛りたてる。
 普通ならスポットライトは当たらない、そんな斬られ役一筋に生きてきた俳優が注目されている。その人の名は“福本清三”。あのトム・クルーズが主演したハリウッド映画「ラスト・サムライ」にも請われて出演した。斬り役との間(ま)と距離、どうすれば迫力ある殺陣を見せられるか、その工夫と技が世界に認められたのだ。しかし最近ではお茶の間から時代劇が消えてしまい、あの独特の斬られる型“海老反り”を見ることが出来なくなった。
 本作は“5万回斬られた男―福本清三”の初主演映画である。自分は主役をやるような俳優ではないと断り続けていたが、製作・脚本の大野裕之の熱心な要請にようやく引き受けたという。映画を見ているうちに福本清三をモデルにした主人公の香美山清一の、どんどん打ち切られていく時代劇の現場を何とか残したいという思いと、福本清三本人の時代劇の文化を残さなければという思いがダブってくる。一つのことをひたむきに励んできた男の顔に刻まれた深い皺がカッコいい。
 チャップリンの「ライムライト」の老道化師は、励まし続けてきたバレーの踊り子の晴れ舞台を見ることなく息を引き取る。一方「太秦ライムライト」の香美山は、引退して郷里で暮らしていたが、かつて殺陣の稽古をつけた愛弟子のさつきが時代劇で大役を掴み、彼女のために斬られ役として撮影に戻って来る。
 かつては百人を超す俳優が所属していた京都の東映太秦撮影所だが、今その数は激減している。しかし先日TVで最近新人が入って来たと報道されていた。次代に時代劇の灯を繋ぎ、彼らの活躍の場がなくならなければいいなと思う。(久)

監督:落合賢
脚本:大野裕之
撮影:クリス・フライクリ
出演:福本清三、山本千尋、本田博太郎、合田雅吏、萬田久子、小林稔侍、松方弘樹