シネマ見どころ

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「観相師」(2013年韓国映画)

2014年07月21日 | 映画の感想・批評
 15世紀中葉の李氏朝鮮、ひなびた寒村にくたびれ果てたようなやもめ男(観相師)が17歳になる倅と亡き妻の弟の三人でひっそり暮らしている。ところが、人相を見て人物やその将来を言い当てる才能を買われ、義弟とともに都に呼び寄せられたことがきっかけで彼らの運命の歯車が徐々に狂っていく。とにかく波瀾万丈の物語だ。
 病を得た国王(文宗)は年端もいかない王子の行く末を案じ、万一王位を継承したあと王族の中に謀反を企てる者はいないかを観相師に探らせる。自分が生きているうちにその芽を摘んでおこうというわけだが、下心があると見られていた王の実弟(首陽大君)もその器でないと判断した観相師の報告に、王は安堵して薨去するのである。
 ところが、である。実はこの実弟の首陽大君という男がとんでもない悪いやつで、まんまと観相師はかつがれて、王権を簒奪しようと目論むこの男の策略で政争の真っ直中に引きずり込まれてしまうのである。
 それにしても、李氏朝鮮の歴史は隣国の中国における政争と似て血なまぐさい。わが国でいえば戦国武将たちの下克上、あるいは肉親間の骨肉相はむような惨状が朝廷の内部に持ち込まれたようなものだと思えばよい。本朝では暗殺された可能性のある天皇はいても、おおっぴらに天皇を葬り去ろうとした事件は中世以降ないのではないか。
 というわけで、首陽大君(のちの国王世祖)のクーデターが成功することは朝鮮史をひもとけば容易に知見できる史実である。映画には描かれないが、亡き国王の忘れ形見である少年王(端宗)はやがてこの悪辣な叔父によって配流され毒殺されたらしい。おまけに、結局のところ、権力争いは庶民を巻き込んで多大の犠牲を強いるのである。観相師の身に起きる悲劇は、いつの時代、どの国にあろうとも戦火によってわが子を奪われる親たちを象徴しているように思われた。(ken)

原題:관상
監督:ハン・ジェリム
脚本:キム・ドンヒョク、ハン・ジェリム
撮影:ゴ・ナクソン
出演:ソン・ガンホ、イ・ジョンジェ、ベク・ユンシク、チョ・ジョンソク、キム・ヘス