シネマ見どころ

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「アメリカン・スナイパー」 (2014年 アメリカ映画)

2015年05月01日 | 映画の感想・批評
 冒頭、いきなりの戦闘シーン。ここは戦渦に巻き込まれたイラクの街の中。少年が出てきた。続いて母親らしき姿も。どうか何も起こらないでほしい・・・という願いも空しく、武器を持っていることがわかるや否や二人は容赦なく射殺される。一人のスナイパーの手によって。
 もはや巨匠という名がふさわしいクリント・イーストウッド監督が「ジャージー・ボーイズ」に続いて挑んだのは、米軍史上最多160人もの敵を射殺したという伝説のスナイパー、クリス・カイルの半生を描いた実話だ。
 2003年より始まったイラク戦争。何と彼は4回に渡り遠征を繰り返す。愛する家族がいて、良き父親でありたいという願いを持ちながら、何が彼を戦場へと駆り立てたのか。戦争というものが生み出す狂気と複雑な人間心理を、息もつかせない緊迫感の中で描いたイーストウッド。その手腕はやはり只者ではない。
 クリスを演じるのは原作「ネイビー・シールズ最強の狙撃手」が気に入り、自らプロデューサーとして映画化権を獲得したブラッドリー・クーパー。そして愛する妻タヤにはシェナ・ミラーが当たった。二人は実際にクリスの家族に会って話を聞いたり、スナイパー用の訓練を受けて肉体改造をするなど役作りに専念。そのなりきりぶりは実際の二人の写真と見比べて見てもよくわかる。全くそっくりなのだ。
 脚本完成後間もなく、なんとクリス・カイル本人が狙撃練習場で殺されるという事件が起きる。相手はPTSD(心的外傷後ストレス障害)を患っていたという元兵士。クリスが仲間として手を差し伸べようとしていたところだった。軍のセオリーに従い執り行われた葬儀。そこには「おみおくりの作法」で描かれていたような奇跡もなく、ただ言い様のない沈黙がエンドロールへと続くのみであった。
 (HIRO)

原題:AMERICAN SNIPER           
監督:クリント・イーストウッド
脚本:ジェイソン・ホール
撮影:トム・スターン
出演:ブラッドリー・クーパー、シェナ・ミラー、ジェイク・マクドーマン、サミー・シーク