
1984年のイギリス。保守党を率いる「鉄の女」といわれたサッチャー首相が不況対策の一環として複数の炭鉱閉鎖を決め、これに抗議する炭鉱労働組合のスト活動に対して力で押さえ込むという強硬手段に出ていた。警官隊に殴られる炭鉱労働者の姿を何気なくテレビ・ニュースで見ていた若者は自分たちも何か手伝えることはないかと考える。その日はたまたまゲイ解放を訴えるパレードがロンドンで大々的に行われる日で、この若者も実はゲイ・リブの活動家のひとりだったものだから、仲間たちに「デモをやっている場合じゃない。炭鉱労働者が官憲に虐められているのは俺たちと同じだ。何か支援しよう」と呼びかけるのだ。そこへこれまた偶然に20歳になったばかりの若者ジョーが家族には内緒でパレードの見物に来て、ちょっとしたはずみから、その活動に巻き込まれてしまう。
それで、かれらはLGSM(炭坑を支援するレズビアン&ゲイの会)というグループを立ち上げて街頭募金をはじめ、集めた資金を炭鉱労働者の組合に寄付しようとするのだが、何しろ炭鉱労働者といえばマッチョ志向が強い人々だから、ゲイの団体と聞いて生理的な嫌悪をあらわにするのだ。そういう人々との連携の模索、確執、相互理解、再び決裂、和解の紆余曲折がまさにアウフヘーベン(正反合)の要領で描かれるのである。
ウェールズの炭鉱町の集会所に集う老若男女のうち、いち早く若者らの真摯な支援活動を受け容れ、かれらに寄り添おうとするのが女性たちだというところも頷ける。炭鉱を陰で支える女性たち、たとえばゲイの連中とすっかり仲良くなったおばあちゃんがレズの女の子の二人組に真顔でその関係を興味津々に聞くのも笑わせるし、亭主の偏見に真っ向から異議を唱えてやがてシンパに変える若き女闘士とか、差別意識に凝り固まった良妻賢母の典型のような未亡人を罵る中年の女傑など、いずれも元気で威勢がよい。
そうして、ラストの意外な展開が大いなる感動をもたらすこと請け合いだ。なにしろ、実話の映画化だから、「よく出来た話」ではないところがミソである。(健)
原題:Pride
監督:マシュー・ウォーチャス
脚本:スチーブン・ベレスフォード
撮影:タト・ラドクリフ
出演:ビル・ナイ、イメルダ・スタウントン、ドミニク・ウェスト、バディ・コンシダイン、ジョージ・マッケイ