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「三度目の殺人」 (2017年 日本映画)

2017年10月11日 | 映画の感想・批評


 カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞した「そして父になる」から4年。今や世界中から注目される是枝裕和監督が、今度はヴェネチア国際映画祭のコンペティション部門に正式出品。惜しくも受賞は逃がしたが、原案、脚本、編集のすべてに携わった、観るものの心を大きく揺さぶる、これぞ是枝ワールドといえる作品が、ここに誕生した。
 「そして父になる」「海街diary」「海よりもまだ深く」と、近年家族をテーマにした作品が続いた是枝監督だが、今回挑戦したのは心理サスペンス。裁判で勝つためには真実は二の次と割り切るクールな弁護士・重盛に福山雅治。解雇された工場の社長を殺した容疑で起訴された得体のしれない不気味な男・三隅に役所広司。「本当のこと」を巡り、最大のキーパーソンとなる被害者の娘・咲江に広瀬すず。すべてがわかっている是枝監督に見事な演技で応えた三人だが、観客同様、真実はこの三人にも明らかにされていなかったというから面白い。
 ほとんどの映画やドラマでは「真実」が設定されていている中でストーリーが進んでいくのだが、この作品はそうではない。話が進むにつれて真実は逃げ去り、すべてが観るものの判断に委ねられる。「真実」というものは結局当事者しか知らないものなのだということを、法廷における検事・弁護士・裁判官の法曹三者のやり取りの中でも否応なく感じさせてくれる。すべて人間の仕業であり、「神の視点」ではないということを。
 それでも気になるのは、題名にもなっている「三度目の殺人」が画面の中には全く出てこないこと。三隅には30年前に北海道で起こした強盗殺人の前科があり、今回も真実であるならば二度目となるのだが・・・。美しいシネスコ画面の雪の中、赤い血しぶきが三人のほおに同じように降りかかる。自分はこの意味深長なシーンから「三度目の殺人」とは一体何なのか考えてみた。
 (HIRO)

監督:是枝裕和
脚本:是枝裕和
撮影:瀧本幹也
出演:福山雅治、役所広司、広瀬すず、斉藤由貴 吉田綱太郎、満島真之介、市川実日子、橋爪功