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君の名前で僕を呼んで(2017年イタリア、フランス、ブラジル、アメリカ)

2018年05月09日 | 映画の感想・批評


 昨年ノーベル文学賞(今年はセクハラ疑惑のあおりで受賞が見送られたが…)を受賞したカズオ・イシグロの「日の名残り」の監督ジェームズ・アイヴォリーが、本作で本年度アカデミー賞脚色賞を受賞した。結果は残念だったが、エリオ役のティモシー・シャラメも主演男優賞にノミネートされ、史上最年少受賞を期待されていた。
 1983年夏、北イタリアの避暑地。17歳のエリオは、大学教授の父の助手で、アメリカからやってきた24歳のオリヴァーの自信に満ちた態度に反発を感じながらも、次第に惹かれていく。オリヴァーもまた、年の割には大人びたエリオに惹かれていく。自分の感情に戸惑いながらもオリヴァーへの気持ちを隠せず、ついつい態度に出てしまうエリオに比べ、オリヴァーはエリオを傷つけまいと普通に接しようとする。それでもまるで磁石のように引かれたり、反発したりしながら、2人は恋に落ちていく。
 エリオの両親の2人への接し方がいい。エリオとオリヴァーの感情に気づきながらも、2人を遠ざけようとしない。夏が終わりアメリカに帰る日が近づいたオリヴァーを送りがてら2人で旅行することになるが、むしろいい思い出になると喜んでくれる。また、エリオか帰ってきた時に父親が自分の若い頃の思いを息子に語るシーンがある。同性を好きになることを非難したり否定しないで、人を愛することを知った息子に温かい言葉をかける、こんな父子関係ってなんて素敵なのだろうと思った。
 この父親のセリフがあってこそ、オリヴァーへの恋心を昇華させようとしてラストのロングショットでみせるエリオの表情が生きてくる。主演男優賞ノミネートもうなずける。
 映画を見ながら旅先のチェコでのある光景を思い出していた。プラハから東へ65㎞のクトナー・ホラという小さな都市に、内部が4万人の人骨で飾られた墓地教会(納骨礼拝堂)がある。せっかく訪れたが中に入る勇気がなく入口前にたたずんでいると、2人の男性が教会から出てきた。2人ともとても美男子で明らかに恋人同士だとわかる雰囲気を漂わせていた。「君の名前で…」でいえばエリオタイプの繊細そうな彼が教会の見学で少し色を失っているようなのを、オリバータイプの彼が優しく気遣っていた。あれから7年の歳月が流れたが、2人にはエリオとオリヴァーのような別離が訪れていなければいいのだが…。
 4月28日から2週間だけだが、幼なじみの少年たちを描いたアイスランド映画「ハートストーン」が京都シネマで上映されている。思春期にさしかかり美少女に夢中になるソールを応援しながらも、内に秘めた親友への特別な感情に気づき当惑するクリスティアン。こちらも2人の美少年が主人公だが、「君の名前で…」よりも辛いラストを迎える。南欧と北欧では太陽の日差しが違うように、映画の空気感にもこれほど差があるのかと思ってしまった。(久)

原題:Call Me By Your Name
監督:ルカ・グァダニーニ
脚色:ジェームズ・アイヴォリー
原作:アンドレ・アシマン 「君の名前で僕を呼んで」
撮影:サヨムブー・ムックディープロム
出演:ティモシー・シャラメ、アーミー・ハマー、マイケル・スタールバーグ、アミラ・カサール