シネマ見どころ

映画のおもしろさを広くみなさんに知って頂き、少しでも多くの方々に映画館へ足を運んで頂こうという趣旨で立ち上げました。

「検察側の罪人」(2018年日本映画)

2018年09月05日 | 映画の感想・批評

 
 このタイトル、クリスティの名作(ビリー・ワイルダーの秀作「情婦」の原作)をもじっているのだろうが、意味深長である。
 検察の正義とは何か。そもそも正義を実現して、罪人に相応の償いをさせるとはどういうことか。オウム真理教の死刑囚がまとめて死刑執行されたことで、死刑に対する関心が一時的に高まり、海外メディアもこれを取り上げた。西側先進国で毎年死刑を執行し続けているのは日本とアメリカのみ(!)。国連から人権侵害だと勧告を受けているのはご存知だろうか。そういう希有な国の国民として、正義や刑罰について考えさせられる。
 肩書きがつくまで間近な中堅検事(最上)と、研修でその薫陶を受けた新任検事(沖野)がコンビを組む。そうして、まだ若い女性検察事務官(橘)が加わり、折しも発生した金貸しの老夫婦殺人事件を担当することとなる。容疑者として老夫婦に借金のある連中がリストアップされ、事件当日のアリバイ崩しからスタートするが、残った数人のリストを見た最上は呆然となる。そばにいた沖野と橘が最上の尋常では無い反応を気づかぬわけがない。沖野の「どうかしましたか」の問いかけに、目を開けたまま眠っていただけだ、と白々しい言い訳をするのだ。
 リストに上がっていたひとりの容疑者に異常なほど固執する最上に違和感を覚えながらも、自白を引き出すために努力を重ねる沖野。しかし、橘の調査によって最上とその容疑者の知られざる過去が明らかになり、沖野の最上に対する不信感が募るのである。
 主要な筋書きに加えて、この映画にはいくつかのサイドストーリーが用意されていて、それが成功しているかどうかは微妙だが、この作品に膨らみを与えているのは事実だろう。
 そのひとつに、最上の祖父とかれの便利屋的存在である謎の男の亡父がインパール作戦に参加していたというエピソード。もうひとつは、最上の大学の同期が国会議員となっていて、政界スキャンダルに巻き込まれるという話。スキャンダルの裏には戦前回帰を目論む右翼団体が絡んでいるというもの。私は思わず安倍政権を支える日本会議という団体を想起してしまったが、その目的は歴史認識を改めポツダム体制を白紙に戻そうとする奸計である。あえて、こういう話を持ち出すところに、原田監督の社会的・政治的関心の強さを読み取らざるをえず、政治的立場を異にする人には不快だろうが、私は大いに共感した。
 沖野に扮した二宮和也が奮闘し、便利屋の松重豊が独特の雰囲気を醸し出しているのがいい。(健)


監督・脚本:原田眞人
原作:雫井脩介
撮影:柴主高秀
出演:木村拓哉、二宮和也、吉高由里子、松重豊、平岳大