冒頭のタイトルから、いい映画というものはその予感を抱かせる。まさにこの映画はそういう映画だ。
世界は悪意に満ちている、と大衆週刊誌の記者はつづる。かれが偶然バスの中で遭遇したのが、老人や妊婦がいればやさしく声をかけて席を譲る高校生町田くんの姿だ。
町田くんは5人きょうだいの長男で、父は海外に長期出張しているらしく、留守を守る母親のお腹には6番目の子どもが宿っている。地元の高校に通う町田くんは誰に対しても分け隔てなく誠実に接し、他人のためなら何ひとつ厭わず救いの手を差し伸べる。だから、神さまみたいな存在なのでキリストとあだ名されている。かれがこうなのは両親の育て方にあるのだろう。久しぶりに帰国した父親が町田くんを思いっきり抱きしめる愛情の表し方でそれがわかる。
美術の授業中に彫刻刀で手を負傷した町田くんは保健室でクラスの女の子と出くわす。かの女は人間不信で人と交わらず世の中に背を向けて、学校では保健室を逃避場所にしているのだ。町田くんの善意がこの女の子の心を開かせたばかりか、周囲の連中を巻き込み、やがて善意の輪が拡がっていくさまが寓話的に描かれる。
そのサイドストーリーがくだんの記者のエピソードだ。かれは有名女優の不倫をスクープして名を挙げようと日夜励んでいるのだが、ジャーナリストとして本当にこれがやるべきことかと内心葛藤がある。そのかれがバスの中の町田くんを見て正義心、良心を取り戻して再生するのである。
町田くんは自分より他人が大切で、何事も手を抜かず一所懸命だ。同級生から見ると、ダサイのひとことにつきる。平成という時代は一所懸命さや誠実さや地道にコツコツがバカ正直と映り、適当に涼しい顔をしてものごとをこなすのがカッコイイとする風潮だったと、この映画は言っているように見える。
一所懸命に生きよ。想像力を働かせて他人に共感せよ。わからないことから逃げるな。この映画が発するメッセージに、私は思わず「そうだ、そうだ」とうなづいた。
そうして、町田くんは初めて特定の人を恋しく思い、かの女のためなら命をかけてもいいと思う男の子に成長するのだ。
狂言回しとして登場する前田敦子と池松壮亮がいい味を出していた。(健)
監督:石井裕也
原作:安藤ゆき
脚本:片岡翔、石井裕也
撮影:柳田裕男
出演:細田佳央太、関水渚、岩田剛典、高畑充希、前田敦子、池松壮亮
世界は悪意に満ちている、と大衆週刊誌の記者はつづる。かれが偶然バスの中で遭遇したのが、老人や妊婦がいればやさしく声をかけて席を譲る高校生町田くんの姿だ。
町田くんは5人きょうだいの長男で、父は海外に長期出張しているらしく、留守を守る母親のお腹には6番目の子どもが宿っている。地元の高校に通う町田くんは誰に対しても分け隔てなく誠実に接し、他人のためなら何ひとつ厭わず救いの手を差し伸べる。だから、神さまみたいな存在なのでキリストとあだ名されている。かれがこうなのは両親の育て方にあるのだろう。久しぶりに帰国した父親が町田くんを思いっきり抱きしめる愛情の表し方でそれがわかる。
美術の授業中に彫刻刀で手を負傷した町田くんは保健室でクラスの女の子と出くわす。かの女は人間不信で人と交わらず世の中に背を向けて、学校では保健室を逃避場所にしているのだ。町田くんの善意がこの女の子の心を開かせたばかりか、周囲の連中を巻き込み、やがて善意の輪が拡がっていくさまが寓話的に描かれる。
そのサイドストーリーがくだんの記者のエピソードだ。かれは有名女優の不倫をスクープして名を挙げようと日夜励んでいるのだが、ジャーナリストとして本当にこれがやるべきことかと内心葛藤がある。そのかれがバスの中の町田くんを見て正義心、良心を取り戻して再生するのである。
町田くんは自分より他人が大切で、何事も手を抜かず一所懸命だ。同級生から見ると、ダサイのひとことにつきる。平成という時代は一所懸命さや誠実さや地道にコツコツがバカ正直と映り、適当に涼しい顔をしてものごとをこなすのがカッコイイとする風潮だったと、この映画は言っているように見える。
一所懸命に生きよ。想像力を働かせて他人に共感せよ。わからないことから逃げるな。この映画が発するメッセージに、私は思わず「そうだ、そうだ」とうなづいた。
そうして、町田くんは初めて特定の人を恋しく思い、かの女のためなら命をかけてもいいと思う男の子に成長するのだ。
狂言回しとして登場する前田敦子と池松壮亮がいい味を出していた。(健)
監督:石井裕也
原作:安藤ゆき
脚本:片岡翔、石井裕也
撮影:柳田裕男
出演:細田佳央太、関水渚、岩田剛典、高畑充希、前田敦子、池松壮亮