本年度のアカデミー賞、作品賞は惜しくも「パラサイト」にさらわれたが、見事3部門(撮影賞、録音賞、視覚効果賞)を受賞した話題作。そのどれもが納得と思える究極の完成度だ。「アメリカン・ビューティ」で鮮烈な映画監督デビューを果たしたサム・メンデスが、実際に第一次世界大戦に従軍していた祖父から聞いた体験談をもとに、初めて脚本も手がけた渾身の一作。その最大の見どころは、見る者が戦場の最前線を主人公の兵士とともに走り抜けるという感覚を持てるように、最初から最後まで一つにつながって見えるという驚異の映像体験だ。
物語は極めてシンプル。ドイツ軍の策略により全滅の危機にさらされた友軍1600人の命を救うために、伝令のミッションを与えられた二人の若き英国兵士が、危険な罠や敵の残留兵が潜む大地をひたすら突き進んでいくというもの。その姿を360度のカメラワークを駆使し、全編ワンカットで映し出すというのだから、その緊迫感や臨場感は並大抵ではない。兵士たちの不安や息づかいまでがまるで自分のことのように感じられ、滝から飛び降りるところや飛行機の墜落シーン、爆破された塹壕から抜け出すシーンなどでは思わず大声を出して叫んでしまいそうになる。
いったいどうやって撮影したのだろうと思えるシーンをいっぱい提供してくれたのは、アカデミー賞に14回もノミネートされたという撮影監督ロジャー・ディーキンス。ワンカットの映像と言えば「カメラを止めるな」が話題になったが、今作とは次元が違う。カメ止めの揺れ動くカメラワークも楽しいのだが、デジタル処理がされているとはいえ、今作はカメラの動きやスピード、俳優の位置やセリフ、そして天候やセット等、すべての要素の詳細にまでこだわり、綿密に計算されてできあがった、完璧なワンカット映像なのだ。これは見事としか言いようがない。
主人公の兵士二人を演じるのはジョージ・マッケイとディーン=チャールズ・チャップマンという注目の若手俳優たち。さらに二人を支えるかのようにコリン・ファースやベネディクト・カンバーバッチ等、イギリスを代表するスターたちが上官をかっこよく演じている。
“美”にもこだわる舞台監督出身のサム・メンデス。「アメリカン・ビューティ」ではバスルームを薔薇の花でいっぱいにしたが、今回は戦場を桜(チェリー)で飾る。燃えさかる街の教会の炎や駆け抜ける地雷原の緑、そして忠実に再現された第一次世界大戦を戦った兵士たちの軍服姿や佇まい。こんなに美しい戦争映画を初めて見た。
(HIRO)
原題:1917
監督:サム・メンデス
脚本:サム・メンデス、クリスティ・ウィルソン=ケアンズ
撮影:ロジャー・ディーキンス
出演:ジョージ・マッケイ、ディーン=チャールズ・チャップマン、マーク・ストロング、アンドリュー・スコット、リチャード・マッデン、コリン・ファース、ベネディクト・カンバーバッチ