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「パーム・スプリングス」(2020年 アメリカ)

2021年04月14日 | 映画の感想・批評

 
 私にはあまり馴染みがない人だが、製作・主演のアンディ・サムバーグはもともとテレビの人気ドラマ「ブルックリン・ナイン・ナイン」でゴールデン・グローブ賞の最優秀主演男優賞をとるなど、お茶の間の人気者らしい。映画でもすでに何本か主演しているという。それで、この映画はしゃれた都会派コメディとかロマンチックコメディなどを期待すると恐らく失望するだろう。ドタバタとはいわないが、そこまで行かない程度のハチャメチャコメディといえばよいか。
 舞台はカリフォルニアの砂漠のリゾート地パーム・スプリングス。まずもって、砂漠に不可解なヤギが現れるという意表をついたオープニングに続いて、とある邸宅の寝室に場面転換し、ベッドで眠る若者ナイルズがガールフレンドのミスティに起こされ、「時間がないから早くして」と殆ど機械的な濡れ場となるのだけれど、ムードも何もあったものではないから途中で時間切れとなるという下ネタで始まる。場面は結婚式に移り、司会役のミスティが新婦の姉ながら気乗りのしないサラに祝辞をふる。なぜかもたもたしているサラ(これが後述する重要な伏線となる)を尻目に突然ナイルズがマイクを奪い取り、キザなスピーチを始めると、一同がうっとりとするというギャグはスチーヴ・マーチンを彷彿させ、すべってしまうのは致し方ないか。
 そろそろ披露宴に退屈したナイルズとサラは、誰彼かまわず浮気するミスティの淫乱ぶりに呆れて砂漠に抜け出し、さあこれからちょっとロマンチックな気分となってきわどい雰囲気になろうというそのとき、忽然と現れた黒ずくめの覆面男がナイルズに矢を向けて射る。逃げ切れなくなって射貫かれたナイルズが倒れる・・・はっと目覚めるベッドのナイルズを起こすミスティ・・・ファーストシーンの再現。
 映画はこうして時間のループを繰り返し描き、堂々巡りに陥るのである。すなわち11月9日の結婚式の朝からパーティー、その後のナイルズとサラのやりとりに終始し、そこから前には進まないのである。
 同じ話が繰り返されるが、わざと省いたエピソードがあって、何度かの時間のループの流れの中でそのエピソードを紹介することによって繰り返しのしつこさを和らげるという手法だ。つまり仕掛けられた伏線の種を明かすのである。たとえば、新郎とサラができていて新婦(妹)は知らなかったとか、結婚式に来ているサラの友人の若者(男)がナイルズと一度だけ関係を持ったことがあるとか、そういう真相やギャグめいたエピソードが描かれるのだ。
 そうして、主人公のナイルズとサラのコンビがループから脱出できるかどうかが、この映画のキモといえばいえよう。
 あることをきっけとしてナイルズに復讐しようとする初老の男に「セッション」の怪優J・K・シモンズが扮し、映画のひとつのアクセントとなっている。
 監督は長編デビュー作だというが、なかなかのお手並みである。コロナ禍の鬱陶しい日々を乗り越えるには格好のコメディだ。(健)

原題:Palm Springs
監督:マックス・バーバコウ
脚本:アンディ・シアラ
撮影:クィエン・トラン
出演:アンディ・サムバーグ、クリスティン・ミリオティ、J・K・シモンズ、ピーター・ギャラガー、メレディス・ハグナー