シネマ見どころ

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「騙し絵の牙」(2020年、日本)

2021年04月21日 | 映画の感想・批評
歴史ある文芸出版社薫風の創業者一族の社長(山本學)の突然の死後、次期社長を巡る権力争いに勝った専務の東松(佐藤浩市)は強引な経営手腕を発揮して、次々と「改革」。売り上げの落ちている部門を切りおとし、新たな経営戦略をうちたてようとたくらんでいる。
カルチャー雑誌「トリニティ」の編集長として中途入社の速水(大泉洋)も、新社長に無理難題を押し付けられながらも、創意工夫を凝らして生き残りを図る。
いったいどんな内容のカルチャー雑誌なのか、じっくり見せてもらう間もないまま。ただ、編集会議の様子では「面白ければ何でもあり!」と、辣腕ぶりを発揮。

作家も曲者なら、権力争いに明け暮れる役員たちも狸ぞろい。その斜め上を鮮やかにすり抜けていく、速水編集長。
モデル兼タレントの城島咲(池田エライザ)のスキャンダルも炎上覚悟の逆手に取った営業方針で完売をさらっていく。
新人作家の小説を文芸誌に横取りされたかと思えば、それも鮮やかにひっくり返す!

看板雑誌の文芸誌「小説薫風」から引き抜いた新人編集者の高野(松岡茉優)の丁寧な仕事ぶりには目を見張る思い。行方不明になっている作家の原稿を丹念に読み、過去の作品と照らし合わせて、作家の動向を見極め、所在を突き止めていく。

主人公は大泉洋演ずる速水なのだが、じつは松岡茉優演ずる新人編集者高野の成長物語と言える。
彼女こそ、大どんでん返しをやらかすのだから。
本当はその過程をじっくり見たかった。

大好きな山本學さん、あんなに走らされて。
やっぱりそうなのやね。それがスタートのお話とわかってても、一瞬の出番なのが寂しい。

「牙、KIBA」はそういう意味だったのね!

出版業界の裏話、企業経営の大変さもチラ見しつつ、小気味よく騙される。
チクチクと胸の痛みを伴うような騙しの手口もあったりで、ただ、無邪気に笑えないのだが、
総じて、とても面白かった。

町の小さな、良質の本屋さんがどんどん消えていく現状も胸に迫る。
「良いものを置いてる、ここなら売ってるだろう、ここで買いたい。そういうお客さんのために店を開けてる」
私も小さな小さな雑貨店をやっているものとして、高野のお父さんの言葉が響く。

本を読まなくなって久しい。それはとても恥ずかしいこと。
街の本屋さんに元気になってほしい。たまには本屋さんをゆっくり見て回ろう。
先ずはこの原作本を買ってこなければ!
大泉洋をイメージしてあて書きされた小説という。なんとも役者冥利に尽きるお話し。
さてさて、原作と映画とはどう違う?
気持ち良く騙されてみたい。
(アロママ)


監督:吉田大八
脚本:楠野一郎、吉田大八
原作:塩田武士
撮影:町田博
出演:大泉洋、松岡茉優、佐藤浩市、國村隼、木村佳乃、リリー・フランキー