サンダンス映画祭で評判となった北欧ホラーの佳作である。この手のホラーが好きなかたにはお薦めだが、こういうのが苦手なかたはやめておいたほうがよいと申し上げておく。
そうして、スリラー・サスペンスとかホラーやショッカー(いまやすっかり死語となってしまった)が大好きな私は大いに堪能した。いやあ、よくできている。
冒頭、父と母と姉、弟の4人家族が幸せそうに団らんするところへ一羽のカラスが飛び込んできて、高価そうなガラスの置物やシャンデリヤを床に落として粉々にした挙げ句に捕らえられる。母はためらうことなくカラスの首を折って始末してしまう。これが、その後の禍々しき出来事の予兆となるのである。
ヒッチコック・ファンなら既にお気づきのとおり「鳥」の引用だろう。リビングルームで所狭しと暴れ回る様は「鳥」の再現といってもよい。
起承転結の承の部分はこれからである。主人公の少女(姉)がひそかに巨大な卵を自室で育てているうちに、そいつが孵化して少女と変わらない大きさの雛が誕生する。怪鳥を目前にした少女は気味悪さに拒絶するが、いったん窓の外に追いやられた雛が再び室内に戻ってきて少女を慕う場面は鳥の習性をうまく取り入れているといえよう。学校で習った記憶によれば、鳥は孵化して最初に眼に入ったものを親と認識(刷り込み)してしまう。それで、少女につきまとい、彼女も情が移って拒めなくなるのである。
あとはネタバレになるので多くを書くわけにいかない。ご想像のとおり、この雛が少女の父母や弟、友人などの周辺で次々にトラブルを引き起こして困らせるのだ。
しかし、この映画のおもしろさはそんなところにはない。おそらく、サンダンス映画祭で評判となったのは、後半以降に徐々に明らかとなっていく隠れテーマが理由だと、私は推測している。
ドイツにドッペルゲンゲルという概念があって、「自分とそっくりの姿をした分身。自己像幻視」(デジタル大辞泉)をいう。これをテーマとした有名な短編小説に芥川龍之介の「歯車」、エドガー・アラン・ポーの「ウィリアム・ウィルソン」があるが、要するに人間の二面性をあらわしているともいえ、ユング心理学でいう「影」(自分ではない自分、生きられなかった自分)の存在がすぐに頭に思い浮かぶだろう。
雛が途中から少女のなり(分身)をしていて、雛が傷つけられると少女も同じ場所に傷を負うという設定は、このことを裏付けている。そう考えると、この映画は単純なホラーとかたづけるわけにいかず、その底辺に重たいテーマが横たわっているのである。(健)
原題:Pahanhautoja
監督:ハンナ・ベルイホルム
脚本:イリヤ・ラウツィ
原案:イリヤ・ラウツィ、ハンナ・ベルイホルム
出演:シーリ・ソラリンナ、ソフィア・ヘイッキラ、ヤニ・ヴォラネン
そうして、スリラー・サスペンスとかホラーやショッカー(いまやすっかり死語となってしまった)が大好きな私は大いに堪能した。いやあ、よくできている。
冒頭、父と母と姉、弟の4人家族が幸せそうに団らんするところへ一羽のカラスが飛び込んできて、高価そうなガラスの置物やシャンデリヤを床に落として粉々にした挙げ句に捕らえられる。母はためらうことなくカラスの首を折って始末してしまう。これが、その後の禍々しき出来事の予兆となるのである。
ヒッチコック・ファンなら既にお気づきのとおり「鳥」の引用だろう。リビングルームで所狭しと暴れ回る様は「鳥」の再現といってもよい。
起承転結の承の部分はこれからである。主人公の少女(姉)がひそかに巨大な卵を自室で育てているうちに、そいつが孵化して少女と変わらない大きさの雛が誕生する。怪鳥を目前にした少女は気味悪さに拒絶するが、いったん窓の外に追いやられた雛が再び室内に戻ってきて少女を慕う場面は鳥の習性をうまく取り入れているといえよう。学校で習った記憶によれば、鳥は孵化して最初に眼に入ったものを親と認識(刷り込み)してしまう。それで、少女につきまとい、彼女も情が移って拒めなくなるのである。
あとはネタバレになるので多くを書くわけにいかない。ご想像のとおり、この雛が少女の父母や弟、友人などの周辺で次々にトラブルを引き起こして困らせるのだ。
しかし、この映画のおもしろさはそんなところにはない。おそらく、サンダンス映画祭で評判となったのは、後半以降に徐々に明らかとなっていく隠れテーマが理由だと、私は推測している。
ドイツにドッペルゲンゲルという概念があって、「自分とそっくりの姿をした分身。自己像幻視」(デジタル大辞泉)をいう。これをテーマとした有名な短編小説に芥川龍之介の「歯車」、エドガー・アラン・ポーの「ウィリアム・ウィルソン」があるが、要するに人間の二面性をあらわしているともいえ、ユング心理学でいう「影」(自分ではない自分、生きられなかった自分)の存在がすぐに頭に思い浮かぶだろう。
雛が途中から少女のなり(分身)をしていて、雛が傷つけられると少女も同じ場所に傷を負うという設定は、このことを裏付けている。そう考えると、この映画は単純なホラーとかたづけるわけにいかず、その底辺に重たいテーマが横たわっているのである。(健)
原題:Pahanhautoja
監督:ハンナ・ベルイホルム
脚本:イリヤ・ラウツィ
原案:イリヤ・ラウツィ、ハンナ・ベルイホルム
出演:シーリ・ソラリンナ、ソフィア・ヘイッキラ、ヤニ・ヴォラネン