大ヒットした「学校の怪談」の後、「愛を乞うひと」や「閉鎖病棟ーそれぞれの朝-」等で、人生の厳しさ、生きる尊さを描いてきた平山秀幸監督が、10年以上も脚本家の安部照雄氏と共に温めてきた作品が完成した。今回は見終わった後もホッコリ感が持続する大人のためのファンタジー。
主人公の芙美は海辺の田舎町で一人暮らし。ボディタオルを製造する会社で働き、同僚の直子や妙子、それに直子の息子・航平等、何でも話し合える友達もいる。どういうわけか断酒会にも入っているが、毎日の食事や家事など、平凡だがキチンとした生活ぶりだ。そんな芙美が断酒会の帰り道、車に何かがぶつかり横転してしまうという事故に遭う。どうやら原因は近くに隕石が落ち、その破片が飛んできたようだ。航平が調べてみると隕石に遭遇する確率は何と1億分の1らしい。日本人なら一人か二人ということになる。どれくらいの期間での話なのかわからないが、とにかく奇跡的であることは確かだ。
そんな芙美にある一つの出会いが。それは、なじみのバーで偶然出くわした篠田という男性だ。ジョギング中に何度か見かけたことがあり、草笛が上手いことは知っていた。友達にも恵まれ、日々楽しく暮らしていると思える芙美だが、時折哀しみの表情が現れることもある。それは、こちらも一人暮らしをしている篠田も同じだったようで・・・。
芙美を演じるのは小林聡美。その独特の個性と、大林宣彦監督の「転校生」でデビューした時の少女らしさが、40年の時を経ても全然変わっていないところが魅力の一つ。新たな世界に向かって一歩踏み出すヒロイン、芙美ちゃんに応援の拍手!!元歯科医の篠田に松重豊。渋い演技力には定評があるが、今回の憂いのある表情にも、何かありそうだと惹き付けられる。題名にもなっているツユクサを使って草笛が吹けるように何度も練習したそうだが、自分も先日、イチゴ畑の草取りをしていて偶然ツユクサを見つけ、思わず篠田に教えてもらったように吹いてみた。タンポポやカラスノエンドウ、スズメノテッポウ等を使って子どもたちと遊んだことはあるのだが、ツユクサは初めて。ブビーッっと何ともいえない音がした。篠田は死んだ奥さんから吹き方を教えてもらったそうだが、その思ったより低音でもの悲しい響きには、吹いているときの篠田の心情がよく表されていたと、改めて感じてしまった。しかし、このどこにでもありそうな雑草のツユクサが、奇跡の出会いを呼び起こしてくれたのも確かだ。
全編を貫くノスタルジックな雰囲気もいい。鉄道も通っていない伊豆のロケ地ののどかさ、勤務前のラジオ体操も懐かしいし、篠田が芙美に告白するところでは、子どもたち以上に純情な二人の表情に、自分の青春時代を勝手に重ね合わせたりして・・・。エンドロールを流れる主題歌、中山千夏の「あなたの心に」を聞いてググッとくる人は限られているかもしれないが、そんな世代に新たな勇気と新鮮な空気を運んでくれる、何とも愛おしい作品だ。
(HIRO)
監督:平山秀幸
脚本:安部照雄
撮影:石井浩一
出演:小林聡美、松重豊、平岩紙、江口のりこ、斉藤汰鷹、渋川晴彦、泉谷しげる、ベンガル、瀧川鯉昇、桃月庵白酒