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「64 ロクヨン 前編」(2016日本映画)

2016年05月11日 | 映画の感想・批評
 

 本来は後編を見てから取り上げるべきだろうが、前編だけでも十分見応えのあるできばえなので敢えて紹介することとした。
 時代は昭和64年1月初旬に遡る。周知のとおり昭和天皇が生死の間をさまよい、年も改まった1月7日早朝、崩御した。その2日前に事件は起こる。7歳の少女が誘拐され、県警は万全の体制でのぞむのだが、まんまと犯人に出し抜かれて身代金を奪われた挙げ句、数日後には少女が遺体となって発見されるという最悪の事態を迎える。やがて、事件は迷宮入りし、時効直前の平成14年12月に話は飛ぶのだ。
 当時、捜査の第一線にいて苦い経験をした刑事(佐藤浩市)は、いま広報官として県警記者クラブとの窓口に異動している。警察庁長官が時効を前に被害者の遺族を訪問し、必ず犯人を検挙すると決意を表明するパフォーマンスが企画され、広報官はその段取りを押しつけられることになる。そこで、さまざまな問題が噴出する。
 たとえば、県警本部長は警察庁のキャリアが一時的に身を置くポストだが、それ以外にも警務部長がそうであるらしく、いっぽう現場の捜査を指揮する刑事部長は県警生え抜きの最上ポストであるという。ところが、刑事部長のポストまで召し上げようという警察庁の謀略が進行しているとか、交通事故の加害者の実名報道をめぐる広報と記者クラブのせめぎ合いとか、誘拐事件発生時に犯人からの電話録音を担当していた連中が不可解な退職をしているとか、そういう確執やトラブル、謎が徐々に吹き出して来るのだ。
 圧巻は記者クラブと広報官の対決だろう。ここは群像劇としてもよくできている。私は原田眞人監督の秀作「クライマーズ・ハイ」を思い出してしまった。
 ある日、記者がふらりと広報へ現れて捜査一課に誰もいないが何か事件か、と聴いてくる。何も耳にしていない広報官はあわてる。そこで、次なる大きな壁が立ちはだかるのである。映画誕生当時の連続活劇ではないが、さあ、みなさんこれからどうなるか、あとは次回のお楽しみである。(健)

監督:瀬々敬久
脚色:瀬々敬久、久松真一
原作:横山秀夫
撮影:斉藤幸一
出演:佐藤浩市、綾野剛、榮倉奈々、夏川結衣、三浦友和、永瀬正敏、瑛太、奥田瑛二、窪田正孝、吉岡秀隆、緒形直人、坂口健太郎、椎名桔平、滝藤賢一