歩くたんぽぽ

たんぽぽは根っこの太いたくましい花なんです。

目覚め

2013年05月31日 | ショートショート
目が覚めるとそこは真っ暗闇だった。

ほとんどの人は一生を通して、本物の真っ暗闇に遭遇することなどなかなかないだろう。
本物の真っ暗闇を想像することはあれど、それがいつか自分の目の前にくるなんて思いつきもしない。
まるで黒色のアクリル絵の具で塗りつぶされたキャンパスのように、一点の光すら入らない一色の世界。
 
私は自分が如何様な姿でそこにいるのかも分からないまま、身動き一つせず目の前にある状況を眺めていた。
眺めているのか、そうでないのかも本当のところはよくわからない。
見ている方向が前なのか後なのか上なのか下なのかそれすらもわからない。
こんな突拍子もない状況がいきなり現れると、案外人というのは冷静なのかもしれない。
それでも自分がいた世界にこんな空間があるということ、そんな非現実的な世界に自分が接触しているということを受け入れるのは容易ではない。
私は思い直して何度も目を閉じてみた。
もう一度目を開いたらそこには私が思い描く現実世界があるはずだ、これは一時的な困惑の中にいるだけなのだ、と。

私は夢を見ることが多く、途中でこれは夢だと気づくことが今までに何度もあった。
大抵はよくもわるくも現実離れし過ぎていたのだ。
そういったとき私の思考はひどく冷静で、夢の執着地点をより効率的に見つける方法を模索した。
それは今まで何の弊害もなく遂行されたし、そのことが自分の中で表立って問題として現れることはなかった。
しかし今回の場合は少し違う。
夢であれという淡い期待は、目を閉じた瞼の色が一向に暗闇から解放されないため開く前からすでに崩れていた。

夜道の暗さとも、遮光カーテンを閉め切った部屋とも、都会にそびえ立つビル群の陰とも、目を閉じたときの瞼の裏とも違う際立った真っ暗闇。
もしかすると地下室を所有する人は「電気がついていない地下室は本当に真っ暗で、何も見えないんだよ。光なんて全く届かないんだ。」と言うかもしれない。
確かに暗闇の度合いでいうと、地下室の暗さというのはなかなかのものである。
しかし私はその真っ暗闇に、地下室のようなぬくもりを感じることができなかった。
何かがそこ存在しているという気配さえ捉えることができないのだ。
そこには現実も非現実も介在することのない絶対的な闇があるだけだった。
そんな気がした。
何回目を閉じようがその状況が変わることはなかった。
これは夢ではない。

私はついに諦めるしかなかった。
しかしまたしばらくして気づくことになる。
闇、とりわけ真っ暗闇に遭遇した時には諦めや開き直りや素直さを持ってしても対抗することが出来ないということ、それは闇というものが人間の持つ意志を吸収し無に変えてしまうから。
そこから無気力というイメージがうまれてくるのかもしれない。

そして私はあくまで一時的な無気力の中に甘んじることになった。大学二年の春のことである。


to be continue...
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影のない部屋~プロローグ~

2013年05月31日 | ショートショート
「影のない部屋」というカテゴリーをつくってみた。

特に深い意味はない。
ただ書きたいなと思ったときに、思いついたことを書くという企画。
日記ではく、フィクションの要素が強いので予め断っておきたい。
短編より短い短編だと思ってもらえればこれ幸い。
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太陽のこども

2013年05月27日 | 日記
太陽は東から上り西へと沈んでいく。
地球が誕生して46億年、それは変わることなく続いているのだ。


私は毎日2回、朝と夕方に太陽のこどもを目の当たりにする。
それはとても不思議な光景だ。

足を踏み入れてはならない神聖な場所。
それは仕事場と駅の間にある数百メートルほどの一直線。

朝駅から仕事場に向かう一直線の先に見えるのは、ビルとビルの間に上り始めた太陽。
彼、あるいは彼女は大きなあくびをし、その度に大きな口からたくさんの黒いヒトを地表に産み落とす。
太陽を背にこちらに向かってくるのは、太陽から生まれたばかりの太陽のこどもたち。
人の形をまとったその黒い影は、皆同じ方向に向かっていく。

生まれたての影のうしろでは相変わらず寝ぼけた顔の太陽が次々と黒い影を放出し続けている。

私に近づくにつれその影は少しずつ色味を帯びはじめ、すれ違うときにはついに本物のヒトになっている。
少なくとも私にはそう見える。

そうやって影はヒトになっていくのかな。

夕方仕事場から駅に向かう一直線でも同じ現象が起きる。
仕事場と駅は丁度東と西に位置している。
逆行がつくる世界に太陽のこどもは現れるのだ。

それはそれはとても不思議な光景。
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送別会の夢

2013年05月09日 | 日記
ゆらゆら揺れるゆりかごの上

夢うつつのなか見た景色は

渦巻きに巻き込まれるカラフルな色といろ


大きな黒い生き物がうごめき

轟音が鳴り響く


匂いはこもり

それを辿れば自分に行き着いた


目が覚めると渦巻きは逆回り

色は静かに元の位置におさまる

怪物と轟音はそれをつくっていたそれぞれに別れゆき

少しずつ輪郭を取り戻す

私から放たれていた匂いは少しずつ消えていき

いつしかそんな匂いがしていたことも忘れてしまった


忘れてしまった
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