新宿三丁目にはよく行くけれど、画材屋と寄席にしか用事はない。
だから、一歩奥に入ると飲食店がひしめき合っていて驚いた。
知っている町が、全く違う町に見える不思議な体験だ。
ついでに、目的以外は目に入らない自分の視野の狭さにも驚いた。
さっそく先日友達と三丁目で待ち合わせをした。
梅雨真っ只中にあって雨も降らず暑くもなくちょうどいい夕方、
週初めにも関わらずどんどん人が増えてくる。
私とその友達はお店の好みが似ている。
おじさんやおばさんがやっているような、気取ってないお店だ。
通りを2周して、最初に目星をつけた店に決めた。
東アジアの屋台を思わせる雑多な屋外席が気に入った。
その名も「香港屋台 九龍(クーロン)」。
これが大当たり。
兎にも角にも、料理が美味しかった。
中華料理といっても地域によって全然違うらしく、
四川などに比べて辛くないのでお腹を壊す心配もない。
香港料理が中華なのかは知らないけれど。
この店構え。裸電球がいい味出してる。
堂々と灰皿が置いてある感じがたまらなく好き。
最初は2組しかいなかった屋外席が暗くなると満席になっていた。
わかる!こんな日は開放感がある外がいいよね。
ピータン!友達が好きなので頼んだけれど、とんだグルメだよ。
子供の頃の苦い記憶が払拭できるかと思い一切れもらったけど、
その記憶も相まって「今一番苦手な食べ物」に昇格した。
小籠包ははずせない。
お店柄に反して、若いお客さんが多かった。
むしろこういう店が好まれる時代なのかもしれない。
30代も後半に差し掛かる二人が仕事や家族の話であーだこーだ言っていると、
隣の男子二人組が逆ナンされていて私たちは目配せをする。
なんかいいなぁ、こういうの楽しいよなぁと聞き耳を立てて遊んだ。
閉店まで居座り帰りはセブンでコーヒーを買って駅まで歩いた。
ちょっと酔っ払った二人がバカみたいな話でぎゃははと笑う。
そういうときに飲むコーヒーはなぜだかとても美味しい。
JRの駅前のスロープに腰掛け飲み干すまで喋った。
右から左へ人の波を観察する。
その波に逆行してナンパしている男がいたけれど、どう考えても礼儀がなっていない。
そのだらしない格好で女の子を引っ掛けようという根性が気にくわない。
と完全なる外野が的外れなことを議論する。
トー横にたむろしている子供たちの話や、猫の3D広告の話をした。
有名なヤクザマンションもあれば、伊勢丹があったり、
いろんな人が入り混じったるつぼで一歩壁を越えると別世界がある。
と、突然腕にポツっと雨が当たった。
「これはくるよ!早く行きな!」と私の背中を押した友達が妙にかっこよかった。
そこからしばらく外を歩かないといけなかったので急いで別れた。
友達の言った通り急に土砂降りに変わった。
信号待ちの対岸で傘を開いている人たちが目に入った。
みんなちゃんとしてるなぁ。
ここまできたらもういいや。
信号が青になりみんな一斉に動き出す。
傘をさしたサラリーマン風の人、相合傘の人、走る人、顔に手をかざして歩く人。
なんだか映画みたい。
雨は日常の風景をドラマチックに演出する。
頭の中ではELOの『Rain is falling』が流れている。
いつまでたっても私は妄想の中に生きている。