芥川龍之介はまず顔が好きで学生の頃よく読んだ。
国語の教科書に載っていた坊主頭に学生服の写真が特によかった。
読書家ではなかったけれど、文章が美しいと感じる土壌はあったらしい。
安易にも日本人で良かったなどと思ったものだ。
特に『鼻』が好きだったけれど、なぜ好きだったのかは思い出せない。
とにかく鼻の長い男の話だ。
『羅生門』は一番怖かった記憶がある。
たまに髪のまばらなやせ細った老婆を断片的に思い出したりする。
とある昼食時、
無性に90年代から00年代の若者映画を観たくなり、
Netflixやアマゾンプライムを漁っていたのだが適当なのが見当たらず、
なぜか黒澤明の『羅生門』でも観てみるかということになったのだ。
この「なぜか」の部分はミステリーなのだが深入りはやめておく。
前もなぜか横溝正史の『獄門島』を観ていたことがあったし、
厳つい和風の三文字に惹かれる習性でもあるのかもしれない。
映画『羅生門』は異様に面白かった。
でも髪の抜けた老婆は出てこなかった。
小説『羅生門』からこんなインズピレーションを受けたのかと驚いていたら、
原作に芥川龍之介『藪の中』とあったので納得。
世界の黒澤とか言われているけれど相対的な評価はよくわからない。
生きている時代も観てきた映画も違うわけでリアルタイムで観るのとは話が違う。
でも今改めて観ることで、現代とは違う映画が持つ空気や芸術性が衝撃的だった。
未だ観ていない人にはとてもおすすめ。
『羅生門』
監督:黒澤明
脚本:黒澤明、橋本忍
製作:箕浦甚吾
出演者:三船敏郎・森雅之、京マチ子、志村喬、千秋実
音楽:早坂文雄
撮影:宮川一夫
今回ばかりは運が悪かった。
つい去年の暮れまで国立映画アーカイブ主催の、
「公開70周年記念『羅生門』展」がやっていたらしい。
悔しいな〜。
「なぜこの映画が特別なのか」の理由を知りたかった。
せいぜい50年前くらいの映画だと思っていたから、1950年の映画と知って驚いた。
戦後だよ、下手したら歴史だよ。
Netflixで観たのだけど映像が綺麗でこれまた驚いた。
なんでもいろいろなところが協力して2008年に復元したのだとか。
俳優の表情がはっきり観て取れるのがありがたい。
70年前の俳優の迫力に圧倒される。
白黒映画はあまり見ないけれど、いいね。
もう少しわかりにくくなるのかと思っていたけれど、
カラー映画とは違う映像美とでもいうのか、美しい。
陰影で浮かび上がる巨大な羅生門のセットがまたいい。
黒々と鬱々とした門は最後まで異様な存在感を放っている。
作ったんだろうね、あっぱれ。
70年前の映画を表すのにアレだけど、モダンな映画だった。
芸術性が高いというのかな。
場面は羅生門、裁判らしき場、藪の中の攻防の3つしかない。
当事者たちが見たものを横に羅列していくだけと言えばただそれだけ。
同じような場面ばかりなのだ。
藪の中で多襄丸と真砂と金沢武弘があれこれ動き回っている。
しかしその中で繰り広げられる攻防が微妙に違うから面白い。
大岡越前みたいに役人の前で登場人物たちが自分の見たものを告白していくのだけど、
手前にいるらしき役人の声も映像もなく俳優が一人で画面を占領している姿は舞台のようでもだった。
多襄丸も真砂も金沢武弘を降ろしたイタコらしき女も仰々しい演技なのに、ワザとらしくない。
むしろ嫌という程生々しい。
そま売り役の志村喬さんもよかったな、一回見たら忘れない顔。
登場人物6人ともすごい存在感だった。
時代的なものなのか、『羅生門』という映画がそうさせたのか、個人の力なのか。
わからないことばかりだ。
すごく面白かったというより、異様に面白かった、という方が正確だ。
なんでこんなに心に残るのかまだ整理しきれていない。
人間の業が刺さるのか。
不条理に惹きつけられるのか。
あれはなんだったんだ?
皆誰が殺したのかという犯罪性よりも、自分の名誉を主張しているところがなんだか尋常じゃない。
なぜそんなに話がもつれるのか不思議でならない。
それでも破綻していないのは、私が人間の不合理さをどこかで確信しているからなのか。
全ては羅生門で話を聞いていた男の言葉「人間のやるこたぁわけがわからね」に帰着する気がする。
多襄丸と金沢武弘が戦う場面が衝撃だった。
絡まり縺れ合い醜い。
刀を携えた戦いの場であれほど格好悪いシーンは見たことがない。
それがどうしようもなく「人間」で、心がザワザワした。
隠しようのない「人間」という現実。
『その男、凶暴につき』でたけしが拳銃の持ち方一つで世界に衝撃を与えたみたいに、
これでもかというくらいのリアル。
時代で言ったら逆か。
現実的であるっていうのは人を傷つける。
そういえば誰かが芸術とは人を傷つけるものだと言っていたな。
2021年の今見ても衝撃的な映画だ。
もしかしたら知らない世界への扉かもしれない。
子供の頃観たけど、また『七人の侍』観てみようかな。
今なら面白さがわかるかもしれない。
国語の教科書に載っていた坊主頭に学生服の写真が特によかった。
読書家ではなかったけれど、文章が美しいと感じる土壌はあったらしい。
安易にも日本人で良かったなどと思ったものだ。
特に『鼻』が好きだったけれど、なぜ好きだったのかは思い出せない。
とにかく鼻の長い男の話だ。
『羅生門』は一番怖かった記憶がある。
たまに髪のまばらなやせ細った老婆を断片的に思い出したりする。
とある昼食時、
無性に90年代から00年代の若者映画を観たくなり、
Netflixやアマゾンプライムを漁っていたのだが適当なのが見当たらず、
なぜか黒澤明の『羅生門』でも観てみるかということになったのだ。
この「なぜか」の部分はミステリーなのだが深入りはやめておく。
前もなぜか横溝正史の『獄門島』を観ていたことがあったし、
厳つい和風の三文字に惹かれる習性でもあるのかもしれない。
映画『羅生門』は異様に面白かった。
でも髪の抜けた老婆は出てこなかった。
小説『羅生門』からこんなインズピレーションを受けたのかと驚いていたら、
原作に芥川龍之介『藪の中』とあったので納得。
世界の黒澤とか言われているけれど相対的な評価はよくわからない。
生きている時代も観てきた映画も違うわけでリアルタイムで観るのとは話が違う。
でも今改めて観ることで、現代とは違う映画が持つ空気や芸術性が衝撃的だった。
未だ観ていない人にはとてもおすすめ。
『羅生門』
監督:黒澤明
脚本:黒澤明、橋本忍
製作:箕浦甚吾
出演者:三船敏郎・森雅之、京マチ子、志村喬、千秋実
音楽:早坂文雄
撮影:宮川一夫
今回ばかりは運が悪かった。
つい去年の暮れまで国立映画アーカイブ主催の、
「公開70周年記念『羅生門』展」がやっていたらしい。
悔しいな〜。
「なぜこの映画が特別なのか」の理由を知りたかった。
せいぜい50年前くらいの映画だと思っていたから、1950年の映画と知って驚いた。
戦後だよ、下手したら歴史だよ。
Netflixで観たのだけど映像が綺麗でこれまた驚いた。
なんでもいろいろなところが協力して2008年に復元したのだとか。
俳優の表情がはっきり観て取れるのがありがたい。
70年前の俳優の迫力に圧倒される。
白黒映画はあまり見ないけれど、いいね。
もう少しわかりにくくなるのかと思っていたけれど、
カラー映画とは違う映像美とでもいうのか、美しい。
陰影で浮かび上がる巨大な羅生門のセットがまたいい。
黒々と鬱々とした門は最後まで異様な存在感を放っている。
作ったんだろうね、あっぱれ。
70年前の映画を表すのにアレだけど、モダンな映画だった。
芸術性が高いというのかな。
場面は羅生門、裁判らしき場、藪の中の攻防の3つしかない。
当事者たちが見たものを横に羅列していくだけと言えばただそれだけ。
同じような場面ばかりなのだ。
藪の中で多襄丸と真砂と金沢武弘があれこれ動き回っている。
しかしその中で繰り広げられる攻防が微妙に違うから面白い。
大岡越前みたいに役人の前で登場人物たちが自分の見たものを告白していくのだけど、
手前にいるらしき役人の声も映像もなく俳優が一人で画面を占領している姿は舞台のようでもだった。
多襄丸も真砂も金沢武弘を降ろしたイタコらしき女も仰々しい演技なのに、ワザとらしくない。
むしろ嫌という程生々しい。
そま売り役の志村喬さんもよかったな、一回見たら忘れない顔。
登場人物6人ともすごい存在感だった。
時代的なものなのか、『羅生門』という映画がそうさせたのか、個人の力なのか。
わからないことばかりだ。
すごく面白かったというより、異様に面白かった、という方が正確だ。
なんでこんなに心に残るのかまだ整理しきれていない。
人間の業が刺さるのか。
不条理に惹きつけられるのか。
あれはなんだったんだ?
皆誰が殺したのかという犯罪性よりも、自分の名誉を主張しているところがなんだか尋常じゃない。
なぜそんなに話がもつれるのか不思議でならない。
それでも破綻していないのは、私が人間の不合理さをどこかで確信しているからなのか。
全ては羅生門で話を聞いていた男の言葉「人間のやるこたぁわけがわからね」に帰着する気がする。
多襄丸と金沢武弘が戦う場面が衝撃だった。
絡まり縺れ合い醜い。
刀を携えた戦いの場であれほど格好悪いシーンは見たことがない。
それがどうしようもなく「人間」で、心がザワザワした。
隠しようのない「人間」という現実。
『その男、凶暴につき』でたけしが拳銃の持ち方一つで世界に衝撃を与えたみたいに、
これでもかというくらいのリアル。
時代で言ったら逆か。
現実的であるっていうのは人を傷つける。
そういえば誰かが芸術とは人を傷つけるものだと言っていたな。
2021年の今見ても衝撃的な映画だ。
もしかしたら知らない世界への扉かもしれない。
子供の頃観たけど、また『七人の侍』観てみようかな。
今なら面白さがわかるかもしれない。