歩くたんぽぽ

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黒沢清監督『cloud』を観てきました

2024年10月04日 | 映画

頭が痛くてぼーっとするのでスッキリしたくて、衝動的に映画を予約した。

よく行く映画館のサイトで黒沢監督の『cloud』を見つけて飛び上がった。

これ観たかったやつ!

『蛇の道』も『chime』も間に合わなかったから『cloud』こそは!

それにしても黒澤監督はすごいペースで映画作っているね。

結論、超ー面白かった。

そして黒澤監督の映画はリアルタイムで観るとよりいいかもしれない。

 

 

 

主人公は工場で働く転売屋。

無表情で何事にも無関心そうな主人公は、転売時の液晶にのみ真剣な眼差しを送る。

食い入るような菅田将暉の目が印象的だ。

仕入れたものを利益が出るように売る。

物自体に興味はなく、ただ高く売ることだけが重要事項だ。

そこに照準を合わせることで欠如していく(そもそも欠如している)コミュニケーション。

雑に扱われた人々の仕打ちに見合わない憎悪、そこに乗っかる軽薄な快楽、

浅はかなプライド、よくわからない執着が彼を追い詰めていく。

そして彼の命を救うのもまたよくわからない忠誠心なのだ。

 

文句なく面白い。

タイトルが「cloud」というくらいだから、ネット社会のことを描いているんじゃないかな。

というかそう考えると、一見突拍子もない展開につじつまが合う。

ネット空間ではそれくらいよくわからない感情がうずまき、支離滅裂なやりとりが行われ、

攻撃することや人の痛みに対する感情が鈍化し、悪意が増幅させられる。

助手の佐野くんの存在も大きい。

味方であっても意味不明なのだ。

彼がバックの犯罪集団をにおわせたのはなぜかと考える。

思わぬ場所に暴力的な犯罪の入り口があるってことなのかな。

当たり前のような顔で行われる暴力に主人公も麻痺していき無感情になっていく。

ネットなんてバーチャルでしょとも言ってられない時代になってきたから、

生身に下りてきた彼らを関係のない人たちと割り切ることもできない。

 

ドキッとするセリフがいくつかあった。

商品に対し「本物か偽物かはどうでもいい」という主人公。

なるほどな、、なんだかとても的を射ていると感じた。

何に対してなのかはぼんやりしているけど。

ずっとマスクを被っている岡本天音に対して「いつまでそれ被ってんだ」っていうのも印象的だった。

よく耳にする価値観だし凡庸な気がしたのだけど、そういえばこの人たち顔晒しているけど大丈夫なのかと気づく。

顔を隠さないというのはさらに次の段階なのでは?

マスクを被り怯えている彼が少しまともに見えるのも面白い。

自分が希薄なんだ、この人たち。

人とコミュニケーションを取れないどころか、自分とも取れないんだ。

 

映像が冷たくてきれいで、黒澤監督の空気を感じることができて嬉しかった。

なぜかホッとするんだよな。

菅田将暉の背中が何度も繰り返し出てくるんだけど、その度になんとも言えない不気味さに身震いした。

なんだろう、怖いんだよな。

あきことバスに乗っている時に黒い大きな人が横切って音が消えるんだけど、あそこもゾクッとした。

あそこから加速度的に面白くなっていったんだよな。

後半のアクションシーンも地味でバカバカしくて痛々しくちょっぴり笑える、それでいて非情。

もう本当幸せな時間だった。

医療機器のおじさんが銃弾を落としてもたついているシーンは情けなくて好きだった。

 

黒澤監督がこの話にどういう決着をつけるのか気になったけど、なるほどそうきますか。

幻想的で好きな終わり方だった。

彼らはどこに向かっていくのかな。

地獄か。

 

売れっ子俳優が主演だから大丈夫かなと少し心配だったけどそんな心配はどこ吹く風。

菅田将暉は画面力があるんだなぁ、と改めて感心した。

それから岡山天音くん、彼はもうなんというかすごい!

「こいつコロース」はあまりにうまくてゾクッとした。

それから助手の佐野くん役の奥平大兼くんもよかった。

というか俳優みんなよかったな。

黒沢清監督が今の若い人を使っていることがなんだか嬉しい。

 

何回も観たいと思える面白い映画でした。

cloudという言葉には雲という意味もあるけど、大群だとか大勢とかいう意味もあるらしい。

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