歩くたんぽぽ

たんぽぽは根っこの太いたくましい花なんです。

MOEBIUS MADE IN L.A.

2018年08月21日 | 
メビウスの本が届くのを待つ。

これほど何かを待ち遠しく感じることはそうない。

届いていないことを分かっていながらポストを覗き込み、

ないことを確認しては肩を落とすという馬鹿げた行為を繰り返す日々は、

じれったいようで案外気に入っている。

メビウス(ジャン=ジロー)はフランスの漫画家・アーティストで、

最も敬愛する画家の一人である。



ずっと探していた本が先日Amazonで5千円で売られているのを発見し即購入した。

評価は中古の「可」だが、5千円は破格の値段だ。

2万円出せばきれいな本が届くのだろうが、そうばかばか買うこともできない。

どんなにボロボロでもいいからもっとメビウスの絵を知りたかった。



そして予定より1日早く本が届いた。







これが「可」たる所以、なかなかにすごい、が中はきれいだった。

ページをめくるたび未だ見ぬ、しかしずっと求めていた世界を見ることができる。

思わずため息が出るほど、素晴らしい。

彼の絵は私を心の安寧に導いてくれるのだ。

音楽を聴いていてアーティストの言葉に共感し感動するのと少し似ているかもしれない。

彼の描く線に色に世界に共感し感動している。









以前夫にメビウスの絵を見せたときに何がすごいのかわからないと言われた。

それには驚いたが、確かに説明しろと言われたら難しい。



絵がうまいのは言うまでもないが、彼の描く構図は並々ならぬセンスに満ちている。

立体や遠近を捉える能力が非常に優れており、特有の線や色で想像力豊かな世界を見せてくれる。

ペンのみで描く白黒の絵で際立つのはその白さだ。

黒でバランスをとるのは簡単だが、彼の絵は白で描かれており、これは本当に絵が上手い証拠である。

全体に線をみっちり書き込んでいても立体的に見えるのだからすごい。





マットな色つけの絵では彼の色彩感覚が際立つ。

無駄な線をそぎ落とし描かれるシンプルでいて奥深い絵は、歌川広重の「東海道五十三次」を彷彿とさせる。





立体的な色つけの絵では線と色に光と影がドラマチックに融合して、なんていうか、もう大変。

そこに生まれる緊張と緩和が、見る者をどきっとさせる。





何と言っても彼の創造する世界は面白い。

私の拙い表現で彼の魅力を伝えるのは難しいな。

私もまだまだこれから新しいメビウスに出会えるでしょう。

もっと知るためにはフランス語を勉強せねば、、、。

簡単な翻訳方法ないかしら。

いつか日本でメビウスの展覧会が開かれることを切に願う。
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NHKミステリースペシャル 満願 最終夜 『満願』

2018年08月17日 | 映画


『満願』
NHKミステリースペシャル満願 最終夜
原作:米澤穂信
演出:熊切和嘉
脚本:熊切和嘉
音楽:ジム・オルーク
主演:高良健吾、市川実日子



昨日に引き続きミステリースペシャル満願最終話『満願』を鑑賞した。

本のタイトルにもなっている『満願』は全6編の中で最終話である。

実のところ『夜警』、『万灯』、『柘榴』が非常に印象的だったためか『満願』にはあまり思い入れがなかった。

今思えば衝撃的であるかどうかに焦点を当てたばかりに物語の本質に気づけなかったのかもしれない。

ドラマ『満願』が物語の素晴らしさを再認識させてくれた。

観終わって数時間経つが未だ余韻が体にまとわりついている。



素直に言いたい、とても面白かった。

あまり軽率なことは言いたくないが、小説の実写化においてこれほど完璧な作品を観たことがない。

キャスト、言葉、映像、時系列、音楽など全ての要素に隙がなく、それぞれが濃密な『満願』をつくっている。

物語のキーパソンである市川実日子演じる女将さんは素朴だが品が良く美しい。

主人公の藤井(高良健吾)と女将さんが一緒に西瓜を食べるシーンが印象的だ。

暗闇から現れる浴衣姿の女将さんは艶っぽく美しくて女の私まで息を呑むほどだった。



ストーリーが見えやすかった『夜警』に比べて、『満願』はほとんど語らない。

小説を読んでいない人はもしかしたら観終わっても真相を理解できないかもしれない。

しかし、それがリアリティを高めており引き締まったドラマにしている。

わからなければ何度も見返せばいいのだ。



単純に怖い話として捉えていたが、ドラマを観て満願という言葉の意味をより深く理解したように思う。

最後、日傘をさし涼しげに歩く女将さんの姿が印象的だった。

願望を満たしたのだ。

あまりに強い願いが彼女の中にあったのだ。
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NHKミステリースペシャル 満願 第2夜『夜警』

2018年08月15日 | 映画

左から『夜警』の安田顕、『万灯』の西島秀俊、『満願』の高良健吾。



『夜警』
NHKミステリースペシャル満願 第2夜
原作:米澤穂信
演出:榊 英雄
脚本:大石哲也
主演:安田顕



移動時間の暇つぶしのためだけに買った『満願』が、あれほど面白い小説だったのは運が良かった。

今まで触れてきたサスペンスミステリーの中でも特に異質で衝撃的な作品である。

『満願』は6編の短編小説で構成されており、『夜警』はその中で一番初めの物語だ。

そして6つの物語の中で一番好きな話でもある。

以前にも書いたが最も恐ろしいのは非日常ではなく日常の中に潜む狂気だ。

ここで描かれる犯罪の動機を知った時、その凡庸さに恐怖する。



昨日からこのドラマシリーズが始まったのだが、気づかず『万灯』を見逃した。

残念だが、一番好きな『夜警』を観れたことにはホッとしている。

はじめ主人公の柳岡役に安田顕と聞いてイメージとの違いに少し戸惑うが、彼なら大丈夫だろうという漠然とした信頼があった。

案の定、ドラマ鑑賞後一番最初に出てきた感想は「安田顕すごい、やばい」だ。



ドラマ自体は小説に比べてわかりやすく勘のいい人であれば早い段階で謎が解けるであろう脚本だった。

一緒に観ていた夫は小説は未読だが物語の中盤でほとんどストーリーが読めたとのこと。

小説のようにじわじわ悪い予感が広がっていく感じやその予感が確信に変わった時の衝撃と恐怖を是非夫にも味わって欲しかったが、

そのすべてを1時間で表現するのはさすがに難しかったか。

さらに主人公の心中、葛藤、各登場人物の人間性などやはり小説と比べると印象が薄いように思う。



しかし!とても質の高い良いドラマだった。

セリフが少なく重苦しい間が観てる者まで緊張させる。

物語に登場する場所や人物が少ない分俳優一人一人の演技が目立つのだが、皆すばらしい。

中でも主役の安田顕の演技はここ最近観た日本の映像作品の中で最も印象的だったように思う。

顔のみの演技だったが、真相に気づいた瞬間空気が張り詰めた気がしてゾワッとした。

そして全てを知った後のラスト2カット、感情が複雑に入り混じった孤独な演技では彼の気迫に圧倒された。

その場面を観るためだけにあと何回か鑑賞するのだろうなと思う。

明日は本のタイトルにもなった『満願』だ。

これも楽しみ。
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ランナーズハイ

2018年08月12日 | 日記
ずいぶん前から走っている。

白く靄がかった視界不明瞭のコースだ。

ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、

そこでは自分の重苦しい呼吸音だけが聞こえる。



靄が薄くなると前を走っている黒い影が見えてくる。

それはずっと前から私の前を走っている。

接近したり離されたりの繰り返しだが、

最後の数メートルが遠い。



黒い影のシルエットは成人女性のようだった。

理由はわからないが私は彼女を追い越さなければならない。

頭で考えれば考えるほど、彼女の背中は遠ざかる。

大分前から彼女と二人で走り続けている。



走って走って走り続けて、体力と精神を消耗していく。

しまいには思考も働かずぼんやりしてくる。



それでもひたすら走り続けていたらあるとき急に足が軽くなった。

足や手や呼吸など身体中がうまく機能していくのがわかる。

すごいすごい、ずんずん進むよ。

まるで自分の身体じゃないようだ。

すごいスピードで走り抜け、ついには黒い影に追いついた。

横目で影の顔を覗き見るとそれは自分だった。

そうだったのね、と案外軽く受け止めてさらに大きく一歩を踏み込む。

次の瞬間、一気に追い越した。



急速に靄が消え去り視界がクリアになった。

目の前に何も走っていない、コースすらない世界。

真っ白な光だけの世界。

なんだこれ、最高じゃないか。

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