歩くたんぽぽ

たんぽぽは根っこの太いたくましい花なんです。

本物のヘドウィグ

2017年10月22日 | 音楽
大好きな映画がある。

もともとオフ・ブロードウェイのミュージカルで2001年に映画化された『Hedwig And The Angry Inch』。

舞台を引き継いで、映画版も監督・脚本・主演をジョン・キャメロン・ミッチェルが兼任している。



主人公のヘドウィグは東ドイツ生まれの売れないロックシンガー。

男性として生まれた彼女は性別適合手術をしたが失敗し、股間には「怒りの1インチ」が残ってしまう。

ヘドウィグはいろんな感情を抱きながら全米各地を巡業し愛の片割れを探し求めていく。



何を隠そう30代後半のジョン演じるヘドウィグが驚くほど美しい。

女性より女性らしく愛らしいのだ。

カルト的人気を誇るヘドウィグだが、私が一番好きなのは劇中に流れる曲だ。

そのほとんどをジョン本人が歌っている。

ジョンの声は楽器のように体に響く。

ハスキーボイスでありながら、安心感と切なさを秘めた心地よい声なのだ。

映画のサントラはすり切れるほど聞いた。



ある日ラジオを流していたら「ジョン・キャメロン・ミッチェル主演へドウィグアンドアングリーインチ公演が決定」と聞こえてきた。

はじめは聞き間違えかと思ったが、次のCMタイムでも繰り返し宣伝していたので思わず一人で奇声を上げてしまった。

何としても行かなければ。

予想通りチケットを手に入れるのは簡単ではなかったが、どうにか大阪公演を入手することができた。

本人の歌声を生で聞けるとは夢にも思わなかったから、行く前から浮き足立っちゃって落ち着かない。







会場入りして客席で待つこと約30分、待ちに待ったヘドウィグが登場し、

端から端まで総立ちの拍手喝采、会場の興奮がじりじりと伝わってくる。

みんな本当に大好きな人たちなんだろうな。



舞台の編成はとてもシンプルなもので、ジョンがヘドウィグを、

中村中さんがヘドウィグの台詞とその他の役全て、

あとはバンドのメンバーが5人いるだけで、他には誰も登場しない。



ジョンのことしか頭に入っていなかったけれど、共演の中村中さんもとてもよかった。

劇中のほとんどの台詞を中村さんが声色を変えて担当し演じ分けた。

ミュージカルは初めてだったので普通が分からないけれど、彼女の台詞量の多さには驚いた。

さらに歌を歌えば上手いのはもちろんのこと、芯の通った声で迫力もある。



ジョンにはあまり台詞がなかったけれど、動きと歌で会場を魅了した。

私の両隣には3、40代の女性が座っていたのだけど、ジョンが歌う度立ち上がり忙しなかった。

一番最初に好きになった『The Origin Of Love』は愛の起源を辿る歌。

この曲のイントロが流れ始めるだけで胸がいっぱいになる。

ライブなんだ、そこに本物のヘドウィグがいるんだ。





『Angry Inch』では客席のテンションがが大爆発、

『Sugar Daddy』は楽しすぎてこれはこれでなんだか泣きそうになるし、

『Wig In A Box』は歌詞にしみじみと思いを寄せて、とにかく終始情緒不安定。









なんて贅沢な時間だったのだろう。

思い返してみても本当にキラキラした記憶しかない。

最後に歌った『Midnight Radio』はやはり締めにふさわしい濃厚な一曲。

力強いのに儚くもあるジョンの歌声が人々の心をどうしようもなく鷲掴み感情を揺さぶる。





キャストが舞台袖にはけても、拍手は鳴り止まず、次第に大きくなるほどだった。

ほどなくして再び登場したジョンと中村さんとバンドメンバー。

まさかアンコールがあるとは思っていなかったので、また観れるという喜びが大きかった。

歌ったのは『The Origin Of Love』を彷彿とさせる新曲『End Of Love』。



感激したのはその後観客の拍手に答えてもう一度ジョンと中村さんが出てきて最後に挨拶してくれたこと。

もしかしたら日本公演の千秋楽だったというのもあるかもしれないけれど、

真摯でチャーミングな二人の言葉を聞けて嬉しかった。

ふと我に帰ると54歳のおじさんなんだけど、どうしてもそう思えない。



なんにせよジョン本人の公演を観る機会はもうないのではないかと思う。

一生に一度のチャンスだったかもしれないと思うと感慨も深い。

きっとヘドウィグはロックと性を司るシンボルなんだ。

本当に楽しませていただきました、ありがとう。


ジョンがSNSに載せていた写真。大阪公演のあとバンドメンバーと。


本公演の公式パンフレット。本仕立てになっていてさすがお洒落。
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森の人出現

2017年10月22日 | 日記
どうしてもコーラが飲みたくなって、夜な夜なコンビニへ行くことがある。

コーラとは不思議な飲み物で、体に悪いと分かっていても欲してしまう。

そういうときはあと10分我慢すれば気も変わるだろうに勢いのまま家を出る。

コンビニは歩いて15分くらいのところにあるので諦めきることもできないのだ。



夜の散歩というお気軽な感じで行くが一応夫Kにも付いてきてもらう。

夜は静かな住宅街で、メインの通りから1本奥の道なので車の通りも少なく街頭もあまりない。

いくらぼさぼさ女でも夜中に一人で歩くのはさすがに怖いというものだ。



ある日、コンビニまでの道中Kが変なことを言い出した。

「森の人がいた。」

よく冗談なのか本気なのかよく分からないラインを狙って変なことを言うのでいちいち反応する気はない。

「へぇ」

適当に返して相手が飽きるのを待つ。

「さっき、森の人がいた。」

「ふーん」

「いや、本当なんだって。」

なかなか折れない。

そもそも森の人ってなんだよ。

そんなの風の谷のナウシカでしか聞いたことないぞ。



森の人は漫画「風の谷のナウシカ」に出てくるキーパーソンだ。

たくさんいる登場人物の中でナウシカの一番の理解者的存在で私もファンの一人だ。

森の人は蟲を友とし蟲の皮で作った防護服を身に纏い腐海と共に生きる一族。

その中で長の息子セルムとの出会いはナウシカに大きな影響を与える。

いい画像がなかったので、誰かが作ったフィギュアの写真を載せておく。

再現度がかなり高い。



夜中の住宅街にこれがいたらかなり怖いよ。

防護服のフォルムが特徴的だ。

全体的にぼてっとしている。



「いやいたんだよ、森の人が」

なぜこんなにこだわるのか分からない。

話をちゃんと聞いてみると、森の人に似た何かがあるとのこと。

どうしても確認してほしいらしく、帰り道に一緒に探すことになった。

コンビニから家まで半分くらいのところに小さな神社があり、

その隣家の塀まで来たところで足が止まった。

異空間に足を踏み入れたような変な感じがした。

住宅街の家の塀に突如森の人が出現したのだ。



写真は暗くて分かりにくいけれど、本当に大きな人のように見える。

なんだかワクワクするようで、少しゾッとする不思議な植物の群生。

それからはこれを見るのが夜散歩の醍醐味になった。

どうか刈られませんように。
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池田学展The Pen-凝縮の宇宙-日本橋高島屋

2017年10月16日 | 
この秋、新宿の紀伊国屋書店で初めて彼の絵を見た。

ただの画集だったけど、開く前から予感があった。

数ヶ月前に母が、数週間前に大阪の知り合いが言っていた人だ。

画集を手に取り適当にパラパラとめくった。

はっとした。

タイトルは『The Pen』。

よく観もせず半ば興奮した状態でそれを買っていた。

陳列棚の側面に9月後半から日本橋高島屋で行われる展覧会のポスターが貼ってあった。

行こう。



作品数はそこまでないと踏んでいた。

大きな作品が数点観れれば満足だ。

10月1日に大学の友達と観に行くことになった。

日曜日だったから高島屋8Fの食品売り場まで池田学展目当ての人が溢れていた。

おばあさんが不思議な顔で「これは何の列か?」と聞いてきたほど場違いな行列だった。


池田学展The Pen-凝縮の宇宙-日本橋高島屋


入場料は800円のところ、友達が割引券を持ってきてくれていたので700円になった。

なんて安いんだろう。



入口に群がる人の中には、年配の人や若い人、子どもまでいた。

なかなか動かず辛抱しながら、ついに一つ目の大きな作品に到達した。

大学生の頃に描いた白黒の作品だ。

うっひょーーーーーー。

観るのに時間がかかるってのにも納得だ。

何しろ細かい。

タイトルのThe Penとは単純にペンで描いているという意味だ。

絵を描かない人はあまり馴染みがないかもしれないけど、

漫画家がよく使う丸ペンという極細のつけペンを使っている。

細かいだけなら適当に観るけど、細かいのに壮大で楽しくてやさしい。

遠目から観ると厳かな雰囲気すら観てとれる絵が、近づいて観ると全く違う顔を持っている。

細かさの中にユーモアがある。

みんないろんなところを指差して各々笑ったりつぶやいたりしている。

隣で観ていたおばさんが「ここにも何かいるよ」と話しかけてくるほど、気を緩ませてくれる不思議な絵だ。



みんなじっくり観るから人に気を使わずにじっくり観れる。

人がごった返す展覧会は嫌いだけど、今回はこれでよかったのかもしれない。



予想に反して作品数は100点以上。

全部観るのに2時間半くらいかかった。

展覧会には夫Kと行くことが多くその場合会場の入口で解散し別々に観て出口で再会するというのが常だが、

その友達は展覧会に行くのが初めてでできれば私と一緒に観たいと言うので二人で回った。

それが予想外に楽しかったのでK以外と行く時はそれもありだな。

人と見ると自分が気づかなかった部分にも気づけたりするのだ。

今回は絵に紛れている池田さんのサインを二人で探して盛り上がった。



ずっとファンだったならわかる。

つい最近知ってほとんど初めて絵を観てこんなに楽しかったのは初めてかもしれない。

もちろん「うまいっ!」とか「すごいっ!」てのは前提にあるのだけれど、

絵を観るだけでこんなにも楽しくなるというのはすごく不思議な体験だ。

動きもしないただ1枚の絵がまるで遊園地に遊びに行ったかのような満足感を与えてくれる。

私が今まで好きだった多くの画家と大きく違うのは絵が持っている絶対的な包容力だ。

世界観の押し付けがなく、むしろ「なんでもいいんだよ」と受け入れてくれている気がする。

なんてやさしい絵だろう。




シカゴで3年かけて描いた『誕生』。
彼の出身地である佐賀県立美術館が買い取った。



翌日何を思ったか数日家に帰ってなかったKから「池田さんのやつ観に行きたい」と連絡が来た。

私は私でなんの疑いもなく2日連続で観に行った訳だが、そこで思わぬサプライズに出くわした。

池田さんご本人がいたのだ。

それも近くまで来たから顔を出したという感じで、15分間くらいの短い滞在だった。

私はなんて運がいいのだろう。

スタッフが「池田さんのサイン会をやりますので、サインが欲しい方は画集を買って…」と声がけをしている。

これまた何の疑いもなく持っているのと同じ画集ともう一冊買ってサインをいただいた。

眼鏡をかけた素朴で柔らかい雰囲気の人だった。

声をかけると素の笑顔で「ありがとう」と言ってくれた。

私ってば本当に運がいいんだから、困っちゃうね。





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