歩くたんぽぽ

たんぽぽは根っこの太いたくましい花なんです。

親知らずとバナナパンケーキ

2019年02月20日 | 日記
奥歯のさらに奥に時折訪れる鈍痛を自覚した日から2年ほどが経ち、

痛む頻度と得体の知れない圧迫感は増すばかり。

なんとなく親知らずだろうなぁと思いながら放置し続けた結果、

いよいよ口が開かなくなってしまった。

ここにきて漸く毛ほどの決意を固め、先日歯医者さんへ行ってきた。



院長と思しき老練の歯医者さんはメガネにマスク姿でほとんど顔が見えない。

彼は分厚いメガネの奥から優しい声で一言、「覚悟ができたら抜きましょう」。

は、はい。



それからは早かった。

数日後にまた歯医者へ行き、思いの外待ち時間もなく、

すんなり通された診察椅子の上で10分ほどジタバタしていたら終わっていた。



いろいろと覚悟していたのだが、腫れも痛みも想像よりはましだった。

とはいえ抜歯後数日経っても抜いた箇所はひどい口内炎のような状態で。

普段通りにご飯を食べれるという感じでもなかった。

元々食に対する情熱も薄い方で痛いくらいなら食べないという自堕落な発想で過ごしていたら、

4日目くらいに急に体が変調をきたした。

自分の喉の奥の方から干からびた声で「あ〜ま〜い〜も〜の〜」と聞こえてくるのだ。

お腹も猛獣のような唸り声をあげている。

少しのおかゆで空腹をしのいでいたのだが、やはり栄養が足りなかったのだろう。



甘味に対する欲求が爆発しいてもたってもいられなくなりとりあえず台所へ走った。

飢えた泥棒の様に乱暴な仕草で引き出しや棚を引っ掻き回し何か該当するものがないか確認するが、

元々お菓子などあまり食べないので形になった甘味があるはずもなく一旦途方にくれる。

しかし再度確認すると卵と牛乳とヨーグルトとホットケーキミックスとバナナがあった。

うぉーーーしゃぁーーー!!

ということで一心不乱にバナナパンケーキ的なものを作り始めた。

シャシャシャーーー!!とバナナを切り、

カツンカツンーーー!!と卵を割り、

ワッシャワッシャー!!と全部ボウルに入れて

うりゃりゃーーーー!!とかき混ぜている時に、、、ふと我に返る。



「あれ、わたし何やってるんだろう」



急に冷静になると、一心不乱な自分がとても滑稽に思えて一人で笑ってしまった。

私はいったいいつから我を忘れていたのだろう。

ずいぶん前からのような気もする。

コメント (2)
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何者でもない私たちのポーズ

2019年02月03日 | 映画
先日夫と二人で知り合いA君が出演している自主制作映画を観に行った。

満員の山手線に乗ってがたんごとん揺られ、見知らぬ駅で降りた。



行く時は連絡してくれとA君に言われていたのだが、夫はなぜか連絡していなかった。

事前予約すれば200円安くなるし、A君にも挨拶できるだろうに。

観たらすぐに帰ると言う。

彼のスタンスは理解できなかったが、何かこだわりがあるのだろう。



会場に到着し受付に行くと当たり前のように「お名前は」と聞かれた。

事前予約をしていないことを告げると受付の人は驚いていた。



映画は約2時間ある長編で、制作費をクラウドファンディングで集めたというのだからすごい。

上映会場は50、60人入れそうな空間に椅子が敷き詰められており、

上映開始5分前に到着した頃には観客でほぼ埋まっていた。



脚本は私の好きなSF用語が飛び交う私好みのもので最後まで飽きずに観ることができた。

アラサーの物語なので、30歳の私にはいろいろと感じるものもある。

余韻を残す映画で、こういう場所から日本の文化は生まれていくのだろうなと思った。



映画の感想はひとまず置いておいて、話はここからだ。

私は観客に一言物申したい!

鑑賞中に身内感を出すのはやめてくれ!



お金を払って自主制作映画を観に行ったのは初めてのことで、

アンダーグラウンドな映画・演劇業界の特殊なコミュニティの空気に戸惑ってしまった。

観客の中には制作側と関わりを持たない純粋な映画ファンもいるとは思うが、

身内の一部が会場の空気を牛耳っている感じがとても嫌だった。

勝手な分析だが、身内と言っても家族や友人じゃなくて同業者が大半だと思う。



具体的な態度としては、笑いどころ。

ストーリーに笑うのではなく、知っている俳優に笑うのだ。

彼らは知り合いが映画に出ていることに笑っている。

「アイツ変な役やってんな〜」「アイツ、ひどいこと言われてやんの」という思いが含まれた笑い。

最初は自分の思い込みかとも思ったが、明らかに反応がストーリーからずれており、

同じようなことが繰り返されたためげんなりしてしまった。

身内であるがゆえの横柄な態度は、

映画を楽しむためには不必要なポーズあるいは押し付けがましい自己主張である。



自己満足で終わる世界ならそれでいい。

大学の映画研究部や趣味で映画制作をしている人たちの映画なら、そういう気持ちもわかる。

しかし、私はその映画は志を持った人たちがいい作品を作りたいと思って作ったものだと感じた。

その場合身内としてのポーズが空間に閉塞感を生み出し作品の広がりを妨げている。

小さな会場に人が密集しているので空気が伝染しやすいのだ。

映画の楽しみ方は人それぞれだが押し付けがましいのだけはやめておくれ。



何も知らない私が何もわかっていないことを言っているのかもしれない。

なんであれ足を運ぶ同業者がアンダーグラウンドなエンタメ業界を支えているのだとも思う。

しかし一映画ファンとしてその世界をわきまえるつもりはない。



私は純粋に作品を楽しみたかっただけなのだ。

帰り道ボソッとそんなことを夫に言ったら「だから俺は事前予約をしなかったんだ」と言われた。

たった200円だがそれを払うことで、知り合いとしてではなく客として行きたかったんだと。

それが彼のポーズ。

なるほど納得。



その後夫と別れて額用マットを注文しに新宿の世界堂に行ったのだが、マットの注文受付時間は終了していた。

チッ、っと心の中で舌打ちして大人しく帰ったのであった。


会場のある町。
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