台風9号が関東に直撃しているらしい。
激しい雨と窓を揺らす風、ラジオから流れてくるエルビス・プレスリーの"Can't Help Falling In Love'。
模様替した部屋の中から雨粒に滲む空を眺めながら、昨日のことを思い出す。
スタジアムに瞬く閃光、
汗の匂いと湿気、
歓喜する人々。
Radioheadが好きだ。
いつから聞いているのかもなぜ好きになったのかも覚えていない。
気づいたら特別なバンドになっていた。
去年は生で音楽を聞く機会がほとんどなかった。
その反動があったのかもしれない。
フジロックにSiger Ros、サマーソニックにRadioheadが来ると発表された時点で、
金欠になろうがなんだろうが今年の夏は音楽に没頭すると決め込んでいた(聞く専門)。
昨日はサマソニの2日目でヘッドライナーがRadioheadだった。
1日目は雨が凄かったらしく昨日も覚悟していたが全く降らなかった。
私は雨女だと思っていたけど、最近めっきり雨が降らないからもしかしたら晴れ女なのかもしれない。
カリフォルニアの韓国系アメリカ人バンドRun River Northに出会ったり、
再結成したYELLOW MONKEYの"JAM"が聞けたり、昼下がりのTwo Door Cinema Clubで優しい歌声に触れたり、
サカナクションで観客が踊り狂ったり、Radioheadを見なくとも十分充実感のある1日だった。
それでもRadioheadを見てしまったら、それだけが頭の中を支配する。
約20分遅れで現れたRadiohead、圧倒的な存在感が会場の空気を呑み込んだ。
さながら全てを吸い込むブラックホールのよう。
壮大で透き通った音の集合体は、色を変えながらどこまでも突き抜けていく。
これがRadioheadだという説得力でもって、想像の遥か上を余裕で超えていく。
吸収と放出を同時に行うビッグバンド。
アリーナの前の方にいたから会場全体を見ることは出来なかったけれど、
会場に居合わせたラジオMCが今日のラジオで「マリンステージがあんなに満杯なのは珍しい」と言っていた。
2012年のフジロックに来た時もそうだった。
確かエルビス・コステロが終わる頃か、急いで前の方に行こうとしたけど人が多すぎて断念した。
あの時はかなり遠くからゆったり見たけど、森の中で聞くRadioheadも最高だった。
2012年フジロックと同じく昨日のチケットも売り切れていたと聞いている。
昨日、"Airbag"に次いで"Reckoner"が終わり高揚感で満たされた中、静かにはじまったギターリフで会場がどよめいた。
聞きたいなんて願望すらおこがましく思える程の名曲"No Surprises"だった。
瑞々しい音の実体が体にしみ込んでいく。
隣に居た背の低い女性が号泣していた。
半分放心したような状態で迎えたアンコール、1曲目はまさかの"Let Down"、これも3作目の名曲。
その後数曲続いてMCに入った。
トム・ヨークが何やらごにょごにょと言った後間が開いて小さく「Yes」と言ったのが聞こえた。
始まったのは、"Creep"だった。
一瞬時が止まって次の瞬間、スタジアム全体が一斉に驚喜した。
地面を揺らす程の観客の叫びが鳴り響いた。
空高く掲げられた手、手、手、
どこまでも続く手、手、手、
信じられないと頭を抱える者、
両手で顔を覆う者。
大げさでなく、あの瞬間は一生忘れない。
I wish I was special
You're so fuckin' special
ガガッガガッ
ウォォォォォッォォォォォォーーーー!
But I'm a creep, I'm a weirdo
What the hell am I doing here?
I don't belong here.
バンドの音、トム・ヨークの歌声、観客の歌声、全ての音が共振していた。
音楽ファンの間でバンドの音楽性の変化がよく話題に上がるが、Radioheadも変化の道を辿ったバンドだ。
1作目のPablo Honeyに収録されている"Creep"が売れすぎて本人たちを苦しめたのは有名な話。
そこからの逸脱を求めるのは至極当然のことに思う。
そうした中アルバム2作目から3作目、3作目から4作目の変化は急激で、それが丁度90年代から2000年代という時代の節目と重なった。
もう十数年も前の話だ。
昔の曲をライブで聞くというのはレアなことでその体験はファンにとってとても大切なこと。
どんなバンドでも言えることだが、Radioheadはそういうイメージが一際強い。
Radioheadにおいて、その究極ともいえる曲が"Creep"である。
日本人にとって特にそうなのかもしれない。
ライブで封印してきた"Creep"を2003年のサマソニで解禁したことが伝説として語り継がれており、それ以来日本で未だ一度も演奏されていない。
その物語が日本人が持つ"Creep"に対する信頼と絆を強固なものにし、皆密かに"Creep"が聞ける日を待ち望んでいた。
好きか嫌いかということは関係なく、ただただ「特別」なのだと思う。
好きな曲をたくさん聞けたにもかかわらず今回"Creep"について書いたのは、"Creep"がもたらした現象があまりにも衝撃的だったからだ。
心からもの凄い瞬間に居合わせたと思う。
いろんなライブに行ったけどあんな体験は初めてだ。
スタジアムを埋める何万人もの観客の心が一つになったらどうなるのかという答えがあの場所にはあった。
そして昨日のライブは"Creep"で終わらなかったのが良かった。
"Creep"が答えな訳ではない。
最後は"Street Spirits"だった。
「まさか」が多すぎてよく分からなくなっているけれど、まさかThe Bendsの曲まで聞けるとは思わなかった。
ライブをライブと実感するのは案外難しい。
大抵、生で聞いた事実が過去になり言葉に代わり単なる記憶になる。
しかし昨日のRadioheadのライブは音が実体として胸に届き、見終わった後もその感覚は実感として生き続けると思う。
Radioheadがライブした直後のマリンステージ。
"Creep"の前のMCについて後から知ったのだけど、観客が「Creep?」と聞きその返答で「Yes」と言ったらしい。
セットリスト
1 Burn The Witch
2 Daydreaming
3 Decks Dark
4 Desert Island Disk
5 Ful Stop
6 2+2=5
7 Airbag
8 Reckoner
9 No Surprises
10 Bloom
11 Identikit
12 The Numbers
13 The Gloaming
14 National Anthem
15 Lotus Flower
16 Everything In Its Right Place
17 Idioteque
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18 Let Down
19 Present Tense
20 Nude
21 Creep
22 Bodysnatchers
23 Street Spirit