花男

松本大洋の漫画って本当に不思議だ。



例えば、人には普段の生活では使わない筋肉というのがある。

そういう筋肉は体を作るのに不可欠な構成要素のはずなんだけど、

使わないので知らないうちにだんだん衰えていく。

体のプロはそのことを知っているから、

自覚的にそういう部分を鍛えてバランスの良い体をつくっている。



感情も同じだ。

普段触れることのない隙間の感情というのがある。

どうすればそこに刺激を与えられるのか、素人の私にはわからない。

それどころか、それがそこにあることすら知らないのだ。

松本大洋の漫画はいつもそういう無自覚な感情を開拓してくる。



『花男』、

この漫画はバイブルだ。

こんなに優しい物語を私は知らない。

類稀なる暖かさに包まれて喉が細くなる。



『花男』は30過ぎてもなお巨人軍入団を夢見る破天荒な父と、

都会の競争社会で勉強ばかりしてきたエリート志向の息子との再会の物語だ。

プー太郎で自由奔放な父とそれをバカにする口の悪い息子という

一風変わったコンビが繰り広げる平和な日常と、

それを見守る街の人々がユーモラス、かつ丁寧に描かれている。

物語が進むにつれ凸凹コンビの息が合ってきてどんどん心地よくなってくる。

そしてラストには否応無く感情がほとばしるのだ。



くさいのはなかなか入ってこなかったりするけど、

『花男』はまっすぐ入ってくる。

いびつな背景と変な通行人と草野球の怪しい対戦相手と、

なんだかよくわからないものがごちゃごちゃと絡まり合って、

どストレートに響く、本当に変な漫画だ。

要は絶妙。



なんでこんな物語を描けるのだろうか、本当に不思議でしょうがない。



追伸、最後の方に『伝染るんです。』のかわうそくんが出てきてびっくりした。

万歳

いつか世界中で一斉に万歳できる日がきたらいいな。



新型コロナウィルスで世界が一変して、

最初の頃は突然のことに戸惑い、

先行きの不安や物理的な自粛要請によって、

頭を押し付けられているような息苦しさがあって、

そういう時に妄想した。

もしコロナが収束する日が来たら、

今までに見たことがないほど世界は歓喜して素晴らしい景色になるだろうって。

そう思うとウキウキワクワクドキドキした。

いてもたってもいられなくなって絵を描いた。

それが「万歳」。



現実的には経済との兼ね合いを見ていかなきゃいけないから、

「はい、ここで終わり！！」っていう明瞭な線引きはなくて、

段階的にコロナの世界に馴染んでいかなきゃいけない。

人って面白いものでどんな状況にも慣れていくらしい。

ここで反対に今まで受け入れてきた生活に疑問ができたりする。

当たり前のように受け入れてきたアレやコレってちょっとおかしいんじゃないって。

満員電車とか、外食ばかりの生活とか、汚染された空気とかとか。



こうなったらいい機会と自分の生活を省みて、

自分が元気にやれる方向にシフトしていければと思う。

ついでに行き過ぎの経済社会から少し離れられたらなおよし。

ほんの数ヶ月人間の活動が止まるだけで、地球は元気になるらしい。

ベネチアの運河が綺麗になったというのは有名な話。

他にも中国の大気が綺麗になったり世界中の温室効果ガスが減少したり。



いっそのこと人間だけじゃなく世界中で万歳できる日がきたらいいな。




「万歳」

流星ワゴンに乗る前に

重松清の2002年の小説『流星ワゴン』を知っているだろうか。

悲惨な現状に苦しむ主人公が時空を超えるワゴン車に乗って、

過去に戻り幸せな現在を手に入れるべく奔走するという物語だ。

今思えば今流行りのタイムリープものの走りじゃないかと思う。



なぜかは知らないけれど私の夫は無類のタイムリープ好きで、

過去に戻って頑張ってさえいればなんだって好きなのだ。

私はといえば随分前に夫に勧められて読んだのだがあまりピンとこなかった。

でも未だに強く印象に残っている箇所がある。

それは、

過去を振り返った場合人生にはいくつかの分岐点がありその時の行動が現状を決定づけているということ。

例えば不幸な現状があった場合、ある過去の時点に絶対に見逃してはいけないサインが発せられていたのに、

それを重要視しなかった、あるいは気づけなかった結果取り返しのつかない今になってしまっているということ。

『流星ワゴン』では妻や息子が発していたサインを見逃してしまったのだ。



私はよくこのことを思い出す。

私の場合は過去を振り返るというより、今が未来にとっての過去だという認識のもと思いを馳せる。

つまり今がまさに分岐点かもしれない、サインを見逃してはいけない、という風になるわけだ。

幸せな未来が欲しいという漠然とした思いすら浮かべず、ただ単純に「今」を遊ぶ妄想に近い。



一人じゃつまらないので夫にこの遊びを押し付けることもある。

夫にチクリと嫌なことを言われたら「今が分岐点かもしれないよ」って言い返したりして、

むしろ岐路に立たされているのは私の方だったって可能性の方が高いな。



それにしてもどうしたって『流星ワゴン』のラストが思い出せない。

主人公は幸せになれたのだろうか。

やはり大事なのは結末よりそこに至る過程ということか。

人生が続く限り、今なおずっと分岐点であり続けている。

『流星ワゴン』はきっと逆説的に「今を大事にしろ」と言っているんだろうね。

これが簡単そうで難しい。



重松清の小説がすごいのは印象的な考え方や強い言葉を読む人の心にざっくり刻むところ。

夫婦の会話で「流星ワゴン」や「分岐点」、それに『疾走』の「穴ぼこの目」といのは未だによく出てくる。

『疾走』も随分前に読んだけれど、あのなんとも言えない読後感は鮮明に覚えている。

人生でもう二度と読むことはないと言い切れる、なのにこんなに強く残っている、すんごい小説。


虫眼鏡で一人遊びパート２

匿名との距離感について

あえていうことでもないけれど、このブログは私の匿名ブログ。

名前を出さないで好き勝手に書いている。



ところで今更だけどSNS社会における匿名文化って面白い。

名前も顔も指紋も明かさないで情報をやり取りする文化。

普段あまり気にしないけれど、とてつもない曖昧さだ。

そもそも匿名の「匿」ってなんだ。

 

大学生の頃ゼミの教授に「情報元を明確にしろ！」と口すっぱく言われたもんだ。

所謂「ソース」ってヤツだ。

重要なのは真実か否かより、誰が言ったことなのかが明確であること。

情報とは扱う人物の相関図のようなものだと思っている。

普段はかなりいい加減に接しているけどね。

 

ここであえて匿名文化をエンジョイしてみるというのはどうだろう。

自分が発信者であるときはいいさ。

大事なのは受信者であるときに匿名とどう向き合うのかという話。

情報との距離感さえわかっていればその不確かさや凡庸さを楽しめる気がしている。

「情報収集」とは別の分野、、、そうね「娯楽」のボックスにでも入れてしまえばいい。



匿名ブログとは、ネットという宇宙空間に所在無げに浮かぶ無数のデブリさながら。

中には掘り出し物もいっぱいあってそれを探すのも一興。

一つの情報に特化したブログは生活や趣味を大いに豊かにしてくれるし、

ゆるい日常ブログはときに心を和ませてくれる。

 

さて、この匿名ブログはどこに軸を置くかだけど、

こんなのは今更すぎるかな。

まっいっか。

私の生活はたいてい「まっいっか」で片付く。

それに何かを決めて続けるのは向いていないんだ。


虫眼鏡で一人遊び

タタカエブリバディ

閉塞感にうんざりはするけど、

そこまで落ち込んだりもせず元気にやっている。

「元気かい」なんて珍しい人に連絡してみたり、

今はやりのオンライン飲み会したりして、

みんなこの状況に打ちのめされないようにそれぞれ工夫してる。



なんだけど、ウルフルズの『タタカエブリバディ』にはじーんときた。

まさに不意打ち。

一昨日の深夜にフジテレビで放送された綾小路翔がMCの家フェス、

「STAY HOME STAY STRONG〜俺んとこ来ないで」でウルフルスが歌っていたのだ。



この有無を言わさない感じ。

「コロナこわいコロンこわいコロナこわい、ビビるでービビるでービビるでーなう」

で、まるっきりレッチリの『Give it away』じゃん！！って笑って、

セリフ調のところでほんとだよってなって、サビでパーンって視界がひらける。

一回全部吐き出せや、そしたら顔上げていこうぜって強めの大阪弁で背中を押してくれる。

タタカ〜エ〜ブリバ〜ディ〜〜声高らかに高らかに♬




サムクックが気になる