☆突然、まるで崩れるように
シェラが倒れた。
転んだという程度ではなく、立っていたのが崩れるように倒れてしばらくは意識も遠のいてしまったはずである。
今朝、いつものとおり散歩から帰ってきてクレートの前に立っていた。すぐわきの植え込みの中にはむぎネコがいる。ぼくが植え込みをのぞいてから、「さあ、シェラ、帰ろう」と声をかけると、後足が流れ、全身が崩れるように倒れてしまったのである。
ふと、呼吸をしていなかったむぎを思い出す。だが、シェラは胴体を大きく弾ませて、荒い呼吸を続けていた。
脚が折れてしまったのではないと思うくらい不自然な倒れ方だった。今朝もルイ連れだったが、幸いトートバッグに入れていた。
荒く、苦しげな呼吸は一分ほどでおさまった。
まだ、息は荒いが、なんとか動かせそうである。身体を持ち上げ、ようやくクレートの中に押し込んだ。多少足ははみ出しているが、そのままエレベーターに乗ってわが家の前に運んだ。
扉を開け、大声で家人を呼びながらルイをケージに入れ、取って返すとクレートからシェラを抱え出し、家の中に運んだ。シェラがいつも使っているわんこベッドに横たえる。
家人がパニックにならなかったのがよかった。むしろ、どちらかというと、ぼくのほうが動揺していたかもしれない。
ほどなく呼吸がおさまってきた。意識はしっかりしているようだ。立ちはしないが、体を動かし、普通に伏せた姿勢になる。目の前に出してやった水を、コップ一杯ほどの量を一気に飲んだ。
散歩から帰ってきたシェラのためにと家人が用意したばかりの餌を出すと、そのままの姿勢で食べた。食欲はあるようだ。しっかりとした様子で余さずに食べ終えた。
☆心残りの今日の予定
「きっと心臓発作ね」
むぎの経験が利いたのか、家人もしっかりしていた。
餌を食べ終わると立ちあがり、テーブルの下までしっかりした足取りでやってきた。
ぼくが朝ごはんを食べている間、足の下にうずくまってぼくの顔をじっと見つめている(写真)。
心細そうな表情である。助けを求めているようにも見える。食事をしながらぼくは何度も手を伸ばしてシェラの頭をなでてやった。
わき目もふらず、じっとぼくを見つめ続けるシェラの目がぼくには辛かった。
「シェラ、ごめんよ。休んでおまえのそばにいてやりたいのはやまやまだけど、今日はどうしても会社を休めないんだ」
ぼくはシェラに何度も言って聞かせた。ぼくが椅子から離れると、今度は家人の顔をじっと見つめている。
ぼくが後ろ髪を引かれる思いで出勤の仕度を終えると、シェラはテーブルの下を離れ、ぼくに背を向けてベランダの前に移動した。引戸の敷居に顎を乗せて寝そべり、じっとしている。
「シェラ、いってくるからね。なるべく早く帰るよ。あとでお兄ちゃんがきてくれるからな」
背後からシェラを撫でてやる。
もしかしたら、これがシェラとの最後の別れになるかもしれない。背後でケージの中のルイが激しく吠えた。
シェラを家人に託してぼくは家を出た。
会社の最寄り駅に着いて電話をしてみると、シェラは落ち着いて同じ場所で寝ているという。
時間が比較的自由になる仕事のせがれもきてくれた。しばらく様子を見て、落ち着いたままなら、病院へ連れて行くのはぼくが帰ってからにするつもりでいる。
シェラも16歳と10か月、人間の年齢に換算すると84歳ほどである。いつ何があってもおかしくない。むぎのおかげでその覚悟だけはできているはずなのだが……。
シェラが倒れた。
転んだという程度ではなく、立っていたのが崩れるように倒れてしばらくは意識も遠のいてしまったはずである。
今朝、いつものとおり散歩から帰ってきてクレートの前に立っていた。すぐわきの植え込みの中にはむぎネコがいる。ぼくが植え込みをのぞいてから、「さあ、シェラ、帰ろう」と声をかけると、後足が流れ、全身が崩れるように倒れてしまったのである。
ふと、呼吸をしていなかったむぎを思い出す。だが、シェラは胴体を大きく弾ませて、荒い呼吸を続けていた。
脚が折れてしまったのではないと思うくらい不自然な倒れ方だった。今朝もルイ連れだったが、幸いトートバッグに入れていた。
荒く、苦しげな呼吸は一分ほどでおさまった。
まだ、息は荒いが、なんとか動かせそうである。身体を持ち上げ、ようやくクレートの中に押し込んだ。多少足ははみ出しているが、そのままエレベーターに乗ってわが家の前に運んだ。
扉を開け、大声で家人を呼びながらルイをケージに入れ、取って返すとクレートからシェラを抱え出し、家の中に運んだ。シェラがいつも使っているわんこベッドに横たえる。
家人がパニックにならなかったのがよかった。むしろ、どちらかというと、ぼくのほうが動揺していたかもしれない。
ほどなく呼吸がおさまってきた。意識はしっかりしているようだ。立ちはしないが、体を動かし、普通に伏せた姿勢になる。目の前に出してやった水を、コップ一杯ほどの量を一気に飲んだ。
散歩から帰ってきたシェラのためにと家人が用意したばかりの餌を出すと、そのままの姿勢で食べた。食欲はあるようだ。しっかりとした様子で余さずに食べ終えた。
☆心残りの今日の予定
「きっと心臓発作ね」
むぎの経験が利いたのか、家人もしっかりしていた。
餌を食べ終わると立ちあがり、テーブルの下までしっかりした足取りでやってきた。
ぼくが朝ごはんを食べている間、足の下にうずくまってぼくの顔をじっと見つめている(写真)。
心細そうな表情である。助けを求めているようにも見える。食事をしながらぼくは何度も手を伸ばしてシェラの頭をなでてやった。
わき目もふらず、じっとぼくを見つめ続けるシェラの目がぼくには辛かった。
「シェラ、ごめんよ。休んでおまえのそばにいてやりたいのはやまやまだけど、今日はどうしても会社を休めないんだ」
ぼくはシェラに何度も言って聞かせた。ぼくが椅子から離れると、今度は家人の顔をじっと見つめている。
ぼくが後ろ髪を引かれる思いで出勤の仕度を終えると、シェラはテーブルの下を離れ、ぼくに背を向けてベランダの前に移動した。引戸の敷居に顎を乗せて寝そべり、じっとしている。
「シェラ、いってくるからね。なるべく早く帰るよ。あとでお兄ちゃんがきてくれるからな」
背後からシェラを撫でてやる。
もしかしたら、これがシェラとの最後の別れになるかもしれない。背後でケージの中のルイが激しく吠えた。
シェラを家人に託してぼくは家を出た。
会社の最寄り駅に着いて電話をしてみると、シェラは落ち着いて同じ場所で寝ているという。
時間が比較的自由になる仕事のせがれもきてくれた。しばらく様子を見て、落ち着いたままなら、病院へ連れて行くのはぼくが帰ってからにするつもりでいる。
シェラも16歳と10か月、人間の年齢に換算すると84歳ほどである。いつ何があってもおかしくない。むぎのおかげでその覚悟だけはできているはずなのだが……。