☆13年も可愛がってきたのだから
むぎの話をするとき、シェラが聞き耳を立てているからと、ぼくたちはあえて「むぎ」の名を避け、「お嬢」と呼び、すぐに「嬢々(じょじょ)」になってしまったが、いまも不用意にむぎの名前を出してしまうことがある。
むぎが旅発った当初のように、シェラが鋭く反応する様子はないが、それでもまだ3か月しか経っていないので気をつけるようにしている。
だが、ルイがきて以来、ぼくも家人もむぎの名を連発してしまうことが増えた。むぎの思い出話のときではなく、ルイに対して、つい、「むぎ」と呼んでしまうのである。褒めるときも、怒るときも、何気なく声をかけるときも、口をついて出てくる名前はルイではなく圧倒的にむぎになってしまう。
その度に家人がやればぼくが、ぼくがやれば家人が指摘する。
「しょうがないわよ、13年も可愛がってきたんだから……」
今日、家人がしみじみといった。
ルイがコーギーでなかったとしても、やっぱりぼくたちは「むぎ」と呼んでしまうだろう。わが家にいるべきわんこは、まだ、シェラであり、むぎなのだ。
☆わんこの社会性の意外性
ぼくたちの意識の奥底ですらそうなのだから、シェラがルイを容易に仲間として容認しないのは、シェラの性格から仕方のないことなのだろう。
以前、コーギー掲示板で知り合ったサンフランシスコ在住の方のところでは、オスのシェルティーが、その日からコーギーのパピィを仲間として受け入れていた。たしかに、元来、社会性のあるお利口なシェルティーだった。
印象的だったのは、以後、このシェルティーまでほかのわんこたちと遊べなくなり、目の前で遊ぶほかのわんこたちをふたりで並んでじっと見ていたそうである。
そのあたりで、ご主人がリストラに遭い、わんこのことより飼主の深刻な話題で終始して、以後のわんこたちの様子はわからずじまいだった。きっと、ほどなくよそのわんこたちとも再び仲良く遊べるようになっただろう。
☆急速に馴染みはじめてる
今日のシェラは、昨日よりもさらにルイに対して寛大に振る舞うようになった。ルイを避けようとする態度が稀薄なっている。そんなシェラの変化をいいことに、ルイがシェラの気を引こうとそばに寄るとやっぱり吠えて追い払おうとする。
その吠え方が、怒っていうというより、「やめてよ!」とでもいいたげな声音なのがおかしくてならない。
今夜もつい先ほど雨夜の散歩に引っ張り出された(冒頭の写真)。オシッコこそすぐにすませたが、あとはひたすらにおいを嗅ぐばかりである。遠くへいこうとはしない。半径100メートル足らずの範囲でのシェラの情報収集行動である。
昼間、遊びに出かけた八王子の長池公園でも、自分の身体の衰えを忘れたかのように夢中でもっと先までいこうとする。
もう、「むぎを探しているのだろうか?」なんて手前勝手な発想はしないけど、やっぱり、何が知りたくてそんな執拗になるのかシェラに訊いてみたくてならない。