☆冬のキャンプの申し子
この10年ばかり、わが家は年末からキャンプに出かけ、キャンプ場で新年を迎えるのが恒例になっている。場所は伊豆の里山の一角にある高規格キャンプ場である。
12月の30日に現地へ入り、正月2日もしくは3日までテント生活を楽しむ。温暖な伊豆とはいえ、真冬のアウトドアである。朝方は0℃を切ることも珍しくない。雪に見舞われた年もあった。寒いけどやっぱり楽しくて、毎年心待ちにして出かけてきた。
「一体、この幸せがいつまで続いてくれるのだろうか」
特に近年、そんな思いを噛みしめながら出かけてきた。問題は、老年期を迎えたシェラがどこまで真冬のアウトドア・ライフに耐えられるかである。キャンプという家にいるよりは過酷な環境がいままでどおり快適だと感じてくれるかどうかでもある。
少しでもシェラの負担になりそうならいつでもキャンプをやめることにいささかの躊躇もない。
☆シェラはベテランキャンパー
物心ついたときからキャンプに連れ出されてきたシェラはベテランのキャンパーである。正確に数えたことはないが、16年間の半生で200日に至らんとするキャンプでの夜を送ってきた。
わんこながら、キャンプでの過ごし方、楽しみ方を熟知している。何よりも、テント生活が大好きである。真冬のキャンプは寒さにめっぽう強いシェラの独壇場だ。
シェラに比べたらむぎのほうが寒さに弱かった。去年から今年のかけての年越しキャンプでは、テントの床をホットカーペットで暖めているにかかわらず、寝るとき、むぎはぼくのシュラフに潜り込んできた。
シェラはというと、相変わらずホットカーペットの上を避け、テントの隅のほうで床からの冷たさをものともせずに寝ていた。
あれから半年ほどの今年6月、シェラは不意に足の衰えを自覚したらしく、毎朝の歩き慣れた散歩コースを拒否して反対方向の近場を散歩の場所にした。一切の妥協を排したシェラの頑ななまでの自己主張にぼくはただただ圧倒されて従うだけだった。
☆ルイのキャンプデビューへ!
そして、7月、むぎの死に遭遇する。
9月、少しでも元気を取り戻そうと、ぼくたちはシェラとともにむぎの追悼キャンプに出かけた。いつもむぎと一緒にいった白樺の森へ……。
むぎのいないあまりの味気なさに、年越しキャンプへの意欲を失った。
だが、ルイが家族の一員となったいま、家人とシェラの会話に変化が生じた。
「シェラちゃん、元気になってみんなでまたお正月のキャンプへいこうよ」
シェラが今年の年越しキャンプにいかれるかどうかは微妙だが、家人の言葉は、ぼくたちの共通の希望でもある。
ルイの登場によってシェラに元気がよみがえり、今年も年越しキャンプに出かけて新しい年を共に迎えたい。それはルイのキャンプデビューでもある。