「大いなる沈黙へ」に通じるような。
「雪の轍(わだち)」74点★★★★
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世界遺産トルコ・カッパドキアにある
ホテルのオーナー、アイドゥン(ハルク・ビルギネル)。
かつて俳優だった彼は、
トルコ演劇史を書こうと考えながら
若く美しい妻(メリサ・ソゼン)のいる裕福な暮らしを
のんびりと味わって過ごしている。
しかし、ある日、彼の車に
石が投げ込まれる。
犯人はアイドゥンに家を借り、支払いを滞納している
一家の幼い息子だった。
その事件から、徐々にアイドゥンの周りで
さざ波が立ちはじめ――?!
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2014年、第67回カンヌ国際映画祭の
パルム・ドール大賞受賞作。
そして
3時間16分の長尺!
しかもミステリーが起こるとか、
イタリア映画みたくある家族の一代記とか、そういうドラマでもない。
カッパドキアという
非常に珍しいロケーションのなか、
地主である富裕な主人公のデカダンな
どこかユウウツな日々が描かれるのみ。
なのに、これがけっこう飽きないんですわ。
富の分配とか、
高潔や善意と、高慢のあいだとか
いろいろと考えさせられる。
印象に残ってるのが
主人公が貧しき隣人の荒れた家を見て言うセリフ。
「貧しくとも、それは(品位や美徳を失う)言い訳にはならない。
例えば3粒のオリーブを皿に盛って食べるか、
袋から貪り食うか、の違いだ」
思わず
彼の言葉にうなずいてしまうんですが
それは同時にワシ自身、やはり
“真の余裕のない人”を思いやりきれていない
高慢なのかな、とも思ったり。
監督はチェーホフの3つの短編を題材にしたそうですが
ワシ的にはピケティを思った、という感じでした。
で、3編の短編が何かを
来週30日発売の『週刊朝日』ツウの一見で
チェーホフ研究の浦雅春さんにお話を伺っておりますので
ぜひご覧くださいませ。
この深淵なる映画世界が、より深くなると思います。
★6/27(土)から角川シネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開。
「雪の轍」公式サイト