ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ラブレス

2018-04-04 23:30:49 | ら行


その不在が、最大の罰。

「ラブレス」77点★★★★


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現代のロシア。

一流企業で働く夫(アレクセイ・ロズィン)と

美容サロンを経営する妻(マルヤーナ・スピヴァク)は

離婚協議中だ。

 

お互いに新しい恋人がいる二人は

どちらも12歳になる息子を引き取りたくない。

 

夫婦は毎日言い争いをし

挙げ句の果てに、息子を押し付け合う。

 

その翌朝、息子の姿は消えていた――。



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「父、帰る」(03年)「裁かれるは善人のみ」(14年)などで知られる
ロシアの鬼才、アンドレイ・ズギャンツェフ監督の新作。

今年のアカデミー賞外国語映画賞ノミネート作です。

 

サスペンスではあるんだけど

とにかく
いまの時代の「いや~な空気」を的確に捉えていて
実におもしろい映画でした。


冒頭からしんしんと降る雪のなか、

ピアノの旋律とカメラの動きだけで、強烈な「不穏さ」が伝わってくる。


主人公夫婦は、いいアパートに暮らし、身なりもおしゃれでスマートな
そこそこの成功者たち。

しかし夫婦は離婚協議中で
しかもすでにそれぞれに恋人がいて
自分の息子を相手に押し付け合っている。


まるで共感できないクズカップルなんですよ。

で、
そんな両親の話を聞いた息子は、翌朝、姿を消す。

両親はここでようやく慌てて
息子を探すんだけど、なかなか見つからない。

そう、彼の不在こそが、身勝手な大人たちへの
最大の罰、なのだ。


少年はどこへ行ったのか。
無事にみつかるのか。

その行方はもちろん心配なんだけど、

それよりも我々は
不倫の末に若い女を妊娠させたこの夫が
また将来、同じことを繰り返すだろうなとうんざりするし、

スマホに夢中で
目の前の息子に目もくれない妻が
息子を思って涙する様子に、しらけた気持ちになる。
さらに彼女の母親を見れば、彼女の冷えた将来も透けて見えるしね。

 

監督は
古来から繰り返される人間の愚行、
それがスマホやセルフィー、SNSによって、より表面化してきた現代を

鋭く観察している。

 

ここに描かれるのは

結局、自分しか愛せない人間と、社会の空気が引き起こす悲劇なわけで。

 

それを静観する、監督の視線の、冷徹さ。

怖いけど、しびれますねえ(笑)


そうした現代の「愛のない=ラブレス」な現状から
抜け出す術は、ただひとつ。
「他者のために尽くすこと」だと
インタビューで監督はおっしゃっていました。

その実例が、映画でも重要な役割を果たしています。

 

今週発売中の「AERA」(4/9号)で

監督インタビューを含め、いまの時代の空気を切り取った

映画たちを紹介しています。

映画と併せてご覧いただければ幸いです~。

しかし監督、冷静でかっこよかったけど

切れ味鋭いナイフのようだったわ……(笑)

 

★4/7(土)から新宿バルト9、ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国で公開。

「ラブレス」公式サイト

コメント
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