「鉄男」(89年)「野火」(14年)の塚本晋也監督が
初の時代劇に挑戦す。
「斬、」74点★★★★
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江戸時代末期。
250年のあいだ、戦のなかった世。
農村に身を寄せる若き浪人・杢之進(池松壮亮)は
農家の手伝いをし、住まいと食を得ていた。
武士に憧れる農家の息子・市助(前田隆成)に稽古をつける姿は
一流の剣士だったが
市助の姉・ゆう(蒼井優)は複雑な思いで二人を見ている。
そんなある日、村に
腕の立つ浪人・澤村(塚本晋也)が現れる。
杢之進の腕に尋常でないものを感じとった澤村は
彼を京都の動乱に参戦しないかと誘う。
ようやく、武士たる仕事ができる・・・・・・と
自らを奮い立たせる杢之進だったが――?!
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塚本晋也監督、初の時代劇。
「野火」のあとだけにかなり身構えましたが
思ったほどにザックザックの血しぶきではなかった。
刀を扱う所作も、ただ者ではない感を漂わせる
杢之進(池松壮亮)氏ですが
そこに大きな「仕掛け」があり、それが映画のミソであり、問いかけなのだ。
血は最小限でホッとしましたが、伝わるものはしっかり重い。
特に塚本監督らしいのは「音」。
刀の重さ、つかの重さがガッシャガシャと感じられ、
そこに、命の重さ、というものも感じる。
我々はこれまで
時代劇でいとも簡単に刀を扱う人々を見てきたけれど、
しかし、刀を扱い、人を斬ることは、
人の命を奪うことは、そんなに簡単なのか?
杢之進も、ゆうも
知らぬまま、引き返せない「時代の空気」に巻き込まれようとしているのではないか?――
その問いは、まさに
不穏がどんどん増幅していく
いまの時代にガンガンと響きます。
監督と蒼井優さんに「AERA」(こちらから読めます)でインタビューさせていただきましたが
監督は「野火」を作ったあとも、時代がどんどん「不穏」に加速する状況を前に
この映画を作らざるを得ない、と思ったそうです。
そして蒼井優さんはなんと15歳のときから
塚本作品を「こっそり」見ていたという筋金入り。
池松氏と蒼井氏、素晴らしいキャストを得て
監督の伝えたかったものは、見事かたちとなり、観客に伝わるはず。
幕末の浪人に現代に通じる感覚を持ち込んだ池松壮亮氏もさすがですが
山に響く
蒼井優氏の叫びに、のまれそうです、はい。
★11/24(土)から渋谷・ユーロスペースほか全国で公開。