ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

WINWIN ダメ男とダメ少年の最高の日々

2012-08-14 20:39:26 | あ行

世間はお盆だってのに、
全然休めなくて、心がすさんでませんか?(ワシか)
気持ちが晴れるいい映画、いかがすか?


「WIN WIN ダメ男とダメ少年の最高の日々」80点★★★★


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米・ニュージャージーの弁護士マイク(ポール・ジアマッテイ)は、
不景気で仕事激減。収入も激減。

悩んだ末、彼は自分が弁護を担当していた
ある裕福な老人の後見人になり、
彼を介護することで出る報酬で、小銭を稼ごうとする。

違法スレスレだけど
ちゃんと老人の面倒も見るし、まるきり悪ってわけじゃないしー。

が、そんなとき
彼の孫だという16歳の少年が現れる。

マイクは成り行きで、行く当てのない彼の
面倒を見ることに。

しかし、この少年、
とんだ不良かと思いきや
実は素晴らしい才能を持っていて――?!

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「扉をたたく人」(07年)の
トム・マッカーシー監督の新作です。

残念なサブタイトル(失笑)はおいといて、
見れば絶対気に入ってもらえると思う。


サブタイトルの「ダメ」は
一般に言うダメとはちょっと違ってて、

ごく普通の、そのへんにいる誰もが
自然に持っている「善」と「ダメ」に
さりげなく触れていて、微笑みが出る。


出尽くした感ある家族再生話も、
まだまだやりようがあるんだなあと感心しました。


不景気に介護……と現代らしい様々な事情で
しおしお、しょぼしょぼな大人たち。

そこに少年が現れ、
その若さと未来のある様子を見るだけで

みんながなんか希望の光に照らされるような
あったかい話なんですわ。


しかしもちろん単純な“いい話”ではなく、
少年の家庭の事情とか
結構シビアな紆余曲折もあり。

緩急あるうまい脚本と、
細かい観察眼を持つ、流れるような運びの演出で、

ポール・ジアマッティはじめ、
すべての登場人物がナチュラルに芝居をしてるので
隣人に話を聞いているような感覚になります。

あんまり宣伝もしてないけど、
これはね、オススメですよ。


★8/18(土)からシネマート新宿で公開。ほか全国順次公開。

「WINWIN ダメ男とダメ少年の最高の日々」公式サイト
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アベンジャーズ

2012-08-12 21:47:51 | あ行

ま、お祭りですから。

「アベンジャーズ」63点★★★

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国際平和維持組織シールドの長官(サミュエル・L.ジャクソン)らは
地球侵略の危機に際し、

女スパイ(スカーレット・ヨハンソン)に
ヒーローたちを集結させるよう命じる。

集められたのは、
アイアンマン(ロバート・ダウニーJr.)にソー(クリス・ヘムズワース)、
超人ハルク(ブルース・バナー)、
そして冷凍保存されていたキャプテンアメリカ(クリス・エヴァンス)。

出自も、境遇も、まあ性格も違う
最強ヒーローたちは
力をあわせて地球の危機を救うことができるのか――?

*********************


マーベル・コミックのヒーローキャラが大集合する
お祭り映画です。

これを楽しむために(?)
せっせと各人主役の映画を見ていましたからね(笑)

「おいおい、アイアンマンとマイティ・ソーが
内輪揉めしてるよ!
とか、
「おいおい、スカヨハ強すぎじゃね?」とか

この映画は、あくまでも全てをわかった上で、
各キャラクターの個性と、そのぶつかり合い、魅力を楽しむものであり
まあ話は大したことはありません(笑)


だからいきなり予備知識ナシにこれは
つらいと思います。

アイアンマンこと、トニー・スタークがムードメーカーとなり、
笑いを提供するのは想像どおりだけど、
意外に「ああ、あの人がリーダーシップを発揮するんだあ」とかね。


敵も見覚えあるなと思ったら、
ソーの弟だった、とか。


とにかく主役を張ってた役者たちが、
1つの映画に出るわけですから、
まあそこを楽しむもの、という。

こうして4ヒーローを並べてみると
やはり
スターク=ロバート・ダウニーJr.の
キャラクター造形はずば抜けているなあとか。

にしても、
バトルが見どころとはわかっていても
めまぐるしいCG画面が続き、
戦い中にガクンと眠くなりました。


「日本よ、これが映画だ!」の宣伝コピーが、
一部で物議を醸しているようですが

「これが祭りだ!」にしとけば
誰も文句言わなかったのに、なんて(笑)


★8/14(火)から先行上映。17日(金)から、全国で公開。

「アベンジャーズ」公式サイト
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聴こえてる、ふりをしただけ

2012-08-11 16:39:56 | か行

精神科の現役看護師である女性監督の
初長編デビュー作。

つたなさもあるけど、
意外に、残るんだこれが。


「聴こえてる、ふりをしただけ」57点★★★

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突然母を亡くした
11歳、小学5年生のサチことさっちゃん(野中はな)。

周りの大人たちは、
「お母さんはいつもそばで見守ってくれている」というけれど、
あんまり信じられない。

そんなとき、
「お化けが怖い」という転校生がやってくる。

人は死んだらお化けになるの?
だったらお母さんに会える――?

そしてさっちゃんは
あることを試してみるのだが・・・?

***********************

二児の母である監督が、
自身の子ども時代の記憶をもとに描いた作品だそう。


さっちゃんが理科の授業で習う
「魂と心の関係」のくだりにはハッとさせられる。

つまり
「“心”と思ってるものも、すべて脳みそが考えてることだ」ってこと。

そんな高度なこと
習った覚えは全くありませんが(単にアホだったんだな。苦笑)

いまこの年になっても
けっこう「ハッ」とさせられました。


ちょっと“もさっと”したさっちゃん役の子と、
カメラが秀逸で

自然光を生かし、子どもの外側の柔らかさと、内側の柔らかさ、
両方を映し出している。


なんだけど、話はかなり表層的。

「お化け」と「お母さんの霊」を重ねたさっちゃんは、
静かに悩み、答えを出していくんだけど、


どうかなあ、
今の11歳っても少し色々考えてるし、
もっと世慣れてないかなあ。


妻の死を受け入れられず、
どんどん壊れていく父親、というのも
なんだか定石っぽく、

もう三歩ほど潜って欲しかった、という
気もします。


何より思ったのは
小学校の教室が静かすぎること。

取材で行くと
ホント、とてつもないもんねあのパワー・・・。

そんな感じで、
どこか“完全リアルと”いうよりも、
監督の“思い出の子ども時代”の
ノスタルジーを強く感じる作品だったんだけど、

それでも、けっこう残るんだよねえ不思議と。


★8/11(土)から渋谷アップリンクほかで公開。

「聴こえてる、ふりをしただけ」公式サイト
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Virginia/ヴァージニア

2012-08-09 23:52:52 | あ行

なんだろう、
1920年代のサイレント映画を
思い出させるようなこのムード。



「Virginia/ヴァージニア」69点★★★★


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さほど売れてない小説家のホール(ヴァル・キルマー)は
サイン会のために、ある田舎町を訪れる。

うち捨てられ、時を止めたようなその町には
不思議な時計台があった。

ホールはミステリ好き保安官(ブルース・ダーン)から
最近町で起きた、謎めいた殺人事件について聞く。

「次回作のネタになるかも・・・」と、
町を散策していた彼は
霧の立ちこめる夜の森で、V.(ヴィー)と名乗る少女に出会う。

そしてホールは彼女に導かれ、
かつてこの町で起きた、おぞましい事件を知ることになり――。

*********************


フランシス・F・コッポラ監督が、
エル・ファニングを主演に迎えて撮った作品。


監督がスランプ作家を描くとか、スランプ監督を撮るとか
けっこうグチャグチャになりがちで、
正直、あまり期待してなかったのですが(失礼!)

どっこい
自主制作っぽい規模と味わいが
巧い具合に作用した、なかなか味わいある作品でした。

89分とコンパクトだし、
趣味で作ったショートフィルムという感じで、
割りと好きな世界観だなア。

1920年代のサイレント映画のようなムードもあり、
デヴィット・リンチっぽい迷宮世界にも似ている。

夢とうつつの交わりかたも悪くない。

ホラーやミステリーというより、
幻想的で月明かりに照らされた
冷たく哀しい美しさが印象的でした。

コッポラ監督は、97年以降、
10年以上も単独監督作品を撮ってなかったけど

そんな彼が
また「撮りたい!」という気力を戻して撮ったのが
「コッポラの蝶の夢」(07年)と
「テトロ 過去を殺した男」(09年)。←未見。。。

これらは
(1)オリジナルストーリーであり
(2)個人的な要素を持ち
(3)自己資金で撮る

っていうのを、ルールに撮られたそう。

本作はその3作目で、

大巨匠のいろんな“もがき”みたいなものが昇華され、
あれまあ、意外に学生の作品のような
シンプルな若々しさがあったりするのにも「へぇ」って。


でもまあ、たぶん監督は
月明かりに照らされるエル・ファニングを
撮りたかったんじゃないかなあと、思いますよね(笑)


★8/11(土)からヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開。

「Virginia/ヴァージニア」公式サイト
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桐島、部活やめるってよ

2012-08-07 23:26:01 | か行

これはね、巧い映画。
やられました。

「桐島、部活やめるってよ」81点★★★★


**********************

とある高校の、ある金曜日。

放課後、
映画部員の前田(神木隆之介)は
次に撮る映画の件で、職員室に呼び出されている。


同じころ、帰宅部で校内イチの美女・梨紗(山本美月)は、
彼氏である
バレー部の桐島を待っている。

梨紗の友達である
バドミントン部のかすみ(橋本愛)は、
梨紗に声をかけて、部活に向かう。

桐島の親友の宏樹(東出昌大)も
ダラダラと桐島を待っている。

さまざまな人たちが
桐島を気にしているとき、
誰かが口にする。

「桐島、部活やめるって?」

そのニュースが、
生徒たちに波紋を起こしてゆき――?!

**********************


ワシはもともと
構成の巧みな映画に弱いんですが、

これは面白かったですよ。


不在の人物を中心に物語が流れていく
「彼女が消えた浜辺」(10年)的な王道かつ最上の運びで、

ある高校のある金曜日から
物語が始まって

(金)は噂の人物・桐島の不在が明らかにされ、
彼をめぐる人々、それぞれの視点別に、
同じ時間が繰り返されていく。


次の土曜日は、またえらくあっさりで(笑)

そして日曜日には意外な展開が・・・?!


あまりに巧いんで、原作はどうなのかと気ってチラ読みしたんですが、
お。ああ、なる!と。


さらに技巧だけに偏らず、
青春モノを超えた普遍性を持っているのがイイ。


各登場人物の目線で
繰り返される高校生活は、

例えばかつて高校時代に
クラスの中心グループだった人にも
そこに入れなかったB級グループの人にも


どの階層の人にとっても、
どこか“苦い”であろう時代に
リアルにリンクしてくるんですよ。

学生時代ってホントに
背が高い、顔がいい、スポーツや勉強に秀でている・・・
持てるもの、持たざるもの
遠慮無く、シビアに明確になる
残酷な時代。

人間の“ナマの格差”やヒエラルキー、
女子の生臭さも、
あり得ないほどむき出しになる世界。


それはこの時期だけの、
束の間の“うつつ”であるんだけど、

その中にいる高校生にとっては
それが全てなんだよなア、と。

「ああ、自分もこんな世界にいたのか・・・」と
びっくりしますよハイ。

いや、いなかったな。自分。
完全に逃げてたな(笑)とか、

いやでも高校時代を
思い出します。


そんな“冷戦”続く高校生活のなかで
神木隆之介氏の存在がホントに救い。

またこれがお約束のように
ゾンビ映画を撮るのがまたイイ!(笑)


現役高校生がどう見るかはわかんないけど、

「かつて高校生だった」誰もに、
(とりわけ“イケてなかった”人に
「ウッ」とくるはずです。

「グッ」じゃないとこがミソね(笑)


★8/11(土)から全国で公開。

「桐島、部活やめるってよ」公式サイト
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