ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

テイク・ディス・ワルツ

2012-08-04 20:41:50 | た行

この夏のオススメNO.1!

「テイク・ディス・ワルツ」85点★★★★


*************************

カナダのトロントに住む
28歳のマーゴ(ミシェル・ウィリアムズ)は
フリーランスのライター。

彼女は取材のために出かけた観光施設で、
若者ダニエル(ルーク・カービー)と出会う。

さらに
帰りの飛行機で偶然隣り合った二人は意気投合。

すると、驚いたことに
ダニエルは、マーゴの家の向かい側に
最近引っ越してきたご近所さんだった。

タクシーを降りたあと、
なんとなく名残惜しいムードが漂ったとき
マーゴはこう言う。

「私、夫がいるの」――。

そのまま何事もなく、別れる二人だったが――?!

*************************

「スウィート ヒアアフター」(97年)
「死ぬまでにしたい10のこと」(03年)などで
強烈な印象を残した女優であり

アトム・エゴヤン監督の秘蔵っ子であり、

「アウェイ・フロム・ハー 君を想う」(06年)で監督デビューした
サラ・ポーリーが、
ミシェル・ウィリアムズを迎えて撮った作品です。


もともと好きな監督と大好きな女優のコラボで
期待も高まってたんですが、

いや~想像以上!
マジで震えました。
こういう方向にくるとは、ちょっと思わなかった。


結婚5年目の夫婦と、そこに現れる新たな男の話なんですが
「なぜ、人は新しいものをよしとするのか?」という
ものごっつ深いテーマを

登場人物たちの体温つきのリアルで突きつけられ、
考えまくってしまうんですわ。

主人公のマーゴは特に結婚生活に不満もないし、
夫(セス・ローゲン)はとってもいいヤツで、
(ごはんも作ってくれるし!

じゃれ合って、安心できる相手。

それでも、彼女は
新しい人に出会ってしまう。

この相手というのが
別段、超カッコイイわけじゃないってのが
かなりミソで(笑)。
(いや、一応ハンサムという設定らしいですが。笑)


しかし主人公も相手もモラリストであるがゆえ、
触れ合いそうで触れ合わない、その切なさに
指先ジンジンがMAX!


見ながら、もう理屈抜きに
「人は新しいものを、新鮮でよしと思うのだ」と、

それが果実でも、洋服でも
恋人やパートナーでも、同じなんじゃないかと、

それってもう
人の本能に根ざした衝動や感覚なんだよ、と

恐ろしい結論が出てしまったりして(笑)


でも新しいものは永遠に新しくはないのですよ。

だから人は永遠に同じことをしでかし、
心をかきむしられるわけで。

どうやって
そこを克服できるのか?

考えさせられますねえ。

伊坂幸太郎氏が短編で
「恋愛は順番なんだ。後に会ったらダメなんだ」と
書いていた一文が、頭によみがえりました。

もう、とにかく、見て!(笑)

★8/11(土)からヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開。

「テイク・ディス・ワルツ」公式サイト


冒頭、
赤白のボーダーTにターコイズブルーのペディキュアで料理をする、
ミシェル・ウィリアムズの
立ち居降るまいだけでも「ズキュン!」きました!(笑)

完璧なセンスだよねえ。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

あの日 あの時 愛の記憶

2012-08-03 22:43:51 | あ行

アウシュビッツで
こんな“愛”もあったんですねえ。

「あの日 あの時 愛の記憶」70点★★★★


***********************

1976年のニューヨーク。

ドイツからアメリカに渡ったハンナ(ダグマー・マンツェル)は
夫と成人した娘に囲まれ、幸せな日々を送っていた。

だがある日、
テレビから聞こえてきた“声”に
彼女は愕然とする。

それは32年前、
彼女がアウシュビッツ強制収容所で出会い、
恋に落ちたポーランド人青年トマシュの声に似ていたのだ――。

死んだと聞かされていた
トマシュは生きているのか?!

そしてその声はハンナの記憶を
32年前の
強制収容所に引き戻してゆく――。

***********************


ナチス時代のポーランド収容所と、
1976年の“現代”をつなぐ愛の物語。

収容所で出会った男女の愛とスリリングな逃走劇が
スッと自然に切り替わり、

32年後の、ある女性の家庭につながる転換が
なかなかに職人技です。

しかも実話が基だそうで、

収容所話というと
悲惨な情景が思い浮かんじゃいますが、

そのなかで
こんなふうに愛しあってしまう
男女がいたんだなあと
ちょっと新しい視点をもらった感じしました。


いわば初っぱなから結末が明かされているのに、
過去の回想も退屈させないし、

「サラの鍵」ほどの衝撃はないけど、
ほとばしる「愛」とその残酷さに
テーマを絞ったのもシンプルでいい。


なかでも息子を思う母の愛が動機となる
本能的な残酷行為にゾッとしました。


実話だっていうのがミソなわけですが、
その分
いろいろ考えてしまうこともある。

まあ、
うーん、ダンナ、優しいよなア……。


★8/4(土)から銀座テアトルシネマほか全国順次公開。

「あの日 あの時 愛の記憶」公式サイト

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

かぞくのくに

2012-08-02 23:37:36 | か行

ARATA氏が、井浦新と名前を変えて
挑んだ作品です。


「かぞくのくに」70点★★★★


*******************

1959年から84年まで行われた“帰国事業”。
約9万人の在日コリアンが
北朝鮮に渡った集団移住のことだ。

しかし帰国者たちの日本への再入国は
ほとんど許されないため、
日本と北朝鮮で、バラバラになってしまった家族が多くいる。

日本に暮らす在日コリアン、リエ(安藤サクラ)も、
兄(井浦新)と25年前に別れたままになっていた。

そんなある日、
兄が病気療養のため日本に帰国できることになる。

25年ぶりに会う兄を
歓迎するリエたちだったが――?!

*******************

自身の家族と北朝鮮の現状を映した秀作ドキュメンタリー
「ディア・ピョンヤン」「愛しきソナ」で知られる
在日コリアン2世ヤン・ヨンヒ監督(美人!)が作った
初のフィクション映画です。

フィクションといってもほとんどは
監督とお兄さんの体験した実話だそう。


安藤サクラ、そしてARATAが井浦新と改名して熱演し、
「息もできない」の監督&主演である
ヤン・イクチュンも出演しており、かなり豪華。

手持ちカメラのフラフラ感など、
ドキュメンタリー風味の残る絵作りで、
それが家族のリアリティになっています。

演出はややストレートにすぎるし、
ある部分は言葉足らず、ある部分は語り過ぎたり、と
バランスも欠いている部分もあるんだけど

でもフィクションにしたことで
“感情”はより表現されている気がします。

愛する人々が、理不尽にバラバラにされるときの
もぎ取られるような悲しみが確かに伝わってくるので

それで十分、成功だと思います。


北朝鮮の不条理をグッと飲み込み、
「こういうのホント多いから」と、
笑うしかない兄の姿を見るにつけ

人の生きる気力を奪うのは
本当にこういうことの繰り返しなのだ、とつくづく。

なんという国なのだろうと、つくづく。

なんとかならんもんですかねえ!


★8/4(土)からテアトル新宿、109シネマズ川崎ほか全国順次公開。

「かぞくのくに」公式サイト
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

セブン・デイズ・イン・ハバナ

2012-08-01 10:34:50 | さ行

やたら暑い
いまの時期に、ピッタリです!

「セブン・デイズ・イン・ハバナ」71点★★★★

ベニチオ・デル・トロをはじめとする
7人の監督が
キューバの首都ハバナを撮った作品。


月曜日から日曜日まで、一人一本のショートフィルム集で
うまくつながっていて、センスいいです。

トップバッターの
「月曜日/ユマ」(ベニチオ・デル・トロ監督)は
キューバにやってきたアメリカ人青年テディ(ジョシュ・ハッチャーソン)の
おのぼりさん的1日を
ドキュメンタリータッチで描いて導入にピッタリだし、

「金曜日/儀式」(ギャスパー・ノエ監督)は、
あることから
“清めの儀式”を受けさせられる少女を描き
神秘度も満点。


それぞれ単品だけど、
貫くトーンは共通していて、

黄色い日射しと
グラスに数ミリ残ったラムのような濁った赤。
海の深い藍色、といった独特の色彩と

むせかえるような熱気や
街の雑多さもそのままに、
そのなかに生きる人々の横顔や人情を
エモーショナルに、のびのびと描いてる。


個人的には
2話「火曜日/ジャム・セション」(パブロ・トラペロ監督)と、
7話「日曜日/泉」(ローラン・カンテ監督=「パリ20区、僕たちのクラス」の監督)
が好きだったな。


あと、音楽は言うまでなくかっちょいいです。

ただ129分、けっこう濃いので
もう少し短くてもよかったかな。

暑い日に観ると、気持ちいいですよ。

あ~こんな街角で
冷えた白ワイン飲みてー。


★8/4(土)からヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国で公開。

「セブン・デイズ・イン・ハバナ」公式サイト
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする