ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ディーン、君がいた瞬間(とき)

2015-12-14 23:50:20 | た行

ジェームズ・ディーンって
こんな人だったんだ……
ハマリます。

「ディーン、君がいた瞬間(とき)」75点★★★★


*************************


1955年、ロサンゼルス。
駆け出しの写真家デニス・ストック(ロバート・パティンソン)は
あるパーティーで
ジミー(デイン・デハーン)と名乗る男に出会う。

翌日デニスがジミーに誘われた試写会に行くと
それは「エデンの東」。
ジミーは、まだ世に出る前のジェームズ・ディーンだったのだ。

ジミーに「何か」を感じたデニスは
「密着取材をしたい」と持ちかけるが
ジミーは乗り気でなく……?

*************************


誰もが見たことのある
あの肩をすくめてタイムズスクエアを歩く
ジェームズ・ディーンの写真。

あの写真を撮った写真家デニス・ストックの視点から
あの写真がどう撮影されたのか?を
描いた作品です。

監督は写真家でもある
「ラスト・ターゲット」(10年)
「誰よりも狙われた男」(13年)
アントン・コービン。

この人、やっぱいいんですよねえ。
派手さはないけど、映像に色気があるんだよねえ。


今回は
主人公たちの“若さ”も鑑みたのか、
それほど画角に凝ったような感じではなく
割とシンプルに描いているけど

役者がピタリときて
けっこうハマりますよこれは。

まずは
ジェームズ・ディーン役の
デイン・デハーン。

母への憧憬が
あの女性の母性本能をくすぐる“可愛らしさ”の素になっている様や

独特のしゃべりかたで鋭い真理を語る
「伝説のスター」の深みまで見事に演じてます。


対する写真家デニス・ストックを演じる
ロバート・パティソンもまたいい。

冒頭、
セレブのパーティー写真を撮りながら
「自分はこういう写真を撮りたいんじゃないんだ」という
自我と自意識ゆえの居心地悪さを
最初のほんの数分で表現したり。

そして
写真家である監督が
同じ写真家を題材にしただけあって

「写真を撮ることは何か」を感覚に頼らず、
視覚化し、言葉にして伝えようとしている感じがして
そこが好きでした。

無名の新人であるジェームズ・ディーンを
デニスは
「撮りたいんだ!ページをくれ!」と上司に売り込むんですが

そのとき
上司に「ジェームズ・ディーン?知らんなあ。何がいいんだ?」と問われ
「独特のぎこちなさがあるんだ」と言う。
「うーん、うまいこと言うなあ!」と感心しましたねえ。

「エデンの東」を見直したくなりました。

そして
おなじみ『週刊朝日』「ツウの一見」で
写真家の若木信吾さんにお話を伺いまして(来週12/21発売号かと思います~
さらにこの映画の見方が深まったのですが

若木さんにデニス・ストックは撮った
ジェームズ・ディーンの写真集の現物を見せていただいて
これがびっくり!

映画のシーンが、そのままなんですよ。
いや、逆なのか(笑)。

でも、そこにあったであろう空気感を
監督が想像し、描いたものが
とてもしっくりきて、おもしろかった。

映画とともに写真集をご覧になることを
ぜひ、おすすめします!

★12/19(土)からシネスイッチ銀座ほか全国順次公開。

「ディーン、君がいた瞬間(とき)」公式サイト
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ヴィオレット-ある作家の肖像-

2015-12-13 21:40:15 | は行
ワシの2010年のベストワン映画

「セラフィーヌの庭」
のマルタン・プロヴォ監督の新作。


「ヴィオレット-ある作家の肖像-」72点★★★★


*************************************


1942年、戦時中のフランス。

私生児として生まれ
愛に飢えた女性ヴィオレット(エマニュエル・ドゥヴォス)は

作家のモーリス(オリヴィエ・ピィ)に
「小説を書け」とアドバイスされる。

書くことに目覚めたヴォレットは
パリでボーヴォワール(サンドリーヌ・キベルラン)の小説に出合い、
彼女に「読んでほしい」と自分の作品を手渡すが――?!


*************************************


女性として初めて生と性を赤裸々に描き
ボーヴォワールの後押しで、作家として踏み出した
実在の作家ヴィオレットの物語です。


冒頭、逃げる主人公が捕まり
スーツケースを開くと、そこには――?!という場面からして
「一体何ごとか?!」と思わせたり
まあ
想像の余白だらけなところが“大人”な
フランス映画です。


あまり知られてない女性芸術家の半生という題材といい
自然児でゴツい(失礼!)
エマニュエル・ドゥヴォスの存在感といい
(つけ鼻をつけてるそうです。・・・自然すぎてわからなかった!←重ねて失礼過ぎる・・・


見終わってみると
「セラフィーヌの庭」に共通するところが
とても多かったですねえ。


前半、ヴィオレットが「書くこと」に目覚めるまでは
全体的にすすけた印象で
でも、素朴な自然光の風景が美しい。

そこから舞台がパリに移り
ヴィオレットが
知的で洗練されたボーヴォワールに出会うんですが

この前半から中盤への
盛り上がりに「グッ!」とターボ入る瞬間が
とても気持ちよかった。


そして
ボーヴォワールを演じるサンドリーヌ・キベルランと
ドゥヴォスの対比が抜群。

華奢なボーヴォワールが
凜とした強さをにじませるのに対して、
骨太なヴィオレットの
大きな子どものような弱さが際立つんですねえ。

映画の構成も
年月の流れをその時代に関わる人の名前をつけて章立てされ
なかなか粋です。

あの香水のゲランやジャン・ジュネなど
ヴィオレットに関わる文化人たちも興味深く

誰かが下宿にやってきては
酒と芸術や文学の話を交わして、また繋がっていく。

アーティストが「何者か」になる前の
苦悩に満ちた、しかしみずみずしい時間が
よく切り取られていて

139分とけっこう長いんですが
心地よく見られました。


★12/19(土)から岩波ホールほか全国順次公開。

「ヴィオレット-ある作家の肖像-」公式サイト
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

創造と神秘のサグラダ・ファミリア

2015-12-11 22:09:49 | さ行

勝手を承知で言うと
いつか現地で見る日まで
永遠に「建築中」であってほしい気もする。


******************************


「創造と神秘のサグラダ・ファミリア」69点★★★☆


******************************


かのアントニオ・ガウディが構想し、
着工から133年も建築中(!)の
スペイン、バルセロナのサグラダ・ファミリア。

その作業現場やステンドグラスや彫刻の制作風景、
宗教学者ら多彩な人物へのインタビューで
「ガウディが何を創りたかったのか?」を
その精神・宗教世界にも踏み込んで見せてくれる
ドキュメンタリーです。


サグラダ・ファミリアを空撮する映像もあり
「ああ、こうなっているのか!」がよくわかります。

アイデアの原点となったという
ガウディの故郷の奇岩の風景にも
「ああ、なるほど!」がある。

サグラダ・ファミリアはなんと
2026年に完成予定だそうですが

そもそも、なんでそんなに時間がかかるの?と言う理由も
観ているとなんとなくわかります。

映画のなかで宗教学者(だったかな?)が言う
「神はお急ぎではない」にニヤリ。

そして
ガウディの死後、
スペイン内戦でガウディが残した図面や模型はほとんどなくなってしまったと知り
いまは「遺志を継ぐ人々」の“想像”が
この世紀の建築物を、成り立たせているんだなあと思いました。


例え、締め切りが過ぎたって
いやいや「神はお急ぎではない」ですよ。
ってな感じで
気を楽にする処方箋ですね。


★12/12(土)からYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開。

「創造と神秘のサグラダ・ファミリア」公式サイト
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ア・フィルム・アバウト・コーヒー

2015-12-10 23:38:12 | あ行

カッコいいんですけどね。

**************************


「ア・フィルム・アバウト・コーヒー」59点★★★


**************************


昨今話題のコーヒー業界の潮流「サードウェーブ」について
追うドキュメンタリー。

「ブルーボトルコーヒー」
「ハンサム・コーヒー」「スタンプタウン・コーヒー」といった
サードウェーブ系オーナーへのインタビューや
産地での取り組み、
さらに日本の喫茶店などを紹介しています。


ワシもいま家で豆、ガリガリと挽いてるし
清澄白河の「ブルーボトルコーヒー」に行ったクチですし(だって近所だし~。←言い訳。笑
一体「サードウェーブ」ってなんなの?と
興味を持って観ました。


まず印象的なのは映像で
インスタグラムの加工か
雑誌「BRUTUS」誌面か?って感じで
粗めにスタイリッシュでカッコいい。

観ているだけで
コーヒーの香りも漂ってきそう。

通常の「コモディティコーヒー」と
産地や生産者にこだわった
「スペシャルティコーヒー」との違いは何か、などを
教えてくれます。

66分というコンパクトさも好感触で
カフェでコーヒーの香りとともに
流したりするといいと思うんですが

ただ「映画」としては
正直あまり描く内容がないのかなあという薄さ。

ルワンダなどでの一企業の取り組みを
紹介しただけな感もあるし
これでは企業ビデオかなあと、いう感じもする。

「スタイル」ばかりが印象に残る
モヤッと感がありましたが

コーヒー素人のワシが言っても詮無いので
今週発売の「週刊朝日」(12/18号)「ツウの一見」で
コーヒー業界の専門家で
ミカフェート代表の川島良彰さんにお話を伺いました。

なかなかに辛辣なご意見で
詳しくは誌面をご参照いただきたいのですが

教えていただいたのは
サードウェーブというのは
超・浅煎りで香りを重視したコーヒーだということ。
(ワシは深煎り好き~

欧米の硬水だと平気でも
日本の軟水で同じようにするとかなり酸っぱく
レモン水のようになってしまったりもするそうです。

もちろん日本の水に合った淹れ方を
模索している方も多くいらっしゃるそうですが

とにかく
「スタイル」だけでなく
自分の目と舌と感覚で「本質」を見極めよう、とのお話をしていただき
まったくもって納得しました。

美術もコーヒーも
なにごとも「自分が何をいいと思うのか」。
ぶれないそこの基準が大事、ということであります。


★12/12(土)から新宿シネマカリテほか全国順次公開。

「ア・フィルム・アバウト・コーヒー」公式サイト
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

母と暮らせば

2015-12-09 23:18:56 | は行

大事なことを伝えている作品。


「母と暮らせば」69点★★★☆


*******************************


1945年8月9日、長崎。

助産婦として働く伸子(吉永小百合)は
その朝も変わらず、
医大に通う息子・浩二(二宮和也)を送り出した。

だが、午前11時を回ったとき原爆が投下され
医大は一瞬にして粉々になった。

そして3年後。

失意のどん底にいた伸子は
息子の恋人だった町子(黒木華)に支えられ
なんとか平穏な日々を取り戻していた。

そんな伸子の前に
亡くなったはずの浩二が現れて――?!

*******************************


終戦70年の節目に
山田洋次監督が撮った作品。

広島を舞台にした「父と暮らせば」の対として
井上ひさしさんが構想していた物語を

その遺志を汲むような形で
監督が作ったそう。

確かに、戦争の悲劇をいまに伝える
とても大切な物語です。


冒頭、長崎に原爆が落ちるまでがモノクロで描かれ、
けっこうドキドキする。

実際、この映画で一番印象に残っているのは
あの瞬間の閃光と
一瞬にして溶けていくインク壺かなとも思う。

で、
主人公である息子(二宮和也)が死んでしまってから
映像がカラーになる。

そこからの展開は
死者である息子と
自然に会話する母(吉永小百合)という
けっこう純然たるファンタジーで

セリフ回しも演劇ふうなところは
映画としてみると、好みが分かれるかもしれません。

でもやっぱり
こういう話は、いまこそ大事なんだよねえ。

そして、ことが舞台っぽくなってくると
「幕が上がる」ではないけれど
がぜん、黒木華さんの演技が際立ちますねえ。

さらに
死者と生者の入り交じった世界観、戦争という背景から
最近の大林宣彦監督作品に
通じるものも感じたり。

なにより
ワシが美しいと思う
“吉永小百合さん”を撮るのは
やっぱり山田洋次監督だなあと思いました。

無理せず、自然にあどけなく、
やっぱり“おかん”なんだよなあ。


★12/12(土)から全国で公開。

「母と暮らせば」公式サイト
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする