ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

山河ノスタルジア

2016-04-19 23:57:24 | さ行

ジャ・ジャンクー監督の視点には
国境も時空を超えた
広さがある。


「山河ノスタルジア」73点★★★★


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1999年、中国・山西省。

小学校教師のタオ(チャン・タオ)は
幼なじみの二人から思いを寄せられていた。

一人は炭坑で働くリャンズー(リャン・ジンドン)。
もう一人は、実業家のジンシェン(チャン・イー)。

内向的なリャンズーとは対照的に
ジンシェンは赤いスポーツカーを乗り回し、
タオをデートに誘う。
彼の姿はまさに「これからの中国」を表しているようだった。

そして、タオが選んだのは――?


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ペット・ショップ・ボーイズの
あの曲からはじまる謎のオープニングがインパクト大!
(その唐突さに、一瞬、アピチャッポン監督の「世紀の光」のラストを思い出しました(笑)

しかし、話は意外に恋愛モノっぽい。
ワシがいままで見てきたジャ・ジャンクー作品のなかでは
一番、とっつきやすいかもしれません。


まず、時代は1999年。
幼なじみの女性を挟んだ、男二人の三角関係から始まる。

一人は実直そうな炭鉱労働者で
もう一人は新進実業家。

で、
恋愛ものかあ、と思うと、
15年後、さらに10年後――と、進んでいく。

これが、けっこう時間を超えてくる大きな体験なんですねえ。


一見、ありがちなラブストーリーかと思わせつつ
過去、現在、そして少し未来の
中国の経済発展と、状況を俯瞰して見ているところがすごい。

さらに、ちゃんと収束していく。

そう、あの曲から始まるナゾなオープニングも、
ちゃんと終わりにつながっているのだ。


それにしても。

「1999年のあのとき、どっちの男を選ぶか?」で
ヒロインの運命は変わるわけだけど、

ワシ的には
「どう考えても炭鉱労働者じゃね?実直だし、誠実そうで、いい人だし」と思ったんですが
プレス資料にあったインタビューで
ヒロイン役チャン・タオが

「もし、私が彼女の立場だったら、実業家を選んだ」と話していて
そのことにもっとも大きく驚いたのでした(笑)


★4/23(土)からBunkamura ル・シネマほか全国順次公開。

「山河ノスタルジア」公式サイト
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レヴェナント 蘇えりし者

2016-04-18 22:05:29 | ら行

ぴったりなキャッチコピーは
「生きろ。」

あれ?それって・・・(笑)


「レヴェナント 蘇えりし者」72点★★★★


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1823年。

先住民が住むアメリカ西部の未開拓で狩りをする
白人の部隊がいる。

彼らをガイドするのは、先住民に詳しい
ヒュー・グラス(レオナルド・ディカプリオ)。

彼が連れている息子ホーク(フォレスト・グッドラック)は
先住民族との間に出来た子だ。

部隊のジョン・フィッツジェラルド(トム・ハーディー)は
そんなグラスを、快く思っていなかった。

そんななか、部隊は先住民たちの攻撃を受け、壊滅状態になる。

グラスは生き残った隊員たちを連れて
山沿いを行こうとするが――?!


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いや~まずは
祝・レオナルド・ディカプリオ
アカデミー賞主演男優賞受賞!!

ホントに、よかった、よかった。


受賞レースのときから、各方面に言われてましたが
彼がこんなにスターなのに
オスカーにフラれていたのは
「どうしても力みすぎちゃう芝居」のせいだったと思うのです。

しかし、アレハンドロ・G・イニャリトゥ監督は
それを
めちゃくちゃベストな形で使ったのだと思うのです。


ほぼ9割が苦しく死にそうなサバイバル。
セリフがほとんどない。

でも、その声にならない叫びが
表情、全身から力いっぱい振り絞られ
迫力となって、映画にこだまする。

彼じゃなければ
ここまでこの映画に
観客を惹きつけることができなかったでしょう。

そこが見事でしたね。

イニャリトゥ監督って
自らも、相当押し出しのいいオーラを持った人だもん。
(授賞式の写真とか、このプレスの撮影中フォトでも
どっちが俳優だか一瞬わかんないよ。笑)


たぶん、ディカプリオ氏の“俳優力”を英智を持って使えたのには
なにかお互いに通じるところがあったんでしょうね。


で、ディカプリオ演じるヒュー・グラスは
アメリカ開拓時代に、本当に「死の淵から生還した男」として
アメリカでは語り継がれる実在のレジェンドなんだそう。

本作は
そんな人物の「伝説」を存分に描いたもので
正直、見てハッピーなところはひとつもないんです(苦笑)。

でも、強烈な印象が残ります。


やはり見事なのが撮影。
「ゼロ・グラビティ」「バードマン」、そして本作で3年連続して撮影賞を受賞した
エマニュエル・ルベツキ撮影監督のテクニックは
あまりに突出している。
「ツリー・オブ・ライフ」の映像も素晴らしかった!)

凄惨な戦いや、目を覆いたくなるような蛮行も
「どうやって撮ったのだろう?」と思う長回しで追いかけ
圧倒的な迫力。

自然の美しさにも口あんぐりです。


印象として
「もののけ姫」や「ゼェア・ウィル・ビー・ブラッド」を
思い出す映画でした。


★4/22(金)から全国で公開。

「レヴェナント 蘇えりし者」公式サイト
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ハロルドが笑うその日まで

2016-04-16 01:36:55 | は行

実在の企業をこんなにディスって
大丈夫なのか?

と、ハラハラさせるところが北欧らしさ(笑)


「ハロルドが笑うその日まで」71点★★★★


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ノルウェーの街で
長年、家具店を営んできたハロルド(ビョルン・スンクェスト)。

しかし、店の隣にスウェーデン発の
シンプルで安い、あの家具チェーン店「IKEA(イケア)」ができたことで
ハロルドの店は
閉店に追い込まれてしまう。

同時に妻も亡くし
どん底に落ちたハロルドは
ある計画を思いつく。

それは復讐のために
IKEAの創業者カンプラード(ビヨルン・グラナート)を
誘拐するという計画だった――!


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所々ビターで、かつユーモラスな
ノルウェー映画。


日本でも人気の家具チェーン店「IKEA(イケア)」の
創業者を誘拐する――?!という発想は
めちゃくちゃキャッチーで
そそられますが

実際観ると、ホントに「IKEA」がズバリと出てきているので
(もちろん創業者の名前も実名。笑)

いち企業を名指しで
こんなに大がかりにディスって大丈夫なのか?(笑)と
心配になるのですが

現地でも、別段、訴訟などになるわけでなく
ぜーんぜんOK!な雰囲気なんだそうです。

やっぱ北欧の感覚って
独特だわ(笑)


特に前半は
シリアスと笑い
ビミョーな混じり具合で

日本人としては
「え?これって笑っていいの?アハハ?」という
若干の取り乱し感があったりするんですが(笑)

乾いたユーモアというのかな
突き抜けていて、
一度つかめば、入り込みやすい。

後半は
ハロルドが誘拐したカンプラードから
「誘拐なら、こうしないと!」と指南されたり
ドタバタがおもしろいです。

それに途中で話に加わる、
無愛想なスウェーデン少女エバ(ファンニ・ケッテル)の
存在がとても効いている。


それにね
「孤独のススメ」(オランダ映画)も86分だったけど
本作も88分と、コンパクト。

節度ある尺が
とっても好ましく感じるのでありました。

プレスの表紙も、センスいいね!


★4/16(土)からYEBISU GARDEN CINEMA ほか全国順次公開。

「ハロルドが笑うその日まで」公式サイト
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グランドフィナーレ

2016-04-14 23:59:00 | か行

老いと若さ、衰退と美。
時の流れをパッケージした
アートのような作品。

「グランドフィナーレ」70点★★★★


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スイスの高級ホテルで保養している
高名な指揮者・フレッド(マイケル・ケイン)。

「シンプル・ソング」という名曲を生んだ彼には
英国女王から名誉あるオファーがきているが、
彼は「もう、あの曲はやらない」と侍者を追い返す。

そして彼はホテルに滞在している
鬱屈したハリウッドスター(ポール・ダノ)や、
友人の映画監督(ハーヴェイ・カイテル)らと
ゆったり、けだるい日々を過ごすのだが――。


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ショーン・ペンの
「きっと、ここが帰る場所」(11年)はすごく好きだったけれど

「グレート・ビューティー/追憶のローマ」(13年)
全然わからなかった(笑)

そんな“難しい”
パオロ・ソレンティーノ監督の新作です。


ただ、本作を観て
やはりこのオリジナルな映像美はすごい!と感じた。

別物のような上記2作にも共通するのは
どこか退廃を含んだ、あやうい美しさ、なのかもしれません。

本作は
スイスの高級保養所で
ラグジュアリーでデカダンな時を過ごすリッチな人々を
けだるく、甘美に描いていく。


主人公である著名な指揮者が
英国女王からの依頼を頑なに固辞する、というのがメインのストーリーで
そのほかは
一瞬のショート・ショートの
積み重ねのような展開です。

でもそれらに
けっこうハッ!とするオチがあったりして。

特に主人公の妻をめぐる話はハッ!とした。
心地よく、うつらうつらしていると
見逃してしまうかもしれませんので
ご注意を(笑)。

描かれるのは
老いと若さ、衰退と美。

絶えず流れる音楽の存在の大きさも
とても印象的でした。

いわゆる“普通の映画”ではないけれど
「美」の究極に触れる体験ができると思います。


★4/15(金)から新宿バルト9、シネスイッチ銀座、Bunkamura ル・シネマほかで公開。ほか全国順次公開。

「グランドフィナーレ」公式サイト
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オマールの壁

2016-04-13 23:16:16 | あ行

パレスチナ問題はいつも
「こういう状況なのか・・・」
こちらの目を覚ましてくれます。


「オマールの壁」71点★★★★


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ヨルダン川西岸地区。

イスラエル政府が
パレスチナ自治区に作った「壁」は、
それまでの隣人、友人をも分断した。

パレスチナの町に暮らす
オマール(アダム・バクリ)は
壁をよじ登っては、幼なじみに会いに行く。

オマールは幼なじみとともに
イスラエル兵に抵抗する“自由の戦士”になろうとしていた。

そんななかオマールは
親友の妹であるナディア(リーム・リューバニ)と
互いを意識し合う。

そしてオマールたちは
ついにイスラエル兵に対する、武力行動に出るが――。


***********************************


パレスチナ人同士を分断する、
イスラエル政府軍によって築かれた壁。

冒頭、その壁をよじ登っている
若者オマールが写し出される。

けっこう白昼堂々だし
見張りから発砲されたりもするんだけど
危険を冒しながらも、彼はごく日常的に壁を越え、
幼なじみや、好きな女の子に会いに行くんですねえ。

へえ、そういう状況なんだ、と
まず思いました。


オマールは親友の妹に恋してるんだけど
なかなか親友に言い出せない。

しかし、彼の幼なじみもやはり彼女に恋をしていて
そのことによって
彼らの運命が動き出す――というお話。


これは社会派映画というより
青春映画であり、ラブストーリーだと思いました。
さらに最後ハッ!とさせるミステリーでもあります。


いわゆる“器用な”描き方ではないので、
若干中だるみもあるけれど
粗削りななかでも、終盤のどんでん返しが効いている。



監督は「パラダイス・ナウ」(05年)で評価された
ハニ・アブ・アサド氏。

ここで起きていることは特殊だけれど
暮らす人々の営みやドラマは不変なんだ、ということを
描きたかったんだと思います。


★4/16(土)から角川シネマ新宿、新宿アップリンクほか全国順次公開。

「オマールの壁」公式サイト
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