ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

スポットライト 世紀のスクープ

2016-04-11 23:58:44 | さ行

自分のなかの
正義感がムクムクと頭をもたげる。
たとえ、映画のなかでの疑似記者体験でも、それは快感なのです。


「スポットライト 世紀のスクープ」79点★★★★


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2001年7月。

アメリカ東部の新聞社「ボストン・グローブ」に就任した
新編集局長(リーヴ・シュレイバー)は

地元ボストンで起こった
「ゲーガン事件」を探れとスタッフに言い渡した。

それは
ゲーガンという神父が30年間にわたって
80人もの子どもたちに性的虐待をしたという事件だ。

カトリック教会という巨大権力を敵に回すことは非常に困難で、
裁判所も事件を封印していた。

しかし
特集記事をじっくり取材し、1年にわたって掲載する
「スポットライト」班の記者マイク(マーク・ラファロ)や
サーシャ(レイチェル・マクアダムス)らは
この困難な取材に取りかかることにする――。


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「扉をたたく人」「WIN WIN」の
トム・マッカーシー監督作品。

新聞記者の地道な努力と
怒りと正義が、巨大な権力を動かす。


その様子が静かな興奮を呼ぶ
ジャーナリズムエンタテインメントです。

展開自体もスリリングだけど
なにより
本物っぽさと、誠実味のある役者陣が素晴らしい。

マーク・ラファロもいいし
(この人もなかなかカメレオンな役者。「フォックス・キャッチャー」
「はじまりのうた」それから「アベンジャーズ」のハルクですよ?笑)

レイチェル・マクアダムスの
一生懸命な記者もいい。


編集長役の
リーヴ・シュレイバー、
「完全なるチェックメイト」でも好演!)

飄々とした人権弁護士役の
スタンリー・トゥッチ、

「バードマン」
マイケル・キートン。

ほかの全員も
名誉欲とか、そういうものと関係なく
「真実を世に出す」ことに集中していることが、こちらにも伝わってくる。

記者魂に火が付く2時間の体験ですねえ。

見応えありました。

じっくり取材し、じっくり発表する。
権力に負けず、真実を貫く。
そうしたスタイルが少なくなっている報道の現状にも
何かを放ってくれる映画だと思います。


しかし記事が出たのが2002年。
そこから映画化までに13年の歳月が経っている。

やはり相当なタブーであり
大変だったのだなと感じました。


★4/15(金)からTOHOシネマズ日劇ほか全国で公開。

「スポットライト 世紀のスクープ」公式サイト
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孤独のススメ

2016-04-08 20:35:05 | か行

オランダ映画、最近増えてますね。


「孤独のススメ」73点★★★★


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オランダの小さな村に暮らす
フレッド(トン・カス)は
妻に先立たれ、一人息子とは音信不通の
孤独な中年男。

ある日、彼の前に
奇妙な男(ルネ・ファント・ホフ)が現れる。

言葉も発しない、謎の男だが
ある事情からフレッドが草むしりを言いつけると
真面目にこなす。

感心したフレッドは
行く当てもない、迷い猫のような男を
家に泊めてやるのだが――?


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タイトルから「ぼっち男」の話かなと思うのですが
やや違う。

のっけから主人公は
奇妙な男を拾って、寝食を与えるんです。

で、村人たちの好奇の目もなんのその、
二人の奇妙な暮らしが始まる。

そうするうちに
フレッドにも変化が訪れるが、同時にある事件も起こり――?というお話。

「これ、『二人のススメ』じゃん!」って
宣伝会社の人にも言いましたが(笑)
ホント、そんな感じです。


フレッドの変化も
けっこうディープな部分に関係しており
深刻に描いていないけれど、思うより事情は込み入っている。

でも、カラッと、サラッと自然で
なんか不思議。

そう、オランダ映画というと
最近は「人生はマラソンだ!」を思い浮かべるんですが
笑いのツボも、全体のトーンも
ホント独特なんですよね。

北欧の笑いとかとはまた違っていて
実際、なかなか掴みにくい。

これも、始まってしばらく掴みかねるんですが
最後には、きます。


特に、一度フレッドのもとを去った男が
再び、彼の前に現れるシーン。

ドアを開けてやったフレッドの脇を
すり抜けるようにして、彼が家に入るさまが、
まさに野良猫のそれのようで、ウッ!と心にキタ。

それに
冒頭からフレッドが
バスや列車に乗るシーンがやたら多く
孤独にはやっぱり
バスや列車が似合うなあと。

そう、この主人公フレッド、
『誰も寝てはならぬ』(サライネス著)の
マキオちゃんの30年後という感じではありませんか。
(マキオちゃん画像は、手持ちの本より抜粋)

ね、かなり一致(笑)


★4/9(土)から新宿シネマカリテほか全国順次公開。

「孤独のススメ」公式サイト
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ボーダーライン

2016-04-07 23:13:38 | は行

久々にベニチオ・デル・トロがかっこいい(笑)


「ボーダーライン」70点★★★★


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FBIの捜査官ケイト(エミリー・ブラント)は
メキシコの麻薬組織
ソノラ・カルテルの壊滅を目指す
特殊チームに任命される。

だがチームを指揮するのは
飄々とし、得体の知れない
捜査官マット(ジュシュ・ブローリン)と
謎の男アレハンドロ(ベニチオ・デル・トロ)。

そして訳の分からぬまま
メキシコに飛んだケイトは
そこで怖ろしい現実を目にすることになる――。


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 「灼熱の魂」「プリズナーズ」
ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が挑むハードボイルド。

宣伝文句にあるように
たしかに
「ゼロ・ダーク・サーティー」の系譜に当たる
最前線サスペンスアクションでしょう。

メキシコの麻薬カルテルの闇に入り込んでいく
エミリー・ブラントの熱演が光ります。

「オール・ユー・ニード・イズ・キル」
すっかりアクション女優としての彼女のファンになったワシ。

今回もしなやかでスレンダーな肉体を駆使して
戦場と化す修羅場でキビキビと動く
身のこなしが決まっている。

最近“貫禄系”が多かったベニチオ・デル・トロも
かなりシャープになって
第一線に復帰、という感じでよかったなー。

ストーリーも展開も
終始ハラハラと引きつけて、飽きさせません。

ただ麻薬カルテルの闇は深い。

スッキリ勧善懲悪!といった気持ちよさはないですが
毒を持って毒を制す、がリアルなのでしょうね。


★4/9(土)から全国で公開。

「ボーダーライン」公式サイト
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さざなみ

2016-04-06 21:28:29 | さ行

これはいいタイトル!


「さざなみ」80点★★★★


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イギリスの地方都市に暮らす
ジェフ(トム・コートネイ)と
ケイト(シャーロット・ランプリング)は
結婚45周年を迎える夫婦。

子どものいない二人は
とても仲良しで
互いに慈しみあいながら、静かな日々を送っていた。

が、ある朝、
ジェフのもとに一通の手紙が届く。

それは、50年以上前の
ジェフの恋人についての知らせだった――。


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これは本年度「いい邦題で賞」部門ノミネート決定!
原題は「45YEARS」だもんね。

まさにこれは
「静かな初老夫婦の日常にさざなみが立ち、消えない波紋となっていく
その様子を捉えた映画。

その「さざなみ」の原因となるものが
なかなかひねってあっておもしろいんですねえ。



おそらく想像するほどの「大事件!」はないんです。
結局は「ダンナに忘れられない女がいる」という
まあありがちな話なんですけど

その「昔の女」が
氷河のなかでミイラになっているとは斬新。

そんな映像は出てこないのに
二人の様子から、どんどん想像が膨らんでいくんです。

そのことに動揺し、過去に囚われてしまったダンナを
最初は気遣い、見守っていた妻が
だんだんと、変化していく。

その過程が見どころです!

そして
冒頭のカシャカシャ音の意味がわかるとき、
ハッ!となるんですねえ。


演じるシャーロット・ランプリングが
70歳にして、本当にシャキッとしていて美しい。

背筋伸ばし、スッとしたクールビューティーっぷりで
街中を歩く姿を遠目から見ると、
30代に見えますよマジで。

そしてその演技のすごさ。

激しい表現なしに、
体の内に荒れ狂う感情を、静かに演じていて
もの凄いです。

クールな表情の、薄皮一枚の下にある
氷の下のマグマが
透けて見えるというか。

そして氷が溶け、
崩壊を予感させるラストの表情が圧巻です。


特にこれ、女性には共感できると思う。
あんなに大事だったものが「フッ」とどうでもよくなる瞬間。
一度見切ると、凄まじく冷淡になる性質って
女性にはありますよねえ。

まあ男女問わず
必見です!


★4/9(土)からシネスイッチ銀座ほかで公開。

「さざなみ」公式サイト
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モヒカン故郷に帰る

2016-04-05 23:47:08 | ま行
ふっふっふ。
やっぱり、いいなあ、沖田修一監督。

「モヒカン故郷に帰る」73点★★★★


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モヒカン頭がトレードマークの
売れないバンドマン、永吉(松田龍平)。

恋人の由佳(前田敦子)が妊娠したこともあり
バンド生活に見切りをつけ、
7年ぶりに故郷の広島の島に帰ることにした。

だが実家には 頑固おやじ(柄本明)や カープ狂の母(もたいまさこ)という
クセモノたちが揃っていて――?!


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「キツツキと雨」「横道世之介」の 沖田修一監督のオリジナル脚本作。

のほん、へのん
のち、プププ。

人のよさがあふれ出す 沖田節が嬉しい作品でした。

淡々と、そこにあるものを映すだけで おかしみをさそう、
自然な空気感の演出のうまさですねえ。


冒頭、歌う松田龍平氏の
アップを見てるだけで笑っちゃうんですわ(笑)

病気や死を扱いつつ湿っぽさもなく
地元の素人さんを絶妙に使うのもさすが。

しかし、吹奏楽部のあの部長、
いい味出してると思ったら 「ソロモンの偽証」のあの子か!(笑)


若いのに、妙に腰の据わった “いまどき”な娘を堂々と演じる
前田敦子氏もいいですよ。

チラシのバージョン違いも
カワイイのでのせちゃいます(笑)




★4/9(土)から全国で公開。(広島先行公開中)

「モヒカン故郷に帰る」公式サイト

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