ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ワンダーストラック

2018-04-08 21:27:16 | わ行


「キャロル」(16年)トッド・ヘインズ監督最新作です。

 

「ワンダーストラック」68点★★★☆

 

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1977年、米ミネソタ州。

母(ミシェル・ウィリアムズ)を交通事故で亡くした

12歳の少年ベン(オークス・フェグリー)は叔母の家で暮らしている。

 

母亡き今、父親を頼りたいところだが

ベンは父親と一度も会ったことがなく、母も父のことを語ろうとしなかった。

 

ある夜、父につながるヒントを見つけたベンは

しかし落雷による事故で、耳が聞こえなくなってしまう。

 

それでもベンは父を探しに、ニューヨークへ向かうことに。

 

いっぽう、時代は1927年。

ニュージャージー州に暮らす

耳の聞こえない少女ローズ(ミリセント・シモンズ)も

やはり母に会おうと、一人でニューヨークへと旅立つ。

 

時代の違う二人の物語は

どこかで交わるのだろうか――?!

 

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トッド・ヘインズ監督×ブライアン・セルズニック原作。

ブライアン氏は「ユーゴの不思議な旅」の原作者でもある方ですね。

 

トッド・ヘインズ監督、

好きなんだけど

ワシにとってハマるものとハマらないものの振り幅がちと大きい。

 

最近でも

「キャロル」はめちゃくちゃハマったけど

「エデンより彼方に」(03年)や「アイム・ノット・ゼア」(08年)は

ちょっと掴みにくく。

 

なんでしょうね、リズムや呼吸のようなものなんだと思うのですが

本作も、ちょっと難しいラインだったかなー。

 

70年代の再現は素敵で

デッドストックふうの映像の風合いや

自然史博物館や“模型”をフィーチャーするのも、

時代の違う二つの話が平行して進むのも、

好きな世界だし、おもしろいなあと思うんだけど

 

とにかく

この異なる時代の、二つの話がつながるのが

すごーく後のほうなんですよ。

「見えない感」のもどかしさが大きすぎた(苦笑)

 

それでも

つながったときの「おお!」は

ちょい快感だったし

 

自然史博物館のなか、そして、キモとなるあの“模型”など

印象に残ってる場面は多いんですけどね。

 

 

★4/6(金)から角川シネマ有楽町、新宿ピカデリーほか全国で公開。

「ワンダーストラック」公式サイト

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港町

2018-04-07 13:30:53 | ま行

 

いつまでもいつまでも

見ていたいような。

 

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「港町」74点★★★★

 

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想田和弘監督、観察映画第7弾。

しみじみ沁みて、今回かなり好きだ。

 

前作「牡蠣工場」でおなじみ、岡山県の牛窓を舞台に

そこに暮らす年老いた漁師、魚屋さんなど数人と

猫たちを映す観察ドキュメンタリー。

 

モノクロームの画面はいつにもまして静かで、テーマも声高でない。

そのささやかさが、観客をより対象に没入させるんだと思う。

 

 

漁師と漁に出て、魚が網から外される様子が延々と続き、

魚屋さんが魚を店先に出すまでの過程も延々と続く。

しかし見ていてちっとも飽きることがない、この不思議(笑)。

 

ここにあるのは

やがて消えていくかもしれない空間と時間。

そのなかでめぐる、人と人との関わり。

それを

たゆとうように、ながめながら、いろいろを考える。

 

これぞ「想田ブランド」というか

「想田監督の目」を信じてよし!という感じですね。

 

同じ話を繰り返すおばちゃん=クミさんと、

耳の遠い老漁師=ワイちゃんの会話のもどかしさなどには

なんだか、自分の親と接してるような、既視感もあっておもしろい。

 

でも、例えばワン・ビン監督の「苦い銭」とかとは違って

そこに暮らしたような感じではないんですよね。

 

あくまでも、ストレンジャーの視点。

 

監督自身も、奥さんでプロデューサーの規与子さんも

けっこう会話に入ってきているのに、この距離感は、なんだろう。

 

で、そののちに見えてくる

明るいクミさんの複雑な家庭の事情に「えっ」となる。

 

最終的には

やっぱりいろいろあるわなあ。

人生はウロウロと行ったり、来たりだわなあ、いう思いが

じわーんと残るのでした。

 

「AERA」にて、想田監督にインタビューさせていただきました。

AERAdotに記事、あがっています~。

映画と併せて、ぜひ!

 

★4/7(土)からシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。

「港町」公式サイト

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ラブレス

2018-04-04 23:30:49 | ら行


その不在が、最大の罰。

「ラブレス」77点★★★★


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現代のロシア。

一流企業で働く夫(アレクセイ・ロズィン)と

美容サロンを経営する妻(マルヤーナ・スピヴァク)は

離婚協議中だ。

 

お互いに新しい恋人がいる二人は

どちらも12歳になる息子を引き取りたくない。

 

夫婦は毎日言い争いをし

挙げ句の果てに、息子を押し付け合う。

 

その翌朝、息子の姿は消えていた――。



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「父、帰る」(03年)「裁かれるは善人のみ」(14年)などで知られる
ロシアの鬼才、アンドレイ・ズギャンツェフ監督の新作。

今年のアカデミー賞外国語映画賞ノミネート作です。

 

サスペンスではあるんだけど

とにかく
いまの時代の「いや~な空気」を的確に捉えていて
実におもしろい映画でした。


冒頭からしんしんと降る雪のなか、

ピアノの旋律とカメラの動きだけで、強烈な「不穏さ」が伝わってくる。


主人公夫婦は、いいアパートに暮らし、身なりもおしゃれでスマートな
そこそこの成功者たち。

しかし夫婦は離婚協議中で
しかもすでにそれぞれに恋人がいて
自分の息子を相手に押し付け合っている。


まるで共感できないクズカップルなんですよ。

で、
そんな両親の話を聞いた息子は、翌朝、姿を消す。

両親はここでようやく慌てて
息子を探すんだけど、なかなか見つからない。

そう、彼の不在こそが、身勝手な大人たちへの
最大の罰、なのだ。


少年はどこへ行ったのか。
無事にみつかるのか。

その行方はもちろん心配なんだけど、

それよりも我々は
不倫の末に若い女を妊娠させたこの夫が
また将来、同じことを繰り返すだろうなとうんざりするし、

スマホに夢中で
目の前の息子に目もくれない妻が
息子を思って涙する様子に、しらけた気持ちになる。
さらに彼女の母親を見れば、彼女の冷えた将来も透けて見えるしね。

 

監督は
古来から繰り返される人間の愚行、
それがスマホやセルフィー、SNSによって、より表面化してきた現代を

鋭く観察している。

 

ここに描かれるのは

結局、自分しか愛せない人間と、社会の空気が引き起こす悲劇なわけで。

 

それを静観する、監督の視線の、冷徹さ。

怖いけど、しびれますねえ(笑)


そうした現代の「愛のない=ラブレス」な現状から
抜け出す術は、ただひとつ。
「他者のために尽くすこと」だと
インタビューで監督はおっしゃっていました。

その実例が、映画でも重要な役割を果たしています。

 

今週発売中の「AERA」(4/9号)で

監督インタビューを含め、いまの時代の空気を切り取った

映画たちを紹介しています。

映画と併せてご覧いただければ幸いです~。

しかし監督、冷静でかっこよかったけど

切れ味鋭いナイフのようだったわ……(笑)

 

★4/7(土)から新宿バルト9、ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国で公開。

「ラブレス」公式サイト

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