ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

母さんがどんなに僕を嫌いでも

2018-11-18 21:39:03 | か行

 

それにしても、やっぱり

太賀氏はうまいなあ。

 

「母さんがどんなに僕を嫌いでも」70点★★★★

 

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タイジ(太賀)は大企業で

営業職につく若手サラリーマン。

 

ふと興味を持った劇団で

毒舌だが人なつっこいキミツ(森崎ウィン)と出会い、

少しずつ心を開いていく。

 

タイジが封印していたもの。

それは、母(吉田羊)との関係について。

 

タイジは幼いころから、美しい母が大好きだったが

母は情緒不安定で、イラつくとタイジに手をあげた。

 

17歳になったタイジは

母の暴力に耐えられず、家を出ていたのだ。

 

そして

タイジは大人になったいま再び、母親と向き合うことになるが――?!

 

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母親に虐待されてきた原作者の実話が基。

シビアで重そう・・・・・・と思ってみると

冒頭、歌を歌いながら台所に立つ主人公タイジ(太賀)に

「ん?」となる。

 

その後も、彼が劇団に入ってミュージカルをやったり

なんだか、予想より明るいぞ・・・・・・?

 

イメージと違って

びっくりする方も多いかもしれない。

 

テーマはシビアだけど

監督が目指したのはそこではないようです。

 

虐待のひどい描写などは抑えめに、

それよりも、その経験を経て

いまのタイジが得た、友情やぬくもりを描き、

 

それによって、なにがしかの「希望」を

提示しようとしてるのかなと、思いました。

 

母親の描写にしても

ただ「ひどい母親」「ひどい話」にするのでなく、

それをする背景や理由に心を割き、

虐待をしてしまった人、そして、いま、してしまっている母親を救いたい、

そんな思いが感じられた。

 

まあ、見たときは

タイジは寛容すぎる、とは思いましたけどね(苦笑)。

許せんでしょう、普通。

 

 

おなじみ「AERA」で監督にインタビューさせていただきまして

現在のタイジが感じている平穏が

母親に対して取る、受容と寛容の態度の、理由付けになっているんだ、と

理解できました。

 

原作者の歌川タイジさんは

ゲイであることをオープンにしているんですが

この映画にはその点はまったく描かれていない。

最初はちょっと違和感があったのですが

そこも監督にお話を伺い、目指したものに「なるほど」と。

 

反芻すると、また何かが見えてきた。

 

掲載は少し先、11/26発売号になると思いますが

映画と併せてご覧いただければと思います~

 

★11/17(土)から新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座、イオンシネマほか全国で公開。

「母さんがどんなに僕を嫌いでも」公式サイト

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いろとりどりの親子

2018-11-17 13:58:11 | あ行

 

人はみんな、違うのさ。

 

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「いろとりどりの親子」70点★★★★

 

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「普通」とはちょっと違う子を持つ、親と子のドキュメンタリー。

かつて自身も親子関係に苦悩した

ゲイの作家による、大ベストセラーが基。

 

といってもセクシャリティの問題だけじゃなく

実にさまざまな「違い」があることに驚きます。

 

10年で300以上の親子を取材した

原作者で語り部でもあるアンドリュー・ソロモン氏の案内で

映画は6組の親子を取り上げる。

 

自閉症の息子とのコミュニケーション法を探り

苦悩の日々を続けた両親が

あるきっかけでそれを見出した話や

 

ダウン症の子の可能性を示そうとした両親の努力と

それに応えた息子の話、

 

人生を謳歌する低身長のカップルなど

 

それぞれの親子のとてつもない苦労と困難に思いをはせつつ、

お互いを受け入れ、共存することで人は成り立つのだと

力強く、思わせてくれる。

 

一番、ハッとしたのは

犯罪を犯した息子の家族のエピソードだったなあ。

この視点は珍しいと思った。

 

 

ただね、こういう良作を前に、野暮を承知でいいますと

音楽使いなど、やや「いい話」を盛り上げすぎてる感もあり

ちょっと「善オーラ」がまぶしすぎるなあと。

案内役・ソロモン氏のお宅や暮らしぶりがあまりにリッチなのも

「ふうん」とか。

(心、せま!(苦笑)。実際、彼の父親は大会社の元会長。もともと超セレブらしい。しょうがないよね)

 

「ファミリーを持つことが“幸福”」という印象も

ちょっと型にはまった感があるなあとか

 

そんなふうに思うのは

ワシがひねくれてるからなんでしょうね、はい、ホント、すいません。

 

★11/17(土)から新宿武蔵野館ほか全国順次公開。

「いろとりどりの親子」公式サイト

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おかえり、ブルゴーニュへ

2018-11-17 12:45:26 | あ行

 

ブルゴーニュの畑の四季の

まあ美しいこと!

 

「おかえり、ブルゴーニュへ」70点★★★★

 

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フランス・ブルゴーニュ。

ドメーヌ(ワイン生産者)の長男ジャン(ピオ・マルマイ)が

10年ぶりに実家に戻ってくる。

 

ジャンは10年前、家を飛び出してから音信不通だったが

父が病気だと知り、戻ってきたのだ。

 

ジャンはオーストラリアで自らのワイナリーを立ち上げていた。

 

家業を受け継ぐ妹(アナ・ジラルド)は久々の再会に大喜び。

別のドメーヌの婿養子になった弟(フランソワ・シビル)は

喜びながらも、複雑な感情をぶつける。

 

そんななか、父が他界。

 

兄妹は遺されたブドウ畑や家の相続に頭を悩ませることになる――。

 

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ファミリー・ストーリーとしては軽めでまあ普通だけど、

ワイン知識欲が満たされるのが、たまりません。

 

ブルゴーニュの畑の四季をしっかり追っていて、

さらに収穫、除便率から糖度の計測、醸造まで、

まあソムリエ協会の教本のごとく(笑)、しっかり描かれている。

 

ワインに詳しくなくても

大地に根ざし、自然と対話しながら行われる

「農」という営みの豊かさを

いっぱいに吸い込めると思います。

 

監督は「猫が行方不明」(96年)「スパニッシュ・アパートメント」(01年)でファンの多い

セドリック・クラピッシュ。

この監督はストーリー展開も人物も

どこかもっさりしてるというか

 

プレス資料に書かれた映画評論家・川口敦子さんの

「野暮ったさすれすれの」という表現がピッタリで

 

ワシには、少々「もたっ」と「イラッ」としてしまうところがある(笑)

 

この映画も

畑を売るのか売らないのか、

兄貴がオーストラリアに残した彼女との仲はどうするのか、

いけどもいけども答えは出ず、堂々巡りでイラっとする。

 

まあそこが人間臭いと、人気でもあるのかな。

兄妹、家族って、ややこしくも、なんかいい、ってのはある。

 

 

「ブルゴーニュで会いましょう」(16年)って映画もあったけど

あちらのほうが「ドラマっぽい」エピソードが多かったので

なんか、その話と混ざってしまうのだった(笑)。

 

★11/17(土)からヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開。

「おかえり、ブルゴーニュへ」公式サイト

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鈴木家の嘘

2018-11-16 23:30:09 | さ行

 

もしやと思ったが

やはり監督の体験が基なのか!

 

「鈴木家の嘘」71点★★★★

 

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その日、鈴木家の長男、浩一(加瀬亮)は

自室で自ら命を絶った。

 

何も知らずに買い物から帰った母・悠子(原日出子)は

部屋に入り、長男の変わり果てた姿を発見してしまう。

 

長女(木竜麻生)が家に帰ったときには

母も倒れ、意識不明だった。

 

その後、長く昏睡状態だった母が

病院で目覚める。

 

喜ぶ長女と夫(岸部一徳)だが、

悠子は息子が死んだ日の記憶を、完全に失っていた。

 

「浩一は?」と無邪気に聞く母に、長女は思わず言う。

「お兄ちゃんは・・・・・・アルゼンチンにいるよ!」

 

母を思ってついた嘘が

次第に鈴木家の運命を動かしていく――。

 

 

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力作、と賞賛したい。

 

でも

いつもどおり予備知識ゼロで観に行ったので

タイトルの「嘘」の中身があまりに「え?」で、

実際、すぐに心に入りきれませんでした。

(いえね、よくある「夫の浮気」とか、「息子や娘の恋人がどうだ」・・・とかの

すったもんだ劇、くらいに思ってたんです。スミマセン

 

自ら命を絶った兄。

残された家族は記憶を失った母に

「お兄ちゃんは、生きてる」と嘘をつく、というストーリー。

 

しかもアルゼンチン、て。(笑)

 

身近な人の自死が

残された人々にどれだけ傷を与えるのか。

それは、まさに生き地獄なんだと、

 

映画は

淡々とユーモアすら交えつつ

そのつらさに正面から向き合う。

 

「え」と見る人を戸惑わせつつ、

嗚咽のような痛みと、人間のおかしみのギリギリのバランスを保っている。

なかなか見事な悲喜劇だと思いました。

 

そして、もしやと思いましたが

やはり監督・野尻克己氏の体験が基だそう。

 

 

経験した人にしか描けない、この物語は

同じ経験をした人に、手を差し伸べ、

あらゆる人に、「もしも、自分の身近な人にそれが起こったら?」を想像をさせ、

そのときを支える、大切な杖になるのではと思います。

 

発売中の週刊朝日、「もう一つの自分史」連載で

お父さん役の岸部一徳さんにお話を伺っています。

映画にも絡め、自身の「家族」をも振り返ったお話、

ぜひ映画と併せてご一読くださいませ~

 

★11/16(金)から新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国で公開。

「鈴木家の嘘」公式サイト

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A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー

2018-11-12 23:33:57 | あ行

 

最初は「ん??」って思ったんだけど

異様に残るんですよ、これが。

 

「A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー」72点★★★★

 

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田舎町の一軒屋で暮らす若い夫婦

夫(ケイシー・アフレック)と妻(ルーニー・マーラ)。

 

夫はこの家を気に入っているが

妻は引っ越しを希望している。

 

そんなある日、夫が事故で突然、他界してしまう。

あ然としながら、妻は病院で夫の遺体と対面する。

 

そして妻がその場を離れたあと

死んだはずの夫が、突然シーツを被った状態で起き上がった!

 

夫は自宅に戻り、妻を見守るが

妻は夫には気づかない――。

 

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ケイシー・アフレック×ルーニー・マーラ。

 

妻を想いゴーストになった男の長い長い時の旅。

 

最初、ちょっと怖いんです。

どういうジャンルの映画なのか、まったくわからないから。

ホラーなの?とすら思うような感じ。

 

で、少し進むとこれが

静謐な絵画のような、なんともいえない美しいトーンで

気の遠くなるような永遠に続く時間や、哀しみ、

崩壊を描いていくものだとわかる。

 

でも正直、最初は「???」と思いました。

途中、眠くもなりました。

実際、60点以下かと思いました(笑)。

 

 

しかし!ですね

 

見てから3ヶ月くらいたったいまでも、

ふとしたときに

この映像、この「感覚」を思い出してしまうんですよ。

 

愛する人とのマイホームだった

「その場所」に留め置かれ

 

愛する人が去っても、新しい家族がきても、

はたまた、時間を遡ったはるか昔の「その場所」になっても

彼はずっと、そこにいる。

 

シーツをかぶった姿で、

壁を延々とほじくる、その姿。

 

あなたは、どこに行くの?

 

この視覚体験が、頭から離れない。

 

なんなのだ!というくらい。

この「感覚」をふと思い出してしまう。

 

「アンダー・ザ・シルバーレイク」(18年)とともに

今年の「残る映画」ベストに入りますなあ。

 

この感覚に似ているなと思い出したのは

テレンス・マリック監督の「ツリー・オブ・ライフ」(11年)。そして

深田晃司監督の「さようなら」(15年)でした。

 

のこる、こういう体験って

映画の本当の醍醐味かもしれません。

 

★11/17(土)からシネクイントほか全国で公開。

「A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー」公式サイト

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