自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★金沢の庭好きと資産価値

2005年05月05日 | ⇒トピック往来
 ドイツの詩人、ヘルマン・ヘッセは無類の庭好きだった。死後、庭に関するヘッセの詩やエッセイを集めて「庭仕事の愉しみ」(草思社)が出版された。「青春時代の庭」という詩が載っている。その一部引用である。「あの涼しい庭のこずえのざわめきが 私から遠のけば遠のくほど 私はいっそう深く心から耳をすまさずにはいられない その頃よりもずっと美しくひびく歌声に」。梢のざわめきが美しい歌声に響くほどヘッセは庭をめでたのである。

 ヘッセに負けず劣らず庭好きなのが金沢人ではないかと私は思っている。兼六園というお手本があるせいか、生垣や植栽にいたるまで庭に凝る人が多い。その真骨頂が雪の重みから枝折れを防ぐ「雪吊り」だろう。枝のためにざわざわ庭師を雇い、あの円錐形の幾何学模様を描くのである。もちろん自分でする人も多い。


 実は、この金沢人の凝り性が住宅地の資産価値を高めているという。ある不動産関係者の話である。先ごろ発表された公示地価がことしも値下がりしたが、金沢南部(犀川以南)の丘陵地の地価は依然として強気で、北向きの宅地ですら坪(3.3平方㍍)42万円の値がつく。その理由は、図書館や有名進学校が点在する文教地区であると同時に、植栽のある住宅が多い地区というのがその理由だという。

 住み替えが常識であるアメリカでは資産価値を高めるために芝生の手入れをしているらしい。しかし、金沢のこの地区は決して高級住宅街ではない。ただ、猫の額ほどの土地であっても五葉松などを植え、隅に茶花などを配した庭づくりをして、ヘッセのように楽しんでいるのである。それが結果的に資産価値を高めているのであればそれは喜ばしいことではないだろうか。
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