浪漫飛行への誘(いざな)い

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浮世絵との出会い

2018年05月09日 21時03分02秒 | 芸術
ドイツに勤務していたある日、ちょっと変わったおじさんがカウンターに現れ、浮世絵の話をはじめた。ミュンヘンで展示会か何かをやっていて、その帰りだという。抱えた風呂敷の中に綺麗な浮世絵がいっぱい入っていて、見せてくれた。それから1年後位にまた現れ、浮世絵の展覧会の話になった。彼としては、フランクフルトで浮世絵の展覧会をやりたいが、協力してもらえないかということであった。

当時、オフィスの引越・改造で、展覧会を開催できるようなスペースができたこと、1988年に日本からドイツへの直行便の就航が予定されていて、様々なイベントが計画されていたこと、自分自身、浮世絵に興味があったこと等開催に向けての環境が整っていった。我が方の協力事項は、展覧会会場を無料で提供すること、ドイツ人・在留日本人への告知、浮世絵の摺り道具・浮世絵自体の無料搬送、関係者の宿泊手配(費用は先方持ち)等であった。

先方は、価値ある浮世絵を提供すること、摺りの実演を行うこと(ドイツでは初めて)、浮世絵の鑑定サービスを行うこと等であった。話はどんとん拍子にいったが、いざ実現しようとすると調整することがいろいろあり、大変といえば大変であった。

先方とは、長野県の松本市にある「日本浮世絵博物館」の館長(当時)で江戸時代から続く酒井コレクションの十代目の方で、海外での展覧会を何回も経験され、国際文化交流に尽力していた。酒井コレクションは浮世絵を10万点も収蔵する世界有数の博物館の一つである。

半年ちょっとの準備期間を経て、実現したのは、1988年11月中旬であった。当初、2週間の予定であったが、地元でも注目を集め、3週間に延長した。その間、ドイツ初となる摺りの実演も何回か行い、ドイツ人に人気を博した。鑑定してもらおうと浮世絵を持参するドイツ人もかなりいた。

この浮世絵展に出品された浮世絵は、すべて江戸〜明治時代に摺られたもので、高いものでは、1点で何百万円もするような作品もあり、保険をかけたほどである。また、浮世絵に傾倒したゴッホが描いた絵画のオリジナル作品も2点(ともに歌川広重)展示し、ゴッホの作品も印刷物であるが、オランダのゴッホ美術館から取り寄せ、比較展示し、注目を浴びた。

印刷物ではなく、現代に実際に摺った作品の販売も1点100マルク(8000円位)で行い、かなりの売り上げを得た。その一部の作品をお礼としていただいたので、今でも大事に保管し、我が家の壁に交代で飾っている。特に、美人画は、色鮮やかで我が家を明るくしている。
この浮世絵展の縁で、帰国後も何年か親しくおつきあいをさせていただいた。松本にある浮世絵博物館にも1990年にお邪魔し、屋根裏にある倉庫にも特別に入れていただいた。展示されていない作品が倉庫に埋もるほど収蔵されていて、とくに春画といわれる世には公開できない芸術作品の本物を拝見させてもらった。その色彩といい、その本物の素晴らしさは驚嘆ものである。ほとんどの絵師は、表の浮世絵と裏の春画の両方を描いているとのことである。例えば、東海道五十三次で有名な歌川広重は、色重という名で春画も多数描いているが、ほとんどの人がその素晴らしい作品を見ることができないのはとても残念であると嘆いておられた。今では、代替わりして、彼の息子さん達が帝国ホテル前と浅草寺参道で浮世絵のお店をやっている。松本の博物館は、孫の代の方が代表理事となって運営されているようである。

画像は、摺りの実演風景



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