ユーナが帰って来た。マナがそろそろだから、店の手伝いってことらしいが、店の手伝いにはユイ姉が既に来ている。ベテランママさんだ、十分足りている。
「ユイ姉が来ているってこと知らなかったの?」と訊いた。
「知っていたけど、、マナの赤ちゃん見たいと思って。どうせ暇だったし。」
「暇って、クリスマスは恋人たちの季節じゃないか。このあいだの彼とは別れたって聞いたけど、それでも、新しい恋人を見つける季節だろ?」
「うーん、そうだけど、しばらくはそういうの中止。」
「前の彼とは何か嫌なことでもあったの?」
「んだ、一時期は有頂天になってたじゃねぇか?」とケダが割り込む。
「うん、まあね、よーく考えると好きなタイプじゃなかったみたいさあ。」
「好きなタイプじゃ無いって、やはりあれか、彼はあっちの方だったか?」(ケダ)
「あっちの方って、おかまってこと?・・・それは違うと思う。けど・・・。」
と言って、ユーナは口をつぐむ。あんまり思い出したくないのかもしれない。しかし、野次馬根性の我々は興味がある。
「けど、何だ?」と、ケダマンがすぐに追求した。
「んー、けど、もしかしたらそうかもしれないって思うくらい違和感があったさあ。こんなしゃべり方する男もいるんだって、初めは驚いたさあ。」
「そうか、ユーナが驚いたか。まあ、慣れていないんだな。ユーナにとって男はガジ丸やジラースーだからな。あいつらも俺と同じで乱暴な口だからな。」(ケダ)
「付き合ってから長く話をするようになると、だんだん気になってさ、男のくせになよなよしたしゃべり方すんじゃねぇ!と腹も立ってきたのさ。」
「言葉遣いがちょっとオネェなのはさ、優しさの表現なんだと思うよ。」(私)
「ふむふむ、解るぞそれ、俺の周りにもそういうのいたぞ。優しそうな言葉遣いで女の心を掴もうとしているんだな。結局は女好きなタイプってことだな。」(ケダ)
「そうかもね、あっ、女好きっていったら、ケダと一緒だね。」(ユーナ)
「はっ、はっ、はっ、そうだね。ケダとは同属異種だ。」(私)
台所で料理していたユイ姉が、一皿の肴を我々の前に置いて、話に加わった。
「オネェキャラも面白いと思うけどね、私は。言葉遣いなんて、すぐに慣れるよ。それが別れの理由としたら、相手の男が可哀想だよ。」
「そうだね、確かに。他に決定的な理由があるんじゃないか?」(私)
「女好きだったってことか?」(ケダ)
ユーナは黙っている。どうやら、思い出したくないことはその辺にあるようだ。しばらく三人でユーナを見つめていると、観念したように口を開いた。
「嘘をつくんだよ、あの男。前に一緒に歩いていたのは従姉だって言ってたけど、あれも嘘だったしさ、何人もの女に声をかけていたって聞いたし、決定的だったのは、別の女とキスしている場面を偶然見てしまったのさ。衝撃の場面だったさあ。」
「あー、それは大きなショックだね。言ったの?それを彼に。」(ユイ姉)
「それから数日経って、デートに誘われたから、その時に言ってやろうと思ったのさ。そしたらさ、奴ときたら、何食わぬ顔で私にキスしようとするのさ。」
「ほほう、なかなかやるじゃないかその男、大物だぜ。」(ケダ)
「何言ってる!私、あんまりびっくりして、固まってしまったよ。」
「ふん、ふん、ふん、ユーナがおののけ姫になったか。」(ケダ)
「キスをされそうになって、しかも、奴の手が私の胸に伸びてきたのさ。そしたら全身の毛が立って、怒りが爆発して、思わず殴ってしまった。」
「殴ったって、グーかパーか?」(ケダ)
「グーだよ。当然さあ。頬をめがけてストレートがどんぴしゃ。」
「えっ!それで、相手に怪我は無かったの?」(私)
「口から血を流してたけどさ、大したことないよ。」
本格的にでは無いが、ユーナはジラースーに空手を習っていたことがある。そのパンチは普通の女の子よりは遥かに強いはず。おののいたのはユーナよりも彼に違いない。なので、ユーナはおののけ姫じゃ無く、おののかれ姫と言った方が正解だ。
記:ゑんちゅ小僧 2008.12.19