ユーナが先週末に帰ってきていて、今日もまだいる。巷では先週末からゴールデンウィークのようで、ユーナも休みが続いているのだが、しかし、休みも一昨日までだ。
「昨日から学校は始まってるんだろ?」
「うん、でも別に、2、3日休んだってどうってことないよ。」
「まあ、だな。真面目に学問して偉い人になろうって器じゃないしな。」
「失礼だねぇ、これでも成績は良い方なんだよ。とても優秀ではないけどね。でも、まあね、偉い人になれるなんて自分でも思ってないさあ。」
「うん、なかなか謙虚でよろしい。まあ、自分の食う分は自分で稼いで、真っ当に生きていれば何かしら社会の役には立つさ。それで十分。」
「役に立つって言えばさあ、ケーキ屋さんでバイトを始めてからクッキーやケーキ作りも得意になったんだよ。友達の誕生日なんかに作ってあげてるさあ。」
「クッキー?ケーキ?なんて、まったく興味ないんだが俺は。」
「私の作るお菓子、なかなか評判良いんだよ、何か作ってあげようか?」
「世界的規模の食糧不足になって、最低限生きていけるだけの食糧を確保するために、余計な食い物はできるだけ削除しようとなった場合、人間が食う食い物で真っ先に削除されるべきものはだ、俺が思うに菓子類だな。甘いものはなくてもいいな。」
「えーっ、お菓子のない世界なんて夢の無い世界と一緒さあ。お菓子の生る木が欲しい位だよ私は。むしろさ、最低限って言うならさ、お酒なんて全然いらないよ。」
「何を言うか、酒のない世界なんて・・・おー、そういえば、ある星の話なんだが、あったぞそういうの。酒がなくて、お菓子はたくさんって世界。」
ということで、ケダマン見聞録その29、『ほったら菓子』。
その星は概ね平和であった。平和ではあったがつまらない社会であった。念のために言っておくが、「平和だからつまらない」なんてことは絶対無いぞ。平和だからこそ楽しいことがわんさかあるんだ。その星がつまらないのは、酒文化が発達しておらず、酒を飲んで酔うという概念が存在しなかったせいだ。
酒文化が発達していない代わりにお菓子文化は大いに発達していた。お菓子は、女子供だけじゃなく大人の男も・・・、
「ちょっと待った!」と、ここでユーナが声を上げ、話はいったん中断。
「なんだ、話は始まったばかりだ、腰を折るんじゃない。」
「女子供という表現が差別的だね、取り消してもらいたいね。」
「煩せぇな、じっさい好きだろうがよ、お菓子が、女も子供も。」
「男だってお菓子は食べるよ。」
「そりゃあ食べるさ、一般的な話をしてるんだ。平均的にはとか、一般的にはとか、例外もあるけどとかいちいち注釈入れなくても分かるだろうがよ。」
ユーナはなおも不満そうな顔をしていたが、話を再開する。
その星の人類のほとんど、老若男女問わず、甘いもの好きで、そのせいか人々の心は甘く、穏やかで優しい性格をしていた。そのお陰で、その星の平和が続いていたのかもしれない。また、そのせいで酒文化が発達しなかったのかもしれない。
お菓子文化が発達し、お菓子の科学も進歩したが、お菓子の生る木は無かった。甘いもの好きは果物も好きであった。木に生る甘いものは果物で十分だったのだ。
お菓子の生る木は無かったけれど、お菓子のできる野菜はあった。地球でも落花生は炒れば菓子になる。ジャガイモは薄くスライスして油で揚げれば菓子になる。しかし、その場合はどちらも土から掘り出して、そのまますぐには食えない。ところが、その星には、土から掘り出して、洗って、皮を剥けば、そのままお菓子としてすぐに食べられる植物があったのだ。品種によってチョコ味、キャラメル味などいろんな味が楽しめた。
その野菜はまた、育てるのに手間もかからない。種を植えて放っておけば、勝手に育って、そのうちジャガイモのようにして地下にお菓子ができた。
「いいなぁ、それ。欲しいね地球にも。」と、ここでまたユーナが話の腰を折る。
「まだ、終わってないぜ、最後のオチが・・・、」
「オチなんて聞かなくてもいいよ別に、どうせ駄洒落でしょ。地下にできるから『掘ったら菓子』って名前なんでしょ。放ったらかしでもできるんでしょ。」
「あっ、コノヤロウ、俺が一番言いたかったことを先に言いやがって!」
ということで、見聞録その29『ほったら菓子』は終了となった。
語り:ケダマン 2009.5.8