今朝、マナが双子を連れて帰省、約二ヶ月ぶりのこと。双子の面倒を見ながらカウンターに立つ。客はテーブル席に初老の夫婦、前田さんだ、私とは顔見知り。カウンターにトシさん、テツさんの二人組。二人は勝さん、新さん、太郎さんが旅している間、ユクレー島の物資運搬係を代わりにやっていたが、既にそれもお役御免となった。でも、まあ、その付き合いから、以前よりもなおいっそうユクレー屋の常連となっている。
マナがカウンターに立つとガジ丸一行はいつもより早くユクレー屋にやってくる。マナの体を気遣うジラースーが仕事を急がせるかららしい。で、今日も夕方には、この季節だとたっぷりと明るさの残っている時間に一行はやってきた。
「マナ、代わろう。」と、来てすぐに、ガジ丸がマナに声をかける。
「えっ?・・・あー、まだ大丈夫だよ。」とマナは応じたが、
「お前の愛しい亭主のご要望だ。」ということで、ガジ丸がカウンターに立つ。
「マスター、」と呼ぶに相応しい雰囲気を、悔しいが、ガジ丸は持っている。
「マスター、何か、美味い肴は無いの?」と訊く。
「別に、肴が無くても酒は旨いぜ。」
「そりゃあそうだけど、マナかウフオバーが何か準備してるんだろ?トシさん、テツさんもテーブルの前田さん夫婦も何か食べているじゃないか。」
「これは、その前田さんご夫婦の差し入れですよ。」とテツさんが答える。
「へー、そうなんだ。何なの?」と私は言って、テツさんの手元の皿を見る。何か和え物のようだ。夫婦の方に目をやると、二人してニッコリ微笑んだ。
「庭のモーウイです。こっちへ来る前に採って、サッと調理しただけの、たいした料理じゃないですけど。」と前田さんの奥さんの方が答えてくれた。
「ほう、どれ一つ。」と、私より先にガジ丸が口にする。それを飲み込んで、
「おう、なるほど、奥さん、腕は確かだね。」と感想を述べる。
「あー、俺も欲しいな。」と私も手を伸ばした。確かに美味い。
「素材が新鮮であることもご馳走だが、その新鮮さを十分活かしてるよ。」(ガジ)
「素材の味が生きているってことだ。」(私)
「モーウイが美味しく育ちたいと思ったのでしょう、きっと。」(前田夫)
「育ちたいと思うように育つっていいね、この子達はどう育ちたいんだろう。」とマナは言って、乳母車の双子を覗き込む。ジラースーも一緒に覗き込む。
「生きるために生まれてきたんだ、生きるためにと考えれば形は自然にできあがる。」とジラースーが赤ちゃん二人に語りかける。
「生きるためにと考えれば体は自然にできあがる。」というのが自然の掟なんだが、ところが、人間という生き物は生きるため以上に食べて、健康を考えずに食べたりもするから、不自然な形になる者も多い、というような話に、その後進んだ。
「マミナ先生がいたらウチアタイ(心当たり)するだろうね。」
「マミナはあれで自然なんだ。形は人それぞれさ、健康であればいいんだ。」とガジ丸が言って、それがこの話の結論となった。確かにその通りと思う。
記:ゑんちゅ小僧 2009.8.7