10年前に、姉の長男(甥S)のために泡盛の10年古酒入り5升甕を買った。甕の表には彼の名前と購入した日付が彫られてある。その5年後には次男(甥T)のために泡盛の10年古酒入り5升甕を買った。甕の表には彼の名前と購入した日付が彫られてある。二人がそれぞれ二十歳になった時に、それぞれの蓋を開けて酒を楽しもうという計画。その日が来たら、Sの甕は20年古酒になっており、Tの甕は17年古酒になっている。
二人の甥は両親と共にアメリカに住んでいる。次男のTは沖縄で生まれたが、育ちはずっとアメリカで、長男のSは生まれも育ちもアメリカである。二人とも日本語より英語の方がはるかに達者である。それでも彼らには沖縄にたくさんの友人がいる。アメリカの学校は夏休みが長く、だいたい6月からの3ヶ月間あって、彼らは6月の半ばに沖縄にやってきて、夏休みに入るまでの約1ヵ月は学校に通っていたのである。小学校、中学校、高校も特例として彼らを受け入れてくれた。しかも無料で。さすが沖縄。
Tは高校三年の去年まで毎年沖縄に来ているが、Sは沖縄の空気があまり好きでなかったのか、高校二年からは来なくなっていた。 それでもSは、高校一年までに小学校、中学校、高校のそれぞれで友人を多く作っていた。去年、二十歳になったSは、その友人たちと成人式を祝うため今回、数年ぶりの沖縄訪問となり、そのついでに、叔父からの贈り物である泡盛古酒入り酒甕の口切式をやることになったのである。
10歳のSが、「これはお前の酒だ。お前が二十歳になった時に蓋を開け、一緒に酒を酌み交わして成人を祝おう。」という叔父の話を覚えていたわけでは無かろう。むしろ、そのことを楽しみにしていたのは彼の父親の方で、「叔父さんが十年前に買った泡盛の酒甕」の話は、アメリカを発つ前に父親から聞かされたのであろう。ビール党で、泡盛は好きじゃないという彼にとっては、20年古酒といえどほとんど魅力は無い。叔父に気を使って、付き合ってくれたのであろう。優しい奴である。
口切式は今週の月曜日(9日)に行った。私の実家に、Sと彼の友人二人の合わせて三人の新成人が集まった。その友人の一人はTといい、私もよく知っている。Tとは家族ぐるみの付き合いがあるので、その両親と妹、それに私の両親(彼の祖父祖母)を加えて総勢9人によって、泡盛古酒入り酒甕口切式が行われた。
泡盛が好きじゃないというSは、ちょっと口をつけただけで、「臭えー、飲めねー」だったのだが、泡盛二十年古酒はじつに旨かった。あんまり旨かったので、今年、何らかの理由を考えてもう一甕購入しようと、私は決心したのであった。
※泡盛の酒甕の蓋を開ける口切式という行事は、沖縄の伝統行事には無い。私が勝手にそう名付けただけのもの。ちなみに、『口切り』という言葉は広辞苑にあり、「密封した容器の口を開くこと」となっている。また、「新茶の茶壺の口を切ること」もいう。
記:ガジ丸 2006.1.14 →沖縄の生活目次