9月中旬頃から南の島沖縄も朝夕はだいぶ涼しくなった。涼しくなると私は眠り姫のようによく眠る。朝起きるのが辛い。目覚まし時計をオフにしているのでほとんど毎日寝坊している。それまでは5時前起床6時出勤が、9月は6時過ぎ起床7時過ぎ出勤という日が多い。「早く寝れば早く起きる」と思ってここ数日は9時過ぎに就寝しているが、それでも目覚めは6時過ぎ、寝ても寝ても寝足りない、そんな季節となった。
寝ている間に何度かレム睡眠を繰り返し、いくつもの夢を見て、そのたびに目覚めかけて、「今の夢は面白かったなぁ」と夢を思い返しながら、一度はトイレに立つこともあるが、概ねははっきりと目覚めることなくすぐにまた眠りに入る。トイレ時間も含め目覚めているのは10~15分くらいだ。なので、8時間半以上は眠っている。
それだけ眠れば体はリセットされているはずだ。確かに朝は元気に畑へ出勤している。しかし、しゃがんでの草刈作業、1時間もしない内に腰と膝が痛くなり、たっぷりの休憩が必要となる。晴れて太陽が照りつけていると暑さに参って、すぐに青息吐息となる。十分の睡眠も衰えた体を若者に変えてくれることまではしてくれないようだ。
ニリクサリユンはウチナーグチ(沖縄語)で、それはそのままでは沖縄語辞典に載っていない。載っていないけれど「ニリクサリッサー」という表現で良く聞かれる言葉だ。ニリクサリユンは合成語で、ニリユンとクサリユンの2つの動詞を組み合わせたもの。
ニリユン、クサリユンは辞典にある。ニリユンは「飽きる、いやになる」といった意、クサリユンは「腐る」といった意。クサリユンは食べ物が腐った時に使うが、和語と同じく「心が腐る」意味でも使える。ただし、「クサリッサー」と単独で聞かれることはほとんど無い。ニリユンは「ニリッサー」という表現をよく聞く。同じこと(特に同じ失敗)を繰り返した時などに使い、「嫌になるなぁ、疲れるよ」といった意味になる。
ニリクサリユンはニリッサーでも言い足りないほど嫌になった場合に出る。なので、落胆した時に口から思わず出てしまう感嘆詞「アギジャビヨー」がその前に付いて、「アギジャビヨー、ニリクサリッサー」とガックリ肩を落とす光景をよく見る。
「にりくさりっさー!」のシチュエーションは日常にいくらでもある。一昨年も去年も今年も貧乏農夫は台風に痛めつけられている。吹き飛ばされたゴーヤーを見て、倒れたバナナを見て、倒れたグヮバを見て「にりくさりっさー!」と吐く。一昨年も去年も今年も貧乏農夫は害虫にも痛めつけられている。虫に食われたヘチマやトウガンを見て、カタツムリに食われたパパイアを見て「にりくさりっさー!」と吐く。
病院嫌いの私は、ここ40年ほど検診を受けたことがなく、ちゃんと検査した訳ではないが、間違いなく老化している。前述したように肉体的老化ははっきり自覚している。筋肉の老化だけで無く空間認識能力も衰えている。畑では、自分が刈った草に足をもつれさせ、身長より低い位置にあるパイプには、そこにあると熟知しているのによく頭をぶつける。釘を打つ時に左手甲を何度ハンマーで叩いたことか。家では、家具の角に体をよくぶつけ、洗い物をしていると食器を落とす。コーヒー豆の箱を落とし床にばら撒いたりもする。そういった時などに「にりくさりっさー」となる。辺野古基地に関する官房長官の、木で鼻を括ったようなコメントを聞いた時などにも「にりくさりっさー」は使える。
記:2015.10.2 島乃ガジ丸
自給自足芋生活を目指している私は、基本の主食として芋(甘藷)を植えているが、その他、主食になりうる澱粉質としてサトイモ、キクイモ、キャッサバなども植えている。サトイモは小さくて主食とするには量が足りないが、美味いので酒の肴には最高。キクイモはさらに小さく、薬効はあるらしいが、これも主食とするには量が足りない。
キャッサバは良い。蒸したり茹でたりして食えばまあまあ美味いし、澱粉を製粉すれば長持ちするし、それをタピオカとして食えばなお美味い。そして、挿し木で簡単に増え、1株からの収獲量も多い。芋(甘藷)の代わりの主食として十分成り立つ。
そのキャッサバ、「1株からの収獲量も多い」と判ったのはつい最近のこと。西原の畑ナッピバルに十数株あり、過日、その1株を掘り採ってみたら思いの外、予想していた4倍位の収獲量があった。主食として食ったとして10食分は余裕の量であった。キャッサバは、宜野湾の畑ナツヤにはナッピバルのそれの倍以上の量がある。
「過日、掘り採ったキャッサバの1株」は、主食の用途にするつもりで掘り採ったのではない。自家醸造果実酒グヮバ酒を作っている時に閃いた。「果実からも酒はできるが、米、芋などの澱粉質からも酒ができる。キャッサバ芋は澱粉の塊みたいなものだ、当然、酒の材になるはず、作ってみよう」と思い立って掘ってみたわけ。
当初は、「4~5株掘れば1升の酒ができるかな」と予想していたのだが、1株掘り採ってみると、私が予想していた4~5株の量が1株で十分あった。
掘り採ったその日(9月16日)に早速、酒造りにとりかかる。皮を剥いて、細かく切って、蒸して、潰す。潰している時、餅のように粘りがあることを知る。「澱粉質が豊富なんだ」と判断し、良い酒になるはずと期待が膨らむ。
潰したキャッサバは良い香りもした。美味しそうな匂いだ、ちょっと食べてみた。微かに甘みもあって美味い。で、閃いた。フライパンに油を引き、潰したキャッサバをお好み焼きのように焼いてみた。焼きあがったものはそのまま美味しく、醤油をつけて美味しかった。「こういう食べ方もできる、主食として飽きないな」とほくそ笑む。
潰したキャッサバ、そのまま水を加えてもアルコール発酵は期待できない。日本酒造りに使った米麹が少し残っていたので、十分冷めてから米麹を加え、混ぜる。
麹菌は「アミラーゼを生産し澱粉を糖に変える」(広辞苑)でアルコール発酵はしてくれない。アルコール発酵は酵母菌だ、酵母菌は「アルコール発酵を営む」(広辞苑)で、パン作りに用いるイースト菌は酵母菌の一種。家にイースト菌はある。が、今回それは使わなかった。日本酒造りでもイースト菌は使っていない。部屋の中に酵母菌があると期待し、その期待通り日本酒造りは成功した。キャッサバ酒もそれと同じ期待をする。
米麹を混ぜたキャッサバに約2リットルの水(水道水)を加え寝かす。2日後から沸々と泡が立ち始め、3日後には強いアルコール臭がするようになった。期待通り部屋の中に酵母菌が存在していたわけだ。5日後に搾って、その夜飲む。
米麹の匂いも少しするが、ヨーグルトの匂いもする。乳酸菌発酵もしているようだ。なので、甘みもあるが酸味も強い。酒造りの参考書には確か、アルコール発酵の後に乳酸菌発酵が来るとあった。もう1日早く搾れば酸味は弱かったかもしれない。
キャッサバ酒、少々残念な結果になったが、不味くは無いのでほぼ毎日飲んでいる。アルコールも入っているアミノ酸たっぷりの酢を飲んでいると思えば、健康には良いに違いない。キャッサバ、何はともあれ、酒になると判っただけでもめでたしめでたし。
記:2015.9.29 ガジ丸 →沖縄の飲食目次