熊谷守一を題材とした映画があると聞いたのは3ヶ月ほども前だったか、それが桜坂劇場で上映されると聞いて喜んだのは2ヶ月ほども前だったか、6月30日から上映されると聞いて、7月の第一週には早速観に行こう決めた。土日は混む、映画館がではなく道が混むので土日祝祭日は避け、傘を差すのが面倒なので雨の日も避ける。
7月第一週の平日はずっと雨、第二週の9日~11日は台風接近のためその台風対策や台風後の後片付けなどあって、12日~13日は台風対策で動いたせいか腰痛が酷くて映画は断念。第三週の18日になってやっと映画を観に行く機会を得た。
映画館で映画を観るのは久しぶり。3月28日に見て以来だから約4ヶ月ぶり、その前は去年9月19日だった。月に1回は映画館に通っていた映画少年も今は年取って、体にも心にも元気が無くなってしまったようだ。お出かけが面倒となっている。
しかも、腰痛を患って以来、映画を観ることが少々怖くなっている。同じ姿勢を長く続けると腰への負担が大きく、腰痛が悪化するということを経験で知っている。それでもなお、今回映画を観に行った。「ぜひ観たい」という気持ちが強かった。
観た映画は『モリのいる場所』、題材となっている熊谷守一は私の大好きな画家。その存在を知ったのはせいぜい15~6年前だと記憶しているが、知って、その作品(実物ではない、画集か何か)を観て、すぐにファンになった。「こんな絵が描けたらいいなぁ」と思った。守一の「下手も絵の内」という言葉には元気付けられた。
主演の老夫婦を演じている2人は名優で、妻役の樹木希林は元々好きな女優で、守一役の山崎努は渋い深みのある役者だと認識していたので、彼らについての感想はただ「感服しました」としか言いようがない。ただ、山崎努演じる熊谷守一は私の想像するものとは少し違っていた。山崎努の目には物事を洞察する力と知恵の光があるように感じた。私の想像する熊谷守一は、何でも許してくれそうな柔らかい目をしている人。
「柔らかい目をしている人」を私の脳に残っている記憶から探してみる。笠智衆、加藤嘉、宇野重吉の、昭和を代表する名優の顔が浮かび出た。
笠智衆は小津安二郎の映画や『男はつらいよ』で有名。加藤嘉は映画『砂の器』でよく覚えている。その映画では悲運な父親役であったが、その後、テレビドラマなどで見る加藤嘉は笑顔に優しさが溢れる老人という印象が強い。宇野重吉は、出演している映画、あるいはテレビドラマは思い出せないが、テレビコマーシャルの和尚さん役が私の脳に記憶として強く残っている。「カンラ、カンラ」と明るく笑う和尚さん。そのテレビコマーシャルが日本酒の松竹梅で、石原裕次郎が共演だったことも覚えている。
映画を観終わって、車を運転している間ずっと、熊谷守一、笠智衆、加藤嘉、宇野重吉の顔が頭の中をぐるぐる回っていた。終いには「あー」と溜息が出た。
「あんな爺さんになれたらいいなぁ」と思い、「これまであんな爺さんになれるような修業をしてこなかったから無理だろうなぁ」と思い、「早く死んでしまえば良いのにと周りから思われるような淋しい爺さんなるだろうなぁ」とまで想像して、「あっ」と気付いた、「俺は父に対しそんな態度ではなかったか」と。そう気付いて溜息。
記:2018.7.19 島乃ガジ丸